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第52回「復讐は誰のために」

「どうだい。カディはいたか」
「いなかった」

 サマーは見るからに肩を落とした。残念だろう。無念だろう。そんな彼女の思いを拾いつつも、目の前の問題に対処しなければならない。

「ダヴィ、どうやら君の言ったことは本当のようだ。エリス監獄の他のところに囚われている可能性はあるが」
「カディは私の副官でした。ここに連れてこられたのも知っています」

 僕の言葉に、サマーがそう挟んできた。

「そうか。では、復讐戦をやらなきゃな。その前に、ダヴィ、君はどのあたりに飛ばされたい」
「ピアソンに、頼む」

 衛兵、ダヴィは僕にとりすがった。こんなにも怖い目に遭わされたというのに、健気な青年である。
 いや、これほどまでに圧倒的な力を見せたからこそ、僕を信頼するしかないのか。ストックホルム症候群に近いものがあるかもしれない。だとすれば、僕はやはり暴力で彼を支配したことになる。
 まあ、いいか。神なんてのはそういうもんだ。

「じゃあ、ブラーゾの移民街でいいね」

 ピアソン地区には移民街が多く存在する。ブラーゾからの移住者が固まっている街区もその一つだ。

「恩に着る。もし何かあったら、ブラーゾのルッソリーオ商会を訪ねてくれ。フェルディ・ルッソリーオってやつが跡継ぎなんだ。幼馴染のダヴィ・ラマッティーナの紹介って言えばいい。きっと力になるはずだ」

 有益な情報だった。たとえ口から出まかせにしても、当地を訪れた時の指針にはなるわけだ。ルッソリーオ商会。いつか訪ねてみることもあるだろう。

「わかった。脅迫してしまって、悪かったね。いい人生を送ってくれ」

 僕は彼を立たせ、サマーがいた部屋の中へと入っていく。殺風景な部屋だ。寝台と排泄物を入れるための桶以外には、ほとんど何もないと言っていい。こんなところにあの少女が監禁されていたと思うと、胸が痛くなってきた。そうだ。痛くなったんだ。そこに変な興奮を覚えないあたりは、僕もまた人の心を失っていないということだ。
 壁を拳で一撃し、大きな穴を作る。これで送り出すことはできるだろう。
 無事に逃げられますように。
 僕はそうつぶやいて、ダヴィを強制転移で送り出した。彼の体はふわりと浮いて、ルテニアの空へと飛んでいく。ブラーゾの移民街に着地してから後のことは、ダヴィ・ラマッティーナという青年の幸運に懸けるしかない。

「お前は優しいな」

 通路に戻ってきた僕を、プラムはそんな言葉で出迎えた。

「神としては不適格さ。だから、せめてここらで神らしく裁きを与えていこう」
「下が突破されたようです」

 サマーが声を上げた。
 その通り、どうやら瓦礫が撤去されて、ようやく兵士たちが階段を上ってこようとしているようだった。

「プラム、サマー、僕の後ろに下がっていろ。ここから先は、ただ壊す」

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