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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊷




路上


椎野と真宮は、今御子紫たちがいる空地へと向かっていた。 走りながら、隣にいる真宮に椎野は尋ねかける。
「真宮! 真宮、大丈夫か?」
「え?」
「その怪我だよ」
「・・・」
だが彼は何も答えず、そのまま黙り込んでしまった。 
その理由は、今真宮には“結黄賊としての行動は慎むように”と言われているため、手を出してしまったことに罪悪感を抱いていたから。
これは結黄賊としてのためではなく自分のために行動をしただけなので何も問題はないのだが、ここでそう説明しても言い訳にしか聞こえないと思ったからだ。
だが椎野は、その不安を吹き飛ばすような言葉を笑顔で口にした。
「まぁ、藍梨さんは見る限り無傷だったし? それに真宮自身も吹っ切れたなら、いいんじゃないか」
「ッ・・・」
リーダーからの命令には触れずに、真宮のことを第一に考えて発してくれたその言葉。 それを聞いて真宮は少し申し訳なくなり、小さな声で礼を言った。
「・・・ありがとな、こんな俺のために」
「え?」
「いや、何でもない」
少し微笑みながら発した言葉は惜しくも椎野には届かなかったが、もう一度言うのには気が引けたのかこの場を軽く受け流す。

そんな会話をしているうちに、椎野たちは空地へと着いた。 
クリアリーブルが誰もいなく結黄賊しかいないこの光景を見て、二人は警戒しながら御子紫たちのもとへ足を進める。
―――何だ、これ。
―――誰も・・・いないな。
―――つか、何だよこの重たい空気。
「ここにクリーブルは来なかったのか?」
「・・・来たよ」
椎野がここにいる仲間に言い放った言葉を、御子紫が拾い返事をした。 その答えを聞いて、更に尋ねかける。
「だったらクリーブルは無力化してこの場に倒れているはずだろ? どうしてここにいないんだ。 どこへ行った?」
「・・・帰った」
「帰った?」
先刻からずっと俯いたままで返事をし続ける御子紫。 なおも混乱している椎野と真宮に、彼は一言で説明をし始める。

「夜月が、クリーブルに入ったから・・・『今日はもういい』って言って、帰っていったよ」

「「は!?」」

あまりにもざっくりとしたものだったが、椎野たちには“夜月がクリーブルに入った”という言葉だけが何度も脳裏にリピートされた。
―――夜月が・・・? 
―――どうして!
「コウ。 この話は本当なのか?」
「あぁ」
その発言を、真宮はもう一度コウに確認をとる。 そしてついに御子紫は冷静さを失い、突如大きな声を張り上げた。
「俺たちはクリーブルに狙われているし、夜月もおかしくなっちまった! もう俺たちはこれからどうしたらいいんだよ!」
感情的になっている彼をみんなが黙って見守っている中、椎野はふとコウの異変に気付く。

~♪

そんなコウのことを見据えていると、突然椎野の携帯がこの場に鳴り響いた。 相手が北野からだと分かると、この場の気まずい空気には構わず電話に出る。
「どうした?」
『もしもし椎野? そっちは大丈夫?』
「あぁ。 クリーブルはもういないよ」
『そっか、よかった。 ユイがさ、倉庫に集合してほしいって』
―――倉庫?
―――・・・あぁ、さっき未来にそのようなことを言っていたな。
その言葉に、コクンと頷きながら言葉を返す。
「分かった。 みんなに言って連れて行くよ」
『うん、ありがとう。 頼んだよ』
「あ、そうだ。 優たちは? 連絡しておこうか?」
ふと優と悠斗のことが頭を過った椎野は、彼らのことを尋ねてみた。
『あ、優たちは呼ばなくてもいいって。 このことはすぐに解決すると思う。 それにこれ以上不安な思いを、抗争に参加できない二人にはあまり与えたくないって』
「・・・そっか」
『うん、じゃあまた後で』
北野が口にした“このこと”とは、夜月がクリアリーブルに入ったということだろう。 
それに結人からではなく北野から電話がきたということは、結人は今頃精神的なショックをかなり受けているのだろう。 
そのようなことを考えながら、椎野はこの場にいるみんなに向かって口を開いた。
「将軍からの命令だ。 これから倉庫へ向かおう」
「ユイは夜月のことを知っているのか?」
真宮の問いに対し、複雑そうな表情を浮かべながら椎野は言葉を紡ぎ出す。
「今の電話は北野からだ。 ユイから直接電話がこなかったっていうことは、今のユイは精神的にかなり参っている状態だと思う」
「あぁ・・・。 そっか」
「うん。 じゃあ行こうか」
彼も結人の感情を感じ取ることができたのか、すんなりとその言葉を受け入れた。 そしてここにいる結黄賊らは、倉庫へと足を向かわせる。
何も口を開かずに黙って歩いていく仲間をよそに、椎野は一人の少年を呼び止めた。
「コウ」
するとコウはその場に立ち止まり、後ろへ振り返る。 “何を言われるのか分からない”といったような不思議な表情を見せてくる彼に、苦笑しながら言葉を綴った。

「コウ。 何があったのか、詳しくは分からないけど・・・よく頑張ったな」

「ッ・・・」

椎野からの言葉が何かに触れたのか、少し反応を見せる。 だがすぐに目をそらし、小さな声で言葉を返した。
「今は俺じゃなくて、夜月とユイのことを心配してやってくれ」
それだけを言い残し、コウは御子紫たちに続いて倉庫へと向かった。 そんな彼の背中を少しの間見つめた後、椎野も彼らに続いて歩き出す。

―――夜月、か・・・。
―――今まで結黄賊を裏切ってクリーブルに入るような、そんな素振りを見せていなかったからな・・・。
―――この短時間で、一体何があったんだろう。

夕焼け色に染まっている空を見上げながら、一人そう考えた。


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