第56回「機械仕掛けの手紙」
ジャンヌからの手紙。その内容は至って簡潔なものだった。
お疲れ様、リュウ。
破壊の限りを尽くした感想はいかがかしら。
いずれにしても、貴方はやり遂げた。
囚われのサマー・トゥルビアスを救い出し、ここへ戻ってきた。
だから、私も約束を守ってあげる。
聖女の槍、大切に扱ってちょうだいな。
貴方が今後も生きてきたら、また会うことがあるかもしれないね。
その時はもっと長く、たっぷりと楽しみましょう。
「槍だ、これは」
僕が文書を中に収めた時、プラムが布製の包みに入ったものを持ち上げた。彼女の言う通りに槍のようだが、僕が想像していたきらびやかな武具という印象はまったくなく、使い古した細身の槍に見えた。
「そいつが聖女の槍か。僕らは詐欺にあったんじゃないかな。しかし、何やらただならぬ魔力を秘めているのも事実らしい」
とてもとても、かつては魔王の槍と呼ばれたような迫力はない。ただ一方で、秘められた魔力が漏れ出ているのを感じるから、決して見かけ通りのものでもないらしい。
どうする、とプラムが言った。
「ジャンヌに尋ねるなら、ルスブリッジの地下から再度行ってみる手もあるが」
「いや、先にチャンドリカへ戻る。この槍が本当に使い物にならなかったら、その時はあっちのルートから製造者責任を問い詰めるとしようじゃないか。サマーにはチャンドリカの話は」
「簡単にした」
僕がサマーを見ると、彼女は胸に手をやった。
「概ねのことは伺いました」
「よろしい。では、向かおう」
そう言ってから、僕は逆に店の奥へと入り、礼拝室だった場所のドアを開けてみた。そこは単なる倉庫と化していて、転送装置などはまるでなく、掃除用具や雑貨が雑多に詰め込まれていた。ネズミが突然の光に驚いて、慌てて物陰へと逃げ込んでいく。
つまり、考えられるのはこうだ。桜の園がジャンヌの力によって生み出された異空間であるならば、丸猫亭もまた漂流する別次元の店なのだ。僕らは二重のゲートをくぐって、このルテニアまでやってきた。今、丸猫亭は別の場所でのんきに開業しているに違いない。
ちきしょう、一杯食わされた。
そう叫んでも仕方がないので、僕はしめやかにドアを閉め、二人に外に出るように促した。
今回は一杯食わされた。彼女の思い通りに動いてしまった。
だが、次はそうはいかないぞ。
誰もいない店内を振り向いて、僕はまた外へ向かって歩き出した。
お城で何か起こったみたいだと騒ぐピアソン地区の子どもの声が、ようやく耳に入ってきた。