第57回「救いあれ、チャンドリカ」
一路、転移魔法でチャンドリカへ。
追跡魔法を使われることもなく、無事に目的地に到着できた。
僕の接近を「城そのもの」である彼は見たのだろう。チャンドリカが城内から手を振りながら出てきた。
「おかえりなさいっす」
「やあ。少し空けていただけなのに、ずいぶん活気があるね」
これはお世辞などではなく、僕の本心だった。ロンドロッグの民兵もラルダーラ傭兵団もいない様子なのに、かなりの「生きている」人間がいるのだ。もう日も西に傾き始めているが、彼らは精力的に働き、先の戦いで傷ついた城の修復に当たっている。
「コンスタンティンが全部手配してくれたっす。すぐに行動してもらった恩を早く返したいって。だから、昼夜問わずの突貫工事で、城の方は一気に片付きそうっす。地下のダンジョン建設に関しても、いろいろ手を回してくれたみたいっすね。もっとも、リュウさんの力を貸して欲しいとも言ってたっすけど」
「手際のいいことだ。すばらしい手配りという他ないな」
僕は大満足だった。コンスタンティン、名前は大仰で言動も軽薄だが、頼りになる男らしい。少なくとも、今のところ破壊ばかりしている僕に比べたら、ずっと建設的な仕事を見せている。こういう人物は大切にしなくてはいけない。
「ところで、そちらの方は」
チャンドリカが気にするのも無理はない。プラムと僕以外に、囚人服の女の子が交ざっているわけだから。
「お初にお目にかかります。魔王軍のサマー・トゥルビアスです」
「おっ、名前は聞いたことがあるっすよ」
「君も知っているのか。いよいよ僕の世間知らずが露呈してしまったな」
僕がそう言うと、チャンドリカは少し照れくさそうに微笑んだ。
「自分は各国軍のことについては優先的に調べていたっすから。それでも、アクスヴィルのギルクリストとかの情報は漏れていたし、万能ではないっす」
ニルマール・ギルクリスト。あの御年90を超えるという魁偉を思い出し、僕は身が引き締まった。いずれ彼とは雌雄を決することになるだろう。同時に、僕が容易に負けるはずもない。しかし、勝ち方は非常に考えられたものでなければならない。ああいう人物には熱心な支持者がいて、うかつに老将を殺してしまえば、二度とこちらになびかぬ宿敵になってしまう可能性がある。
「だが、今後はそうした情報をいかに集められるかが鍵になる。その点の対策も考えないといけないな。とりあえず、中で休もう」
僕らは聖女の槍を巡る旅のあらましなどを話しながら、チャンドリカとともに城内に入った。