第48回「サマー救出」
倒れ伏している衛兵の一人を持ち上げ、彼の兜を放り捨てた。
「君、サマー・トゥルビアスの部屋に案内してもらおうかな。否定は認めない。一瞬で殺す」
僕は非常に紳士的に迫ったつもりだった。彼には回復魔法を重複してかけてやったから、痛みもかなり緩和されているはずだ。
もちろん、自分が何をやっているかはわかっている。痛みと恐怖による脅迫だ。もしも断ったなら、命はないぞという押圧だ。実際、僕はそれを実行する気でいた。家の中に毒虫が出た時、誰もが初めは躊躇するだろう。誰かが代わりに追い出してくれないかと悩むだろう。しかし、自分しかそこにいない時、それは蛮勇を振るう時が来たということなのだ。僕にとっては、それが今だ。
ヴィセンテ塔の衛兵は「わかった」と短文で答え、僕の意志を尊重してくれた。僕はいよいよクズの領域の深みにハマった気がしたが、放っておいた。きっと、力を行使するということは、どこかで非人間性を得ることなのだ。謝るくらいなら、初めから力を行使しない方がいい。
衛兵に先導させて、僕らはヴィセンテ塔を上っていく。この塔には螺旋状に階段が取り付けられていて、その中途に扉がついていた。いずれも重要人物が囚われている独房ということになるのだろう。先ほど通り過ぎてきたエリス監獄の様子とは違い、とても静かなものだった。まるで沈黙の死を楚々と受け入れているような、一種の不気味ささえ漂っていた。
何十段かの階段を上ったところで、歩みが止まった。衛兵は鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。どうやら僕は当たりを引いたようだ。もっとも、鍵を持っていなかったら、持っている者から奪わせるだけではあったが。
万一の可能性として、この扉がフェイクである可能性もあった。緊急時に使用する魔法鍵を差し込むと、この塔自体が異空間に放り込まれる、そういう術式が使われているという仕組みだ。
しかし、そのようなこともなく、扉は普通に開いた。僕の考え過ぎだったようで、一安心である。
「処刑の時間ではなさそうね」
囚人服を来ている、美しい少女がいた。なるほど、リリ・トゥルビアスの妹と言われれば、面影を感じる部分があった。ただ、こちらの方が清楚というよりは勝気であり、短めの髪もその印象を助長していた。
彼女が処刑と勘違いしつつも、そうでないと悟った理由も推測することができた。食事や尋問以外で扉が開くのは、せいぜい処刑が確定した時くらいだろう。だが、衛兵とともに入ってきたのは、明らかに異質な僕たちだ。
「サマー」
「プラム、プラムじゃないの」
プラムがサマーに駆け寄った。こんな境遇に置かれた彼女を労ってやるように、強く抱きしめている。
いい光景だ。
じゃあ、この光景を生み出すきっかけになったやつらには、相応の報いをくれてやらなければなるまい。