connect-part:メイドのお仕事【次回予告】
マリナは頭を吹き飛ばされ動かなくなった魔獣を見て、ようやく
エリザを
確かに魔獣は
会話と言えば、気になるのは魔獣を操っていた何者かが残した『戦争を再開するため』という言葉。簡単に言えばエリザを暗殺し、その犯人を帝国とやらに仕立て上げて戦争を吹っかけるという話だ。
だが今は、
「よくやったな、エリザ」
マリナは言って、エリザの
隣でしゃがみ込んでいたエリザは、マリナを見上げて「いひひ」と笑う。小さな子供が親に褒められた時のような笑顔に、マリナの心も
このエリザという少女は本当によくやった。魔獣の注意を引きつけるために、できるだけ会話を引き伸ばしたのは彼女の功績だ。恐怖に
「マリナさん、本当にありが――うわっ、」
「っと、」
立ち上がろうとしたエリザが突然体勢を崩す。マリナは慌ててそれを支え、なんとかエリザを立ち上がらせた。考えてみればエリザはかなり重傷を負っている。魔導式で出血を抑えているらしいが、だからと言って傷が無くなるわけではない。痛みも相当なもののはずだ。実際、エリザは額に脂汗を浮かべている。
「……マリナさん、申し訳ないけど、応接間にある
「伝声式具――、ああ『電話』か。分かった」
どうやら教会は病院のような役割も担っているらしい。魔導式なんてものがあるこの世界の宗教観がどうなっているのか知らないが、教会が生と死を扱うのは変わらないのだろう。
とにかくエリザをどこかで休ませなければならない。彼女の私室は
そう決めたマリナは、立っているのも辛そうなエリザを両手で抱きかかえる。エリザもマリナの成すがまま、素直に抱きかかえられた。いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。
こんな体勢になる事を素直に受け入れるなんて――あまり表には出さないが、本当に辛いのだろう。よく泣き出さないものだ。
強い女だ、とマリナは思う。
そうしてお姫様抱っこをされたエリザは、少し恥ずかしそうに「お願いがあるの」と口を開いた。
「なんだ?」
「教会に連絡したら、わたしの部屋を
「あー……、」
エリザは部屋の惨状を知らないのだろう。掃除も何も、爆破したのだから何から何まで燃えかすになっている。だがそれを今伝えてショックを受けられても仕方ない。マリナは「分かった」と返事をする。
「それから、廊下もね……。とりあえず教会の人が通る場所だけでいいから掃除しておいて頂戴」
「ああ」
「割れた窓ガラスは商会でシュヴァルツァーさんに言えば手配してもらえるから」
「おーけー」
「教会の人には城の裏から入ってもらってね。正面はこんな有様だし。マリナさんが案内してあげて」
「……おう」
「中庭の畑の様子も見ておいて。トマトはもうすぐ卸すことになってたから潰れてたら、商会に言っておかないといけないし」
「…………、」
「それと地下蔵の中にあるものも確認して。目録も地下蔵にあるから、壊れたものと無事なものを分けておいて」
「………え、いや、」
「魔獣の死骸は中庭に持って行ってちょうだい。牙とか爪は商会で引き取ってもらえるから、切り取って
「ちょっ! ちょっと待ってくれ、」
マリナは慌ててエリザの言葉を遮った。
口早に次々と指示を出していたエリザは「ん?」と、マリナの腕の中でキョトンとした顔をこちらへ向けている。
「何か分からなかった? そしたら、その
「いや、そうじゃなくてさ」
「じゃあ、なに?」
「……やることが多すぎないか?」
「でも先延ばしに出来ないもの。下手したら明日には役人が調査に来るかもしれないし。貧乏暇なし、よ」
「あー、いや、そのな――それ全部、オレがやるのか?」
「あたりまえでしょう?」
エリザは何を当たり前のことを聞くのだ、とでも言いたげに笑った。
それはとても無邪気で、こちらを信頼しきった屈託のない――それでいて有無を言わせない迫力を伴った、なんとも
エリザベート・ドラクリア・バラスタインは、仲村マリナの腕の中で宣言する。
「だって、あなたはもう――わたしのメイドなんだから」
◆ ◆ ◆ ◆
【次回予告】
異世界で
しかし、マリナとエリザベートの災難はそれで終わりではなかった。
しかしチェルノートの終末は、すぐそこまで迫っていた。
仲村マリナという名のメイドの戦いが今、始まる。
断罪の
ああ、それでもわたしは――
次回、メイドin
――第2話『戦場のメイド服』――
※第2話以降は毎晩1sceneごとに更新します。