結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉑
同時刻 正彩公園
「暇だなぁ・・・」
結黄賊の仲間がそれぞれの場所へと移動し、伊達も結人のところへ向かっている頃、公園に取り残された3人はその場に静かにたたずんでいた。
後輩たちがここへ来るまで待つよう命令された椎野、コウ、御子紫は緊張感があまりない中、仲間をずっと待ち続けている。
連絡しても後輩たちには当然予定があるためすぐ行動に移せないのは確かだし、電車で来ても30分以上はかかる。 そんな中、御子紫は携帯を見つめながら小さく呟いた。
「今思ったけど、とっくに13時過ぎているのな。 クリーブル集会はもう始まっているのか・・・」
「夜月たちは無事集会へ辿り着くことができたのかな」
御子紫の呟きに続き、コウも小さな声でそう口にした。 そしてしばしの間沈黙が訪れるが、御子紫が不安そうな面持ちでこの静けさを自ら破る。
「俺たちもこれから、何をされるのか分からないんだぜ!?」
「そうだな。 派手な事件にならなければいいけど」
「前もって考えておこう。 俺たちがこれから、されることと言えば・・・」
椎野の言葉を聞き流しつつ、御子紫はこの先に起こることを予想し始める。 それよりも先に、コウが自分の予想を口にした。
「拉致・・・とか?」
「ッ・・・! コウ! そんなリアルなことを口にすんなよ!」
「悪い悪い。 そのくらいは、覚悟しておいた方がいいと思ってな」
「3人で拉致されるならまだしも、この中で一人だけ拉致されるのは本当に嫌だな」
「大丈夫だって、そんなことはされねぇよ」
「だってコウが今そう言ったじゃんか!」
珍しく御子紫はこの状況に不安を感じている様子。 そんな彼らを横目で見ながら、椎野は優しく微笑んだ。
―――まぁ、このメンバーなら大丈夫だろ。
―――喧嘩に強いコウがいるし、負けるはずがねぇさ。
当然のように勝利を確信していると、遠くから次第に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「先輩ー!」
「お、来た来たー!」
彼らが結黄賊の後輩だと分かると、御子紫の表情には笑顔が戻る。 そんな彼を見て、椎野は一安心した。
「よく来たなお前ら! えっと、1、2・・・。 あれ、全員来たのか」
「もちろんです! すぐみんなに連絡して、走って駅へと向かいました!」
御子紫の言葉に、後輩の中でまとめ役である春馬が力強く言葉を発した。 それを聞いて、彼は再び笑顔になる。
「そうかそうか、やはりお前たちは俺たちにとって自慢できる後輩だな! じゃあ、早速で悪いんだけど・・・」
後輩と一番仲のいい御子紫がこの場を仕切った。 そして彼は、後輩らの中へ自ら入り込んでいく。
「よし! 今俺が分けた半分・・・の、こっち側! お前ら5人は、今すぐクリーブル集会へ向かってもらう」
「クリーブル集会っすか?」
「そう。 場所は口で説明するだけで分かるか?」
「携帯で地図を見ながら行くので大丈夫です!」
「頼もしいな。 じゃあ場所を教えるぞ、まずこの公園を左に出て・・・」
そして後輩たちに集会が行われている場所を教え始めてから、数分後――――
「分かりました。 この広場でいいんですよね?」
「そうだ。 その集会には既に夜月と北野が向かっている。 だからまずはその二人と合流しろ? そこで何をすればいいのかとか、指示は夜月たちに聞いたらいい」
「「「「「了解です!」」」」」
了解を得た後、続いて椎野も彼らに向かって言葉を放った。
「夜月たちから何も連絡が来ていないから、向こうでは今何が起こっているのか分からない。 だから油断はするな。 覚悟していけよ」
「「「「「はい!」」」」」
そして時間もないため、指示を出した後は後輩たちにすぐ集会の場所へ向かわせる。
「お前ら、頑張れよー!」
御子紫は大きな声で片手を振りながら、5人の後輩らを見送った。 一番後輩らと絡むことが多い彼は、迷うことなく指示を出すことができる。
そんな御子紫に、椎野は少し尊敬していた。 5人の後輩らを行かせ一つの目的を達成したみんなは、次の目的へと思考を変える。
「それじゃ、時間もあれだしそろそろ俺たちも指定された場所に・・・」
「あのー! すいませーん!」
「ん?」
御子紫の発言を遮って、ふと耳に届いてきた誰かの声。 あまり聞き覚えがなく、この場にいた結黄賊らは自然とその方へ目をやる。
すると、こちらへ向かって走ってきている二人の少年の姿が見えた。 見覚えのない彼らに、この場にいたみんなは戸惑った様子を見せる。
そして御子紫たちのもとへ着いて早々、呼吸を整える間もなく一人の少年がいきなり用件だけを切り出してきた。
「あの、椎野っていう人はいますか?」
―――え・・・俺?
