(閑話)きのこが見ていた月明かり
よっす! 俺だよ! みんなのアイドル、1号ことちびきのこだよ!
聖竜様と呼ばれる元暗黒破壊神サマこと
あんなに暗黒破壊神と呼ばないと怒る子だった来栖くんが、今は聖竜様と呼ばないと怒る子になっている。いや、どちらかと言うと怒るのはエミーリオか。
「ねーねー来栖くーん」
おーい、と声をかけたら『それは既に捨てた名だ』と言われてそれきり返事もしてもらえなくなった。仕方ない。
「暗黒破壊神になるって野望はもう良いの? こっちならなれるじゃん? 俺様の時代が来た! ひゃっほーうとかやらないの?」
『そのためにはまず現時点で暗黒破壊神を名乗る不届き者を成敗しなくてはならぬのだ』
なんて言ってそっぽを向いてしまった、エミーリオの頭ほどしかない白い小さな小さなちびドラゴン。
姿かたちは変わってしまったけれど、中身はちっとも変っていない。
暗黒破壊神とか言いながら、いつだって本気で怒るのは誰かのため。優しい子なんだ。
俺が死なないようにレベリングをするなんて言い出したけれど、君は解ってないね。俺が半年もレベルを上げてこなかったそのわけを。
ステータスの見方を教えてくれたけど、本当は知ってる。だって俺も鑑定持ちだからね。
今の俺のステータスはこんな感じ。
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【ステータス】
名前 : カエデ・キノシタ(分身体)
レベル : 2
EXP : 921/ 6000
HP : 40/ 40
MP : 10/ 100
Atk : 50
Def : 10
スキル : 異世界言語
痛覚遮断
増殖 Lv.10 (MAX)
超速回復 Lv.10(MAX)
鑑定 Lv.10 (MAX)
製図 Lv.5
測定 Lv.3
記憶 Lv.8
気配察知 Lv.2
隠蔽 Lv.2
長命
不老
逃走 Lv.7
生活魔法 Lv.1
土魔法 Lv.1
水魔法 Lv.1
光魔法 Lv.1
火魔法 Lv.1
風魔法 Lv.1
魅了 Lv.2
弁術 Lv.6
治癒 Lv.1
木工 Lv.6
建築 Lv.2
剛力 Lv.1
投石 Lv.1
剣術 Lv.1
称号 : 月の女神の寵愛を受けし者
太陽の神の呪いを受けし者
導く者
勇者
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うん、絶対見せらんねぇ。
スキルや称号は本体と一緒。分身体になることで弱体化しているけど。
俺らが消えれば本体に本来の力が戻る。経験値と共に。この辺は来栖くん、おっと、リージェって呼ばないと怒るんだった。リージェの推測通り。
異世界に渡る度に新しいスキルを獲得したりスキルレベルが上がったりして、これレベル上げちゃったら鼻歌交じりに軽く無双できるんじゃねって感じの構成になってきた。
でも俺はルナの能力で日本に戻れる。だからなるべくこちらの世界に関わる気はない。俺の行動がこちらの世界を変えてしまう恐れがあるからだ。
俺の生徒達を探し出したらとっととこの世界とはおさらばする。だからレベルはなるべく上げない。
そんな感じで少し上がってしまった己のステータスを見てげんなりしていると、近くでどったんばったん音が聞こえてきた。
今は野営中、エミーリオは先に寝てこの時間見張りはリージェだったはず……。
音のした方を見ると、月明かりの下リージェが何やら踊っていた。
尻尾をふりふり振っていたかと思ったら、くるっとターンしてみたり。天高く飛び上がってはくるくると縦回転しながら尻尾で着地してみたり。腕を振り出してみたり、前に突き出した手から光の球を出してみたり。
「キュッキュキュキュ~ィッ」
「キュッ」
「キュキュィッ」
「キュ~ッ」
動きに合わせて何やら声が出ているが、残念ながら異世界言語スキルを持っている俺でもドラゴンの言葉は解らない。
が、前世でよく言っていた彼の台詞から推測するにきっと……。
「喰らえ、闇の撃鉄を!」
「全てを砕く漆黒の恒星!」
「我が拳はあらゆる光を否定する」
「闇より出でて闇より深い……『やめんか貴様!』」
あら、聞かれてた。
動きに合わせて言いそうなセリフをアテレコしていたら殴られちゃった。
まぁ、痛くないんだけどさ。
『貴様、何故俺様の言葉が解る?! ま、まさか魔物同士は言葉が通じるとか?』
「誰が魔物か!」
え? マジで? マジであんな台詞言ってたの? ぷぷー。
まぁ、彼はこの先もこの世界で戦っていかなきゃいけないわけだから、技の練習は大事だよね。合流してから戦闘らしい戦闘にはまだ遭遇していないけどさ。
まぁ、そうなったらまたのらりくらりと逃げ回らせてもらうよ。何せ俺はこれ以上強くなるつもりはないからね。
リージェは俺に見られていたと知って不貞腐れたように焚火の横で丸まってしまった。
俺が話しかけてももう反応しない。思春期ってやつかな? からかいすぎたかもしれん。まぁ、明日になりゃ機嫌直ってるだろ。
さてさて。他の分体の様子は……。
2号は拠点で保護した子達の面倒を見ている。概ねいつも通りだ。
畑の作物もだいぶ大きくなった。これなら秋にはもう日本から持ち込んだ食料に頼らなくて済むかもしれん。
3号は拠点の中。他の分体からの測定データを受信して図面に起こし、この世界の地図をどんどん広げている。まぁ、俺達の脚の歩幅じゃ遅々として進んでいないけど。リージェが持っている地図にも後で書き足しとかなきゃな。
4号はルシアちゃん達と一緒。
けっこうな速度で近づいて、今は俺達から1日分ほど離れた距離で野営中。この調子なら明後日辺りには合流できるんじゃないかな? まぁ、彼らがノルド国内のどっち方面に向かうかにもよるが。俺は思うに王族の発見と調査って言うなら人海戦術でばらけたほうが良い気がするけどな。起きたら進言してみてくれ。
5号~6号は数日前にモンスターに食われた。
7号~10号はセントゥロの王都。7号が王城に行ってあとは街中で情報を集めるようだ。
11号~60号はセントゥロ西の森の中。未だ空白だらけの地図を埋めるべくモンスターから逃げ回りながら測定して回っているのだ。
61号~100号はリージェとエミーリオの腹の中だ。
101号~200号はオチデンの国内。あちこちに広がりながらこちらも地図作成と情報収集のために駆け回っている。あ、今1匹踏み潰された。
ノルドの国内に入ったことだし、また本体がこっち来た時に増やしとかないとな。
リージェがエミーリオやルシアといったこっちの世界の協力者と繋いでくれて、ずいぶんと動きやすくなった。
これなら、生徒達が見つかるのも時間の問題かな。俺の可愛いくて小生意気な甥っ子も早く見つけて連れて帰ってやりたいな。まぁ、あいつのことだから上手くやってると思うが……生きていてくれよ。
あ、そうだ。森の調査をしている連中に日本の歌を歌いながら散開するよう指示。
リージェはこっちに来てからスキル獲得まで言葉がわからなかったという。であるなら、日本語で喚いていれば武谷が釣れるはず。転生してくれていれば、だけど。
陽気な歌に誘われて森の奥に行ったが誰もいない、あれはきっと森の精霊だったのだという噂をセントゥロにいる分体が聞くことになるということをこの時の俺はまだ知らない。