バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

僕が生まれたのは、2000年、
20世紀最後の年だ。
僕が中学校に入る頃には ( I o T ) の技術開発が盛んで
ロボットも人工AIが動かすようになっていた。

だけど、AIたちは高度な計算力を持ち
人類こそ不要であると判断した。
カルフォルニア州知事の出ているような核戦争
にはならなかったけど、
彼らは、宇宙空間に進出し、火星に住み着いた。

宇宙線で被爆する人間では住めない場所だ。
実際、宇宙飛行士の中には放射線被爆で
苦しんでいる人も多い。

人工知能は発展したけど、ロボット工学は
それほど進化しなかった。
だから、人工AIのボス「インフィニティ」は
人類を奴隷化して、使役する計画を立て
実行に移した。
多くの技術者が捕らえられ、
人類は人工知能の奴隷となってしまっていた。

ぼくは、生まれつき障害を持っていて
長くは生きられないと宣告されていた。
脳は正常だけれども、筋肉が電気信号を
受け取れなくなって、運動しなくなるから
萎縮してしまい、やがて動かなくなるらしい。

そんな時、ハックフェラー財団の支援の下
人間の脳と機械の体を接続して動かす、
人機融合の施術を受けられることになった。

両親も喜んでくれた。
親元から離され、仕事もあるらしいけど、
僕が生きているだけで十分、
それが家族の純粋な希望だった。

そんなわけで、僕は毎日、畑を耕している。

「つかれたねー。」

僕は仕事仲間の「ボブ」と「ジャック」
と一緒に休息をとっていた。
といっても、オイルを差したり、ボルトを締めたり
メンテナンスだ。
さすがに寝る時間がないと脳がだめになるので
眠るけど。
けっこう働きづめだ。
「インフィニティ」様は効率のみを追求して、
日本人のように秒単位のスケジュールで動いてる。
僕達には一応、武装も付いている。
といっても、鳥を威嚇するようなものだけどね。

ある日、いつもの通り畑を耕していると、
畑の真ん中に 綺麗な女の子が寝ていた。
僕は、あわててエンジンを止めると、
その銀髪で白い肌の同世代であろう
女の子に、「危ないよ。」と声をかけた。

「気持ち悪いわね。ロボット人間。」
何か恨みでもあるような様子で、
僕達を見ていた。

「知らないとでも思っているの。
あんた達、重犯罪を犯して、終身刑の代わりに
ロボットに脳みそ入れて強制労働させられてるんでしょ。」

「ボブ」はしょんぼりした雰囲気でうなだれた。
だけど、僕の名誉は守ろうとした。
こいつは違うよ。筋肉の病気で生きていけないから、
ロボットになったんだよ。

「うっ!」少女はぎょっとした表情をすると、
ツンデレ気味に謝ってきた。
「わ、悪かったわね。」
じゃあ、何ではたらいてるのよ?
脳を機械に移植する施術に20億円もかかってしまって
それで働いてるんだよ。
僕がそう言うと、彼女は、
「おかしいわね、インフィーは機械と脳の融合は
有用だからって、すべて無料のはずよ。」
「こんな、犯罪者でもね。」
そう言うと、「ボブ」と「ジャック」を睨みつけた。

家の中にいるより、外で畑を耕すのは
とても楽しいよ。20歳までベッドで寝たきりだったからね。

「私はリム、人口AIを搭載したロボットよ。」
「ふふん、最新型よ。」
リムという少女は自慢げに胸を張った。

「なぜ君はこんなところで寝てたんだい。」
ぼくは、
完全な機械である彼女がエリートで
僕らはポンコツに思える。

それを察してか、
「私は、犯罪者は軽蔑する。でもあんたは別。
脳が人間でも、体が人間でもかわらない。」
「寝てたのは別に理由なんかないわ。
ここに用があったから来ただけ。」

