第47回「エリス監獄、ヴィセンテ塔」
空気が震え、監獄が鳴動する。
「そんな。なんて力だ」
捕吏たちが後退り、騎兵たちの馬が暴れだす。看守は武器を手にしたが、目に見えての及び腰。とても僕らを止めることは不可能だ。
「僕はやる時はやる。痛快なくらいにね」
わかるだろう。僕は本気なのだ。ここまで何やかやと理由をつけて、名前に反して破壊を避けてきた。しかし、今こそ力を行使すべき時は来た。
僕が手をかざすと光球が生まれた。雷撃を球形に保持させたものだ。さながらエネルギーの球体とでも言うべきそれを、エリス監獄の第二の門を目掛けて放った。
雷球は狙いから寸分違わずに飛翔し、門に衝突して雄叫びを上げた。奏でられる破壊のアンサンブルだ。門も門扉も吹き飛んで、ついでに周りの壁も崩れる。今まさに巨人が全力の一撃を食らわせたかのように、辺りに轟音が満ちる。
「すさまじい威力だ。だが、先に建物を崩さないように注意する必要があるな」
「安心してくれ。力を抑えている。僕は彼らに恨み骨髄だが、我を忘れるほどではない。では、行こう。絶対君主に囚われた、哀れな子たちを解放しに向かおうじゃないか」
僕はプラムを促し、走り出した。その速度はもはや常人のレベルを超えており、捕吏や看守に捕えられることなどなかった。
「助けてくれ」
「ここから出してくれ」
破壊で状況を把握していない囚人たちが、ともあれ逃げ出すチャンスなのだろうとばかりに鉄格子に取りすがり、悲鳴に近い訴えを投げかけてきた。僕らはそれを無視して猛スピードで駆け抜ける。
「神」
「彼らに手助けする義理はない。重要犯罪人を捕まえている塔に向かうのが先決」
僕はエリス監獄を隅々まで見て回ったわけではないが、ここにヴィセンテ塔という場所があることは承知していた。そこには王国にとっての重要犯罪人が囚われているというのは、ルテニアに暮らす者ならば大半が知っていることだ。
王国にとっての重要犯罪人と言えば、後継者争いで敗れた王子や王女と相場が決まっているが、もちろん他にもいるだろう。サマー・トゥルビアスがそこに属すると考えるのは当然の流れだった。
「誰だ」
「僕だ」
エリス監獄からヴィセンテ塔への広い通路を駆け抜けて、僕は六人もいた衛兵を丹念に投げ飛ばした。殺しはしないが、死ぬほど痛かったはずだ。単に投げ飛ばしただけではなく、一撃を加えた相手もいた。彼らは武装を整えていたが、だからといって、僕に勝てる道理はない。
念のため、倒れている彼らに最小限の回復魔法をかけておく。
「本当に恨みがこもっているな」
「そうだろう。危うく殺してしまいそうなくらいだ。僕は優しいんでね。害虫も物陰で死んでほしいと思っている」
「人間的な思想だ」
プラムが呆れた様子だった。いいことだ。これでまた一つ相互理解が進んだことになる。互いに誤解をなくす過程は大事で、これを疎かにすると新婚生活がいきなり破綻する。いや、僕と彼女は決してそんな仲ではないから、起居を共にするパーティーと改めておこうかな。
その意味において、僕がシャノンたちと旅を始めた時、認識のすり合わせが甘かった点は否めない。何事も学習だ。