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結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑳




クリアリーブル集会


ここにはたくさんのクリアリーブルが集まっている。 初の集会だというのに、こんな混乱に陥るなんて誰が想像していただろうか。
当然この状況で、冷静になっている者など誰一人居なかった。
「ユイ、その鉄パイプはどこにあるんだ!」
『えっと確か、未来が鉄パイプを正彩公園に隠し・・・あ』
「? ・・・何だよ」
『・・・悪い、どこに隠したのか聞き忘れた』
「はぁ!?」
『だから悪い! こっちに来ながら探してくれ!』
「ったく、どうしてそうなるんだよ・・・ッ!」
通話越しから申し訳なさそうな発言が聞こえると同時に、伊達は携帯を耳から遠ざけクリアリーブルの仲間である友達らに言葉を放った。
「ごめん、俺は今からユイのところへ行ってくる!」
「は? え、ちょ、待てよ! 逃げるなら俺たちも逃げるぞ!」
「ここにいるクリーブルの人を置いて逃げては駄目だ! ユイが今、大変な状態になっているから俺はそっちへ行く」
「でも・・・」
不安そうな面持ちで止めようとする友達らに対し、それぞれに指示を出す。
「俺がユイのところへ行っている間、みんなには頼みたいことがある。 未来って奴、知っているだろ?」
「あぁ・・・。 結黄賊の?」
そう口にした少年を見て、伊達は静かに頷いた。 かつて彼らは、未来という少年に助けられたことがあるため、当然憶えていて今でも感謝している。

「その未来も今、危険な状態になっているらしい。 だからこの中で二人、今すぐ未来を捜しに行ってほしい。 どこにいるのかは、分かんねぇけど」

「うん、分かった」

「そしてここに、後で夜月たちが来るみたいだ。 一度、文化祭で会っているから分かるよな? だから残りの二人は、ここで彼らが来るのを待っていてほしい。
 この集会をどうするのかは、夜月たちの判断に任せていいから」

「「「「分かった」」」」

「じゃあ二人ペアも、勝手に決めてくれていいから!」
その一言を最後に、伊達はこの場から走り去った。 だがあることを伝え忘れたことに気付き、走りながら顔だけを友達らへ向けて大きな声で言葉を放つ。
「そうだ! 未来を捜しに行くなら、正彩公園にいる椎野って奴も連れていけ! ユイからの命令だと言えば、分かると思うからー!」
その声が届いたのか、片手を上げ“了解”という合図を送ってきた。 それを見るなり、進行方向へ再び視線を戻し走ることに集中する。
「ユイ、鉄パイプってどういうところにあるんだよ?」
結人が監禁されている場所を聞き、その方向へ向かいながら周囲を見渡した。 だが地面に落ちているのはゴミばかりで、鉄パイプなどのモノは見受けられない。
『そうだなぁ・・・。 路地裏とか・・・?』
「路地裏?」
そう言われ、伊達は薄暗い路地裏を発見するたびにそこへ入り、何か使えそうなものが落ちていないかと必死に探す。 その状況の中、一つのことを質問した。
「そう言えばみんなは、ユイが今みたいな状態になっているっていうこと・・・知らねぇのかよ?」
路地裏に置かれているゴミ捨て場付近を漁りながらも、結人からの返事に集中する。
『さぁな。 どうだろ。 勘がいい奴は気付いていそうだけど、他のみんなも今はきっと、大変な状態になっているだろうからな・・・』
「・・・」
伊達は結黄賊のみんながどこへ行って何をしているのかもさっぱり分からないため、何も言い返すことができなかった。
だがここで彼らのことを聞いてしまうと、より結人を不安にさせてしまうと思いこれ以上問うことを止める。
『そんなことより、お前は本当にここへ来るのかよ?』
「は? 当たり前だろ」
呆れ口調のその問いに、当然のように即答した。 すると突然、電話越しからは結人の笑い声が聞こえ始める。 笑い声というより、苦笑に近いものだったが。
『何だよ。 お前って、結構怖いもの知らずなんだな』
「え?」
その言葉に、しばし考えてから返事をする。
「・・・ちげぇよ。 もし俺が怖いもの知らずだったら、とっくに藍梨に告白しているはずだろ」
『告白・・・か』
突如、電話越しから結人の寂しそうな声が聞こえた。 だがそんな彼のことは気にかけず、ふと思い出したことを口にする。
「あ、そう言えば藍梨は? 藍梨は今、どこにいんだよ」
彼女のことを心配しながらも、路地裏へと足を運び探し続けた。
『藍梨? 藍梨は今、真宮と一緒にいるよ』
「ッ・・・」

―――真宮・・・か。
―――真宮も色々あって、可哀想だよな。

クリアリーブル事件の真相を悠斗の病室で全て聞いていた伊達は、申し訳なく思いつつも彼に同情する。
―――真宮は今、結黄賊のみんなと仲よくやれているのかな。
そんな悲しい気持ちになっていると、茶色い棒状のようなものがふと目に入った。
「ッ、あった!」
『マジで!?』
路地裏にある大きなゴミ箱の下に、下敷きにされているように転がり落ちていた錆びた鉄パイプ。 運よく二本あり、伊達はそれらを思い切り引き抜いた。
―――よし、これでやっとユイのところへ行ける。
再びやる気を出し、路地裏から出てクリアリーブルのアジトへ向かった。 
当然アジトにはたくさんの男がいてリンチに遭うのかもしれないが、そんな恐怖よりも今は結人を助けたいという一心で行動を起こしている。
だが伊達は生まれた時から立川にいるものの、こんなに人通りが少なく気味が悪い場所へ来たのは今日が初めてだった。
「こんなところ、来たことねぇよ。 ・・・どこだよ」
道に迷いながらも、必死に周囲を見渡しながら足を前へと運び続ける。
『大丈夫か? 俺もこの場所は詳しく知らねぇから、来た道でしか教えられないんだ・・・。 悪い』
謝罪の言葉を聞き流しながら、結人のいる場所へと向かおうとする。 が――――その時。

「おい、誰だ!」

「ッ!」

―――マズい。
人が通らない道に一人で堂々と立っていたせいか、突然背後から聞こえた怒ったような声が伊達の身体に鋭く突き刺さる。
だが後ろへ振り返る間もなく、その声が耳に届いた瞬間その場から走り去っていた。
「あ、待て!」
―――マズい、マズいマズい。
『おい伊達、大丈夫か?』
電話越しからは、焦ったような結人の声が聞こえてくる。 伊達は意を決し、何者かに追われる気配がする後ろへと振り返った。
そこで目にしたものは、二人の男が追ってくる姿。 こんなところにいるということは、アイツらはクリアリーブルにちがいない。
『伊達、返事をしろ!』 
電話越しから聞こえたその声に、今は走ることに集中したいため結人にこう言い放つ。
「ごめん、クリーブルに見つかった。 電話を切る!」
『え? ちょ』
「撒いたらまた連絡するから!」
それだけを言い、彼からの返事も聞かずに自ら電話を切った。 そして両手に鉄パイプを持ち替え、男らから距離をとるために一生懸命走る。

―――つか、こんなもの持っていたら完全に俺疑われるじゃん!

そんなことを思いながらも、結人のもとへ行きたいという気持ちは変わらない。 そのためには、追いかけてくる男らをどうしたらいいのか。
そのことだけを考えながら、伊達は前へと走っていた。


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