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5、あのイエスマンだったエミーリオが!

 賑やかすぎる時間に何やってんだと思いつつ。エヴァの水分補給も終わったようなので再び出発する。
 急ぎたいが無理もさせられないということで、軽く流す程度の速さで進む。
 今日は国境を越えノルドの関所の向こう側にある町で一泊しようということになった。

「いやぁ、笑った笑った。あ、エミーリオ、これ昼食にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 エヴァの上で1号が大量のきのこの死骸? 抜け殻? を渡し、エミーリオが普通に受け取って腰につけたポーチに突っ込んでいる。
 え? 昼食? 食うのそれ?


 いつの間にか1号のビジュアルは元通りに戻っている。
 そして半オーラも進むと、森はだいぶ遠ざかり見渡す限り草原になっている。
 日は中天にあり、程よく腹も空いた。

「この辺りで昼食にしましょう」

 食事を終えてあともう一度休憩を挟めば、その先は国境だというエミーリオ。
 計算だと少しギリギリらしいが、少しぐらい日が傾いてからでも魔法があるし何とかなるだろう。エヴァに無理はさせない方針で進むことになった。



「さ、どうぞ」
「うっ」

 マジで使いやがったよ!
 渡された器に入っているのは、きのこソテー。ほんの少しのジャーキーを添えて、味付けは醤油。
 これはきのこ、普通のきのこ……いや、無理だろ顔あるし手あるしこっち見てるし……見るな!

 まるで呪われそうなビジュアルのきのこソテーと冷や汗を流しながらにらめっこする俺をエミーリオが期待に満ちた目でじっと見てくる。
 ええぃ、ままよ!




「涙が出るほど旨いって?」
『ああ、美味いな。エミーリオの飯は最高だ』
「ありがとうございます!」

 涙じゃない。目から冷や汗が出ているのだ。
 味は普通にエリンギだった。口の中で若干当たる突起物とか気のせい気のせい。

「これ、毎回少しわけてもらうことできます? 聖竜様気に入られたようなので」
「全然OK!」

 普通にモリモリ食べるエミーリオが、食材確保すべく1号に交渉している。1号も問題ないとサムズアップしている。
 そうか、これが今後毎食出るのか……。



 食後予定通り再出発した俺達は、特に問題なく進んだ。
 そう、文字通り何もなかったんだ。

『おい、エミーリオ。確かにここか?』
「ええ、そのはずです。ほら、あそこ。柵があるでしょう?」

 目の前は、「どうぞどうぞご自由にお入りください」と言わんばかりに広がる更地。
 エミーリオが指さす方には、そこが確かに国境線であることを示す防衛柵が伸びている。いるのだが、本来出入国審査をするはずの関所は打ち壊され見る影もない。地面から少し覗く定礎の痕っぽい石が、そこが確かに何らかの施設があったことを示している。
 さらにそのノルド側の土地にも。もしかしたら、あそこは町があったのではないだろうか?


『町などないではないか! 今夜の宿をどうしてくれる!』
「知りませんよ! 自分だって半年ぶりなんですから!」

 エミーリオが、あのイエスマンだったエミーリオが反論を!
 成長したのですね、父は嬉しいですよ。

「ちょ、聖竜様、何そんなショックを受けた顔しているのですか」
「おい、お前らじゃれてないで、野営の準備するぞ」

 ああ、久々のふかふかベッド……、柔らかい新鮮なお肉……。うぅっ……。
 泣きながらエミーリオに八つ当たりしていたら1号に突っ込まれてしまった。俺としたことが。


 改めて辺りを見回す。
 本当に何もない。割れた石や木片などはわずかにあったが、草木も生えていない更地が広がっている。
 これまで通ってきた廃村ですら、もう少し集落としての痕跡を残していたというのに。

『これでは関所の意味がない。入りたい放題ではないか』
「そうですね。侵略しようと思えばいくらでも国境を広げられそうです」
「いっそ柵広げちゃう?」

 ふざけた事を言う1号には鉄拳制裁。今の我々にそんな時間などない。第一、どの国がどれだけ領土を広げようと俺には関係がないのだ。


 じゃれ合っていたらあっという間に日が暮れてしまった。遮る物が何もない空き地を大きな二つの月が照らしているため、幸い視界には困らない。
 草を刈る必要もないから、すぐに晩飯にありつけた。


「取り敢えず、明日は王族を探しましょう」

 顔つききのこをモリモリ食べながらエミーリオが言う。乾燥肉と固いパンだけでは味気ないと、新鮮きのこを喜んで調理していた。
 王族……確か、半年前召喚失敗の通信を各国に入れて以来音信不通だって言ってたっけ。

『王都みたいな都市に行くのか?』
「いいえ、王族もまた定住はしていなかったはずです」

 何じゃそりゃ。
 拠点のような土地はあることはあるらしいが……広い国土を家畜と共に年単位で移動していたという。音信不通なのは通信水晶の破損か、それとも……。
 長い旅になりそうだ。

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