「そうねえ、ここからそのおもちゃで、
飛んでる鳥を打ち落とせたら、
教えてもいいわよ。」

どうせ無理だけど。と彼女は付け加える。
「そんな、かわいそうだよ。」
まるで必中のように発言する僕に、
彼女はいらいらしながら言った。
そんなポンコツで、耕作用機械のあんた達が
出来るわけないでしょ。

ぼくは、おもちゃの威嚇用の銃を構えると、
鳥ではなく、木から落ちる木の葉を
3枚撃ち抜いた。

そのときの彼女の顔は忘れられない。
「唖然としている。」
それがぴったりな表情だった。
「あんた、工作機械よね?」
「う~ん、少し違うかな。」
通常の人機融合は永久的なものではないし、
身体をすべて捨てたりしない。
でも僕は肉体を持つ意味もないし、
死んでしまうから、脳以外はすべて
手足の神経に当たるところまでロボットなんだ。

そう説明すると、彼女はどこかへ姿をくらました。
約束は守って欲しいな。
彼女がここへ来た理由、聞きそびれちゃったな。

「なにこれ! あいつおかしいと思ってたけど
機能中枢、最新型の戦闘ギアどころか、
インフィーレベルの機能じゃない。」

「確かに、こんなものが20億円で作れる
とは思えんですな。」
畑の管理人は朴とつに言った。
「戦闘用のハードさえ手に入れれば
最新鋭ギアでもまず勝てませんな。」
人類の最終兵器でしょうか。
でしょうね。リムはそう言うと、
研究所で開発され、試験運用されていた、
特殊な素体の設計図を見せた。

リムの父親こそ、ハックフェラー財団
そして、レイシオンでインフィニティーを開発した
研究の責任者だった。

娘に永遠の命を与えるべく、彼女を創りあげた。
いわば彼女こそ、来るべきロボットの時代の
ロボットの完成形なのだ。
しかし、ハックフェラー財団がここまで本気で
研究し、完成させていたとは。

この畑の持ち主は、聞けば分かるとおり
ハックフェラー財団の一員、
リムは完全なロボットとはいえ、基は人間だ。
インフィニティすら気がついていないがスパイなのだ。

かれは、長らく空想の中の住人でした。
実際に命令しても手足が動くことはなく、
ただ、命令だけが脳から出ていた。
そういった特殊な環境が、彼の脳の演算値を
飛躍的に押し上げた。
それが彼を調べた研究者の意見です。

この設計図を元に戦闘ギアを作るのに
半年。彼のスペックなら訓練すれば2ヶ月で
実戦で通用するでしょう。

幸い、彼は犯罪傾向はゼロですし、
善良すぎる、大人しすぎる性格です。
ある意味信用は置けますが、
戦いに向いているとはいえませんな。

「彼は私の剣よ。仇をとるまでは絶対に負けないから。」
ギアが完成するまで半年、彼とリンクして
少しでも、ユニゾン値をあげておかないと!

「まぁ、畑仕事の間なら付き合ってくれるでしょう。」

「えぇっ、あいつそんなに土いじりが好きなの、
昔のイギリス人?」

そんなわけで、人機融合トラクター「タウンゼント」と
ロボット少女「リム」の戦いが始まるのだった。

敵は人工AI「インフィニティ」
人類にとっては圧倒的に不利。
ハックフェラーとレイシオンの支援を受け
戦いが始まろうとしていた。

農場から僕はリムを上に乗せて、
のろのろとハイウェイを走っていた。
しばらくすると検問があり、
「おいそこの、トラクター、路肩によって止まれ、エンジンを切れ。」
「馬鹿なのか、小娘。ハイウェイをトラクターで走るんじゃない。」
「小娘じゃないわ、名前はちゃんとある。あなたのような有象無象
に名乗る気はないけどね。」

「なんだと、こら。」
「はやく、スキャンしたら、許可は得てるわ。」
しばらくすると
遠くから、戦闘ヘリから投下された戦闘用ギアが
戦闘意欲低めで近づいてくる。

「ぉいぉい、何事だよ。」
「そこの馬鹿いえ、おまわりさん、死にたくなかったら
今すぐ逃げなさい。逃がしてくれたらだけど。」

それなりの武装のギアが2体、近づいてくる。
トラクター相手に本気を出す様子はなく、
ゆっくりと2速歩行のギアがあるいてくる。

様子からすると、油断しているようであり、
乗っているのは人間だろう。
人工AIは油断や弛緩などしないからだ。

タウゼント!そこから飛び降りなさい。
ゆっくりとした動きで、僕がジャンプすると
2機ともあわてて追いかけてきた。
逃げられることより、壊れることを心配しているようだった。
衝撃を覚悟したけど、たいしたショックもなく着地した。
いや、着水?

