第49回「逃れ得ぬ犠牲」
いい情景だった。プラムとサマーはどうやら旧知の仲らしい。そんな二人が無事を喜び合う様は、僕としても自分の中のちっぽけな虚栄心を満たすことができた。
「再会の喜びは後に取っておこう。カレーと一緒で、寝かせれば寝かせるほど美味くなる」
「誰だか知らないけど、ありがとう」
カレーのくだりは余計だったな、と反省する。第一印象としては首を傾げたいものがあるだろう。
「僕はリュウだ。君を助けに来た」
「それなら、他にも……部下が捕まっていて」
「名前は」
「カディ、カディ・ヤオ」
アンディ・ラウみたいな名前だな。そう思ったが、ここはそもそも世界が違うことに気づいた。全く僕の無意味な連想力にも困ったものだ。
「では、聞こう。カディ・ヤオの牢はどこだ。余計なことを喋った瞬間に舌を引きちぎる。どうせ探せばいいんだからな」
僕は自分の雑念を振り払うかのように、衛兵に詰め寄った。
「死んだ。カディ・ヤオは死んだ」
吐かれた言葉は、あまり聞きたくない類のものだった。
「死んだですって」
サマーがプラムから離れ、大股で歩いてきた。彼女の脚はやや衰えているとはいえ、上質な筋肉で覆われていた。さぞ優秀な戦士なのだろう。
「お前を、サマー・トゥルビアスを守って苛烈な拷問を受けた。だが、拷問吏がしくじって……」
「私は研究素体としてしか利用されなかった。だからなの。そんな。そんなことが」
悪い報告だ。僕としては絶対に立ち会いたくないようなシチュエーションだと言える。しかし、これが現実だというのなら、受け止めなくてはならないだろうし、サマーにも了解してもらわなくてはならない。
ただし、真実ならばという注釈がつく。
「誇り高きリリ・トゥルビアスの妹よ。僕はこれからこの城を懇切丁寧にぶっ壊そうと思うんだが、君もそれに参加するべきだと考える。その前に、とりあえずは牢屋という牢屋をすべて確かめようか」
「お姉様を知っているの」
「ああ。僕が君を助けに来たのは、因果をたどれば君のお姉さんのおかげとも言える。で、どうする」
僕の言葉に、サマーは一瞬だけ目線を外した。思考に入ったのだろう。ただそれも本当にわずかな間のことで、すぐに僕の目を見返してきた。決意にあふれた、戦う少女の瞳だった。
「一応、この塔だけ、ここだけ調べさせて」
「いいとも」
プラムが僕の横を通り過ぎ、階段の手すりから下を見る。
「神、下から敵が来るぞ」
「入り口を塞いでおこうか。あとは尋問の続きだ」
僕は光の矢を両手に発生させ、速やかに入り口めがけて撃ち下ろした。高速で飛ぶ光の矢は寸分たがわずに入り口の上方部に命中し、そこを崩落させて誰も通れなくした。