後輩らはその言葉を聞き自然と椎野の方へ目を移しそうになるが、ここは空気を読みわざと視線をそらすフリをする。 そんな中、彼らを見て不審に思った御子紫は声を張り上げた。
「ちょっと待てよ、何なんだよ俺たちの前に急に現れて」
「椎野っていう人を連れて、未来のところへ行けと言われました。 早く助けないと、未来が危ない!」
―――未来が?
みんなが困惑して何も言うことができなくなっている中、御子紫だけが口を開き続ける。
「いや待て。 お前らはどうして椎野のことを知っているんだよ?」
「ユイに言われたんだ!」
「ちょッ・・・! どうして俺たちのことも知っている!」
見知らぬ少年の二人から結黄賊のメンバーである仲間の名が次々と出てきて、御子紫はますます混乱の中へと陥った。
だけど彼らの行為を静かに見つめていた一人の少年が――――ふと何かを思い出したかのように、小さな声でそっと呟く。
「あ・・・。 もしかして、文化祭の時の?」
「え? ・・・あ、えっと・・・コウ?」
「は? 何だよコウ、コイツらと知り合いなのか?」
コウの声に気付いた少年らも同様、互いに誰かということを思い出した様子。 だが当然、御子紫も含めここにいる彼らは今もなお混乱状態だった。
「大丈夫だよ、みんな。 この二人はクリーブルで、伊達のダチさ。 御子紫と椎野、北野と真宮以外のみんなは会ったことがある。 悪い奴らじゃねぇし、安心しろ」
みんなの混乱を落ち着けるように、優しく微笑みながら口にするコウ。 そしてその言葉により、ここにいる彼らからは不審な思いが次第に薄れていった。
そんな仲間の様子を感じ取った後、コウはみんなの代弁する。
「それで? 未来が危ないって、どういうこと?」
その問いを聞き、少年二人は説明をし始めた。
伊達から『未来が今危険な状態になっているかもだから、助けに行ってほしい。 これはユイからの命令だ。 もし未来を助けに行くなら、仲間である椎野も連れて行け』
と言われた、ということを全て話す。 これらは伊達から言われたと聞き、ここにいる彼らはあまり疑うようなことはしなかった。
だけど伊達と結人との間でどんな会話が繰り広げられていたのか分からないため、当然簡単に信じるわけにもいかない。
「だからお願いだ! 未来を助けてほしい!」
「でもだからって、どうして椎野なんだよ・・・」
御子紫が困った表情をしながら少年たちを相手にしている間、椎野は一人考え始めた。
―――ユイが俺を連れて行くよう、伊達に命令をしたっていうことだよな・・・。
―――ここにいるメンバーからすると、強いコウを行かせる方が一番いいと思うけど。
―――・・・なるほど。
―――一番強いコウはここに残して、鉄パイプが使えて少しでも戦力になる俺が行け、っていうことか。
その考えに辿り着いた後、椎野は少しだけ唇を釣り上げニヤリと笑う。 そしてそのまま、少年らに向かって言葉を放った。
「椎野は俺だ」
「え? ちょ、椎野・・・」
「伊達のダチなんだろ? だったら信用してやる。 時間もねぇし、さっさと行くぞ」
そう言って地面に置いてあった鉄パイプを拾い上げ、少年らを連れてこの場から去ろうとした。
「あ、おい待てよ椎野!」
御子紫の声が聞こえ、走りながら大きな声で言葉を返す。
「俺は平気! 未来を連れて、すぐ戻るから! それまではお前ら、頑張れよ!」
それだけを言い捨て、椎野と少年二人は勢いよく前へ向かって走り出した。
―――ユイがそれだけ俺を頼ってくれているんなら・・・それなりの結果は、ちゃんと出さないとな。