第53回「破壊、ただ破壊」
暴力とは、荒ぶる力のことである。それは大体においてマイナスのイメージを伴って使われることが多く、交渉や対話によって解決する善の力と対比する悪の力として描写されてきた。
では、本当に話し合いが善であるのだろうか。
列強が植民地の分割について話し合う行為。これもまた善にして平和な解決策と言えるのだろうか。
僕はその点に疑問を持っている。単なる暴力に意味はないが、一方で意味のある暴力には一寸の光が、そう、善性が宿るのではないかと思うのだ。
明暦の大火によって消失した江戸の街は、復興によって近代的な街へと生まれ変わった。これはまたロンドン大火で被害を受けたロンドンも同じことである。もちろんそこで非常に多くの人命が失われたことは悲劇であるが、良い側面も見なくては物事は始まらない。
僕は今、破壊している。
押し寄せてくる兵士の群れを蹴散らし、ヴィセンテ塔からエリス監獄を眺め、猛烈な勢いで魔法を連呼した。ただただ破壊の意志のみを持って、すべてよ、割れよとばかりに連打した。
エリス監獄はたちまち採石場よりもひどい有様になった。そこには多くの囚人がいただろう。多くの看守がいただろう。数多の人生を、僕は捻り潰した。
いいや、それだけではない。
僕の過去に暗い影を落とすルテニアの象徴、ローレンス城を見た。あの城は必ずぶち壊さなければならないと考えていた。僕の人格は卑小である。受けた屈辱は必ず返さねばならないと考えている。
召喚魔法によって、ローレンス城は百を超えるドラゴンの群れに襲われた。僕は飛竜の巣であるズルクフリの長、ウルタミと契約しており、彼らの力を自由に使うことができる。これもシャノンたちと世界中を冒険した「善」の部分と言えるだろうか。
ある竜は火を吐き、ある竜は氷の雨を降らせ、ある竜は雷を放ち、ある竜は毒の瘴気で辺りを覆う。近代城郭であるところのローレンス城には対空兵器も用意されているようだが、これではひとたまりもないだろう。
ああ、僕はより良く殺そうとしている。人をだ。人間をだ。同族殺しだ。
すべてを打ち壊すだけなら、僕だけの力で良いのだ。だが、彼らを完膚なきまでに打ちのめすことが、サマーの部下に対する弔鐘になると考えていた。もちろん、これは僕の心の揺らぎを弱めるための言い訳に過ぎない。本当は単に酔いたいのだ。僕という存在がもはや人類の常識に左右されないのだと宣言したいのだ。本当は、誰からも崇められたいのだ。
僕は、弱いから。
破壊の渦は僕の直接的な攻撃魔法によって、いよいよ頂点に達する。質実剛健をよく表していたとされるローレンス城は崩れ落ち、外壁はもはやスポンジよりも頼りなく見える。激しく大地が鳴動し、哀れな犠牲者たちを地割れの中に飲み込んでいく。
いったいどれだけの死が、この大地を覆っていることだろう。とても数え切れないほどの命が、僕の攻撃によって消えていく。
なぜなら、彼らは僕の敵だから。
ただそれだけの理由で、ここに地獄を作り上げた。
シャノンが勇者の称号を拝命した謁見の間も、メルがうっかり壊してしまった名誉ある鎧のある広間も、ロジャーがこっそり拝借した宝石のある王妃の間も、すべて、すべてが灰燼に帰していく。
この攻撃は僕の過去への決別だ。何かしら理由をつけて目立つのを嫌がっていた、弱い僕への絶縁状だ。
ここから先は、僕は一人で戦うのだ。チャンドリカという場所に己の旗を立て、世界という大洋へ漕ぎ出ていくのだ。誰も助けてくれるものなどいない。自分だ。自分が何とかするしかない。
「神、もういいだろう」
プラムが僕の手に触った。
いや、取りすがったと言ってもいいかもしれない。
僕はそれほどに破壊に酔っていたのか。殺戮に快感を覚えていたのか。そう思わせられるほどには、プラムが悲しそうな顔をしていた。
なんでだろう。誤解じゃないのに、誤解されたような気分だ。
「こんなところか。よし、引き上げだ。ジャンヌのところに向かうぞ」