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ビーストカツサンド-①

 ヴィンクスからもらった魔物食材を活かした新作のパン。

 それらは、どれも一等人気の高いメンチカツサンドの上の上を行きそうで、売り上げは好調。

 ただし、仕込みがこれまで以上に大変なので、個数はメンチカツよりもさらに低くなった。


「新作のカツサンドもうっまいからな! また買いに来るよ!」
「ありがとうございました、是非またお越しください」


 特に売れたのが、ピザパニーニよりも残りの肉食材。

 筋取りを丁寧にしたおかげか、柔らかくて歯でも嚙み切れるくらいだった。

 スバルは高校生くらいから、祖父の店で肉についての下処理も学んでたいたので、専門店には劣るもの出来ただけ。

 それが、まさか異世界で役立つとは思っても見なかったが。


「売れるのは嬉しいけど……他のパン以上に売れるから仕込みが大変だなぁ」
「俺も手伝えればいいんだが……」
「ラティストは無理しないで? 手がちょっとでも怪我したら君のファンの方達に申し訳ないから」
「俺は人間じゃないんだが、すぐに治」
「まあ、とりあえず、すぐには教えれないし」


 作っても作っても、次が来ると言う感じだ。

 ロイズ達も宣伝してくれたおかげでパニーニもそこそこ売れる今日(こんにち)

 試作会からまだ三日経っただけだが、先に仕込んでおいてから出したカツサンドの評判が、ギルマス達に特に感銘を与えてしまったのだ。

 そのお陰で、チラシを作るだけでなくギルド職員達を通じて冒険者達にはあっという間に広がり、店にもいつも以上に押しかけられた。

 だから、一日二回も作る事になってしまったわけで。


「表の接客はお願い。僕はカツサンド達作って来るから」
「了解した」
「あ、あの、こんにちは!」


 割り込んできた客の声に、スバルはすぐに相手がわかったので笑顔を添えて振り返る。


「いらっしゃいませ、シェリーさん」


 あの依頼から、たびたび訪れてくれてる新しい常連客の呼び声を無視するわけにはいかない。

 それと、今日は以前に言っていたパーティーのメンバーらしい背の高い男性冒険者も同伴しているようだ。

 と言うのも、一度も見にきたことがないのか、店内をきょろきょろと見渡してたので。


「新しいお客様も、いらっしゃっいませ」


 連れらしき黄色の髪の男性に挨拶すると、一瞬スバルを見てから少しだけ目を丸くされた。


「…………あんた、マジで男か?」


 初見で見破られるとは思ってもみなかったが、同伴してるシェリーが先に伝えたかもしれない。

 しかし、スバルの性別を知っても残念がる客達よりは、興味があるように上から覗き見る感じだ。


「はー? 声もよく聞かなきゃわかんねーが、顔はまだわかりやすいな?」
「そう言われたのは初めてですね?」


 日本にいた時でも、学生時代は制服を着てても妬まれる対象にはなってはいたが、同時に打ち解けた人達もいた。

 彼の場合は後者にも近いが、距離も近い。

 なので、接触する寸前にラティストによって引き剥がされてしまう。


「パンに用があるのか、店長に用があるのかどっちだ?」
「っと……うっわ、おっ前すっげ美形! シェリー、こっちが店長じゃねぇの?」
「ち、違うらしいよ? スバルさんが店長さんだもん」
「俺は副店長だ……」


 今他の客がたまたま居なくてよかったが、ちょっとした喜劇を見てるようでおかしかった。が、ひとまずシェリーの用件を聞こう。


「シェリーさん、本日もクリームパンですか?」
「あ、それもなんですが……ギルドで聞いた新作のパンがあるかなぁって」
「あ、ちょうどいいですね! これから作る予定だったんですが」

 店頭での取り置きは基本的には受け付けないが、出来立てを買うのを待ってくれるのならば受けるようにしている。

 毎回毎回必ずではないが、スバル達の容姿を目当てに来店するわけではないシェリーだからこそ。
 まだ名前を聞いてない、同伴の男性もどうやら同じようであるし。


「で、出来立てを⁉︎」
「20分ほどかかっちゃいますけど……お時間は?」
「ねーな? 今日はそれでパーティーの連中と昼飯食おうって決めてただけだ」


 なら、奥の応接室を使ってもらおうと案内しようとしたら、男性に何故か深く腰を折られてしまった。


「シェリーの悩みを解決してくれて感謝する。本来ならリーダーの仕事なんだが、指導係も兼ねてる俺が来たいと頼み込んだんだ」
「悩み?」
「ラティストは聞いてないから無理ないよ、シェリーさんの体質。けど、僕はお手伝いしただけです」


 完全に解消出来ずとも、一時的に効果を発揮してくれるポーションのパンを提供しただけ。

 結果としては、無理ない範囲で効果は付与されたらしいのは再来店の時の笑顔で実感出来た。

 効果が現れた時の冒険談みたいなのも楽しく語ってくれたから、こっちまで嬉しくなったのは覚えてはいる。


「あとは、シェリーさんの勇気だと思いますよ?」
「私の……勇気?」
「僕は冒険者ではないので、経験は一切ありませんが…………討伐対象に向き合う勇気って結構いると思います。全部、ギルドマスターさんから聞いた話ですけど」


 討伐対象を『狩る』と言う行為は、スバルには縁がない。

 ただのパン職人でしかないし、この間あったように、一部をラティストに依頼する形で採りに行くのも珍しい。

 だから、恐怖に打ち勝って、生き物と向き合う機会など到底ないのだ。

 ラティストと出会った、あの時を除けば。


「だから、僕はほんの少しお手伝いしただけです」
「で、でも、店長さんのパンのおかげで、私試験受けられそうです! ありがとうございます!」
「頑張ってください! で、今から作ると時間かかるので応接室でも使ってください。お茶も持っていくので」
「いや、俺はいーぜ? ここ来るの初めてだし、他のパンも見たいし」
「そうですか?」


 立ちっぱなしにさせるのは申し訳ないけれど、立ち仕事などなんでもないと二人が言うのでお言葉に甘えることにした。

 せめてお茶くらいはと、ラティストにはお願いしてスバルは仕込みに行くことに。


「ビーストカツサンド二種とピザパニーニ作って来ますね?」


 カツは揚げるだけなので、先にやろうと意気込んだ。

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