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5、懐かしの醤油!

 ひと悶着あったが、無事に街に入ることができた。
 おっとり国王に廃村になっていた二つの村と、その生存者が暴徒化していることを報告。復興のための支援を約束してくれた。
 これでこの辺りの治安も良くなるはずだ。賊は懸賞金がかけられていたようで、その場で報奨金も出た。ありがたい。

 モンスターの被害に遭った集落はあの二つだけではないはずだし焼石に水と言われるかもしれないけど、俺は俺が関わったものだけでも何とかしたい。
 他の所は他の関わった人が何とかすればいい。完全に自己満足だ。何か文句あるか?


 街に入った俺達はまっすぐにエミリーオの実家に向かった。
 着の身着のままで飛び出したから身支度を整えるらしい。エミーリオそっくりの若いお母ちゃんと、元騎士団長だっていう渋かっこいいお父ちゃんに迎えられた。

 エミーリオの母親はエルアナ、父親はファウストというらしい。名前までかっこいい。
 ファウストは見た目おじいちゃんなんだが、こう、キリッって感じで、背筋はピンとしているし言葉もはっきりしている。未だ現役と言われても通じるのではなかろうか。エルアナとの歳の差は考えてはいけない。

 ファウストにしだれかかるエルアナから延々と惚気話を聞かされて要らぬ情報がやたら入ってきた。取り敢えずわかったのは、ファウストが未だに男として現役で、エミーリオは猫可愛がりされているってこと。
 そしてエミーリオの姉だと言われても信じてしまいそうなエルアナの実年齢が××だってことと、この家ではエルアナが最強だってことだ。彼女を怒らせてはいけない。あぁ、未だに震えが……。



 一晩明けたら数々の保存食や調味料、寝具、小さな鍋を二つと器が用意してあった。
 急ぐ旅ではないのだが、これは凄くありがたい。特にお肉が!
 思わずジャーキーに目が釘付けになってしまった俺を見て、エルアナがクスクスと笑った。

「これだけあれば次の街まで持つでしょう?」
「ありがとうございます、母上!」

 さすがに馬車を用意する時間はなかったけど、というエルアナだが、十分だ。
 食糧が足りなければ途中で喰えそうな魔物を倒せばいいのだしな。

「リージェちゃんも、絶対また無事で遊びにいらっしゃいね」
「西門に行くまでに屋台がたくさんあるから、足りなそうなものをこれで買うと良い」

 お小遣いまでもらえた!
 屋台っつうと縁日を思い出すなぁ。綿あめ、たこ焼き、唐揚げ、ジャガバター、鮎の塩焼き……。あぁ、お好み焼き食べたい……。


 そうしてエルアナのキスの嵐とファウストの苦笑に見送られて旅立った。
 屋台はインド辺りの移動販売のような感じのものや、地面に台を置いてその上に商品を並べているもの、布を敷いただけのものなど様々で見ていて飽きない。
 扱っているものも食べ物から武器からアクセサリーと実に多様だ。

『エミーリオ、あれは?』

 とてつもなく腹に直撃する匂いにやられ、エミーリオの頭をペチペチ叩く。
 どこかで嗅いだことのあるその香りは、あれだ。ニンニク。それに、懐かしの醤油。少し焦げたようなそれがたまらない。

「串焼きのようですね。食べたいのですか?」

 返事をするまでもなく、涎が滝のようになっている。
 コクコクと頷くと二本買ってくれた。一本は勿論エミーリオのだ。
 口の中に広がる味はまるで鶏肉の照り焼き。懐かしの醤油!

『店主、これはどんな調味料を使っている?』
「うわっ、びっくりした! ドラゴン、喋るのかよ」
『喋るさ。ドラゴンだからな』
「理由になってないような気もするが……これは、サルサディーソイアの樹液を濾したものさ」

 サルサディーソイアがどんなものかわからんが、樹液ってことは植物なんだろう。
 聞けばセンプレヴェルデが産地でこの辺りではまだあまり浸透していないのだと。どうりで、これまでの食事に使われていないわけだ。

 実の方がより良質なエキスが取れるらしいが、今は収穫期じゃないらしい。
 調味料を扱う屋台の位置を教えてくれたので一甕買ってもらった。
 聞けば、調味料屋台の店主はセンプレヴェルデから来たという。


『店主、マジィアが召喚した勇者について何か知らないか? 暗黒破壊神に襲われたと言うが、どの辺りにどのくらい被害が出ているか知っていたら教えて欲しい』

 店主は一瞬訝し気な顔をしたが、これからマジィアに向かうので安全な行路を知りたいのだと言ったら「甕で買ってくれたからな」と耳を近づけるよう指でチョイチョイと合図してきた。大っぴらに話せないことらしい。


「……実はな、勇者が死んだのはマジィアで違いねぇが、暗黒破壊神に襲われてなどいねぇのよ」
「何だと?!」

 エミーリオが思わずと言った声を上げ、しっ、と声を潜めた店主に口を押えられる。
 俺は声を抑える必要がないのでそのまま尋ねる。

『どういうことだ?』

 店主ははくはくと何度か口を動かしてから顔を青褪めさせて口許を押える。

「……ダメだ……。俺に言えるのは、『勇者は黒髪だった』これだけだ」

 もう少し詳しく聞きたかったけど、「商売の邪魔だ」と追い払われてしまった。

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