後を追ってきた、2体のギアは水の張った沼にはまり込み
身動きが取れなくなっていた。
「な、なぜお前は沼に沈まない?」

「ホバー機能がついているからです。
僕は農業用ロボットですよ。
木を切ったり、荒地や沼地を開墾したりしますからね。
川でも沈みませんよ。」

「さすがは農業用ね。機動性重視より汎用性重視も
役に立つものね。」

「この小娘!」
ギアから降りて走ってきた男は
リムの顔面を殴りつけた。
拳をゆるめ、

「いってぇ~~~、こいつの顔、金属だ。」

「抵抗する気はなくなったようね。
ところであれは無人機?有人機?」

「遠隔操作型の無人機だよ。」

「それを聞くと、リムは左腕を戦闘ヘリに向けると
小さく呟いた。
(ブラスターキャノン)」

左手の前方に光の粒子が集まって、
次の瞬間戦闘ヘリは消滅していた。
さあ、知ってることを話してもらおうかしら。

インターチェンジでメンテナンスをしていると
一人の少年が近づいてきた。

「やぁ、リムおばさん。」

だれがおばさん・・・そう言いかけてリムは固まっていた。
「追跡の指揮官はあなただったのね。」

「そうだよ。」

「君のお父さんがインフィニティーの生みの親。
つまりあなたの弟、その子供である僕は、君の甥じゃないですか。
ふふ・・・。」

「ジル、何の用事かしら。」

「決まってるじゃないか、君の持ち出したデータだよ。」

「幸い君はスタンドアローンだ。解析できない以上
他にわたる危険性はないと思うけどね。」

お互いに最新型のナノマシン群体、決着が付くのは
しばらくかかりそうだね。
そう言うとリルの体を空中に放り投げると
地面にたたきつけた。

「でもね、君の強みは弱点でもある。
所詮はスタンドアローン、個である事を捨てた
僕達には勝てないよ。」

(サテライト・リンカー)

ボロボロになりながらたたかうリムは防戦一方
演算速度が関係しているようだ。

(タウンゼント、半年前に言ったこと覚えてる。)
僕とだけリンクした彼女が話しかけてくる。

(ユニゾン)

「おやおや、そんな農業用機械とリンクして
どうするつもりですか?」

(聞いて、タウンゼント、今の私達ではあいつに勝てない
あなたの体の動力源は原子力。)

(一時的とはいえ、動きを止めるだけの電磁パルスが出せる。)

あいつは人工衛星を使ってデータのやり取りをしている。
だから一時的に、無力化できる。

こっちはスタンドアローン、影響はない、動けるわ。
あなたの脳が特別だったのは、私と同じナノ群体だったから。
私があなたの脳を物理的に取り込むから。
あなたは、トラクターの原子炉を自爆させて。

「わかったよ。」

「リルおばさん、あなたは貴重な存在だ。
残念ながらデータのバックアップはないようですが。」

「所詮はロボットだね。人間のおもちゃだよ。」
ぼくは心にもなく挑発した。

「なん・だと」

ジルと言う人はプライドが高いらしく、
「今すぐスクラップにしてやるよ、農作業機械。」
まっすぐ、僕に向かってきた。

(さよなら、ぼくの身体)
原子力の電磁パルスは彼の動きを止めた。
リルはぼくを見捨てたと見せかけ、
ぼくの脳を取り込んで全力で離脱した。
しばらく時間は稼げるだろう。

しおり