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文化祭とクリアリーブル事件㊿




数分後 帰り道


「先輩、今日は文化祭お疲れ様でした!」
「見事、完璧にやり遂げましたね!」
結人は今、10人の後輩と共に病院へ向かっている。 
本当は一人で病院へ戻るつもりだったのだが、夜月が後輩に『ユイを送ってやれ』と言い渡したため現在こういう形になっていた。
夕焼けがとても綺麗で、今日一日を締めくくる景色にとても適している。 そんな罪もなく裏切らない夕焼けを見ながら、結人はそっと口を開いた。
「さんきゅ。 そんなことより、明日からお前らは学校だろ? こんなところで、呑気に俺と歩いていていいのかよ」
結人は当然、普通の速度では歩けない。 こんなにゆっくりなペースで病院へ向かうとしたら、今朝と同様30分以上はかかってしまう。
そのことに対して後輩を気遣いながらそう言うが、彼らは淡々とした口調で返事をしてきた。
「俺たちに問題はありませんよ!」
「そうですよ。 俺たちよりも、将軍のお身体の方が心配です」
「おいおい、今将軍は止めろよ」
後輩の口から“将軍”という単語を聞き、笑いながらすぐさま否定の言葉を述べる。 そして最近起こっている事件を身に染めて感じながら、続けてゆっくりと言葉を紡いだ。
「夕日が沈むとすぐに暗くなる。 だからその前に、お前らには横浜へ戻ってほしいんだ」
未だに続いている、謎が深まるばかりのクリアリーブル事件。 そのことを直接口には出さず、遠回しに言ってこの立川の危険さを彼らに伝える。
だけどまたもや後輩は、そんな結人の気遣いをものともせず淡々とした口調で言葉を返してきた。

「それってつまり、最低夕日が沈むと同時に電車に乗り込めばいいんすよね?」

「は?」

突然瞬時に理解できない発言をされ、思わず結人は聞き返す。
「いやだから、夕日が沈む時には立川から離れていればいいって、いうことでしょう?」
相変わらず堂々と口にする後輩、春馬に向かって呆れた口調で言い返した。
「春馬、お前なぁ・・・」
春馬は結人の学年より一つ下で、自分の学年をよくまとめており後輩の中でもリーダー的存在の少年だ。
かといって結人を馬鹿にしているわけではなく、少しでも多く結人と一緒の時間を過ごしたいというのが彼の本心だった。

「ははッ。 そんなことより先輩、藍梨先輩のことを聞かせてくださいよ」
「藍梨?」
「はい! こういう風に付き合った、とか」
笑顔で遠慮なく聞いてくる春馬に、結人は何一つ嫌な顔をせず言葉を綴っていく。
「そうだなぁ・・・。 ま、藍梨には俺から告白したよ。 二回共な」
「へぇ、先輩から・・・。 って、え? 二回!?」
「二回って、先輩何かやらかしたんですか?」
「何だよやらかしたって」
二人の会話に、近くにいた後輩も割って入ってきた。 そして結人は過去のことを思い出しながら、ゆっくりと語り始める。
「まぁ・・・お前らがいない間にも、色々とあってさ。 ・・・柚乃が、戻ってきたんだよ。 俺のところに」
「え・・・。 柚乃さんが?」
当然後輩にも柚乃と会わせたことがあるため、彼女がどんな人かを把握しながら彼は結人に聞き返した。 そしてその言葉に、苦笑しながら小さく頷く。
「そんでまぁ、一時は柚乃を忘れて藍梨に夢中になってな。 藍梨に告白したらOK貰って、付き合うことになった。 でもそっから一ヶ月後。
 また柚乃が俺の中に現れて・・・そりゃあもう、大変だったよ」
そう言って、自嘲気味に小さく笑ってみせた。
「それで・・・藍梨先輩とは、別れちゃったんですか?」
「あぁ。 藍梨が好きっていう気持ちはまだあったんだけど、藍梨から振られた時・・・俺、止めることができなくて。 まだ迷いがあったんだろうな、俺に。
 ・・・柚乃と藍梨、どちらにするかっていうさ」
過去のことを思い出せば、次第に締め付けられていく結人の心。 そんな苦しさに耐えつつも、後輩の前では平然なフリをし続けた。
「・・・それで、結局先輩はどうしたんですか?」
後輩のその問いに、少しの間を空けてから結人は答えた。
「俺がそうやってうじうじしていると、夜月が助けてくれたんだ。 ・・・優しく言葉をかけてくれたり、時には叱ってくれたり。
 そんな夜月が俺のことをずっと傍で支え、見守ってくれたおかげで、柚乃とキッパリ別れて藍梨にもう一度告白することができたんだよ」
そしてその後に続く結人の発言を予測した後輩は、先輩である結人を気遣いながら返していく。
「そう・・・だったんすね。 でも俺は、先輩と藍梨先輩、凄くお似合いだと思いますよ」
「俺もです。 藍梨先輩、想像以上に綺麗で性格もいい人で。 リーダーには、最適かと」
「はは、ありがとな」
“お似合い”と言われ、結人はその言葉を素直に受け取り喜んだ。 柚乃よりも藍梨の方が似合うということを傍から言われると、自分の何処かで安心し自信を持つことができた。
そんなことを思ってしまう自分は“まだまだだな”と思いつつも、今藍梨と付き合えていることに改めて感謝する。

「先輩ー。 他には何か事件とか起こらなかったんですかー?」
「んー? 事件?」
後輩にそう尋ねられ、結人は更に過去のことを思い出し振り返る。 そして思い浮かんだことを口に出し、小さく呟いていった。
「そうだなぁ・・・。 たくさんあったよ。 御子紫の事件や・・・未来と悠斗の事件・・・あとは優とコウのこととか・・・」
「優先輩とコウ先輩!?」
「え、二人は喧嘩とかでもしたんですか!?」
優とコウは後輩の中でも、仲のいい二人だと認められている。 そんな彼らは喧嘩なんて滅多にしないため、二人の事件と聞き後輩は瞬時に突っ込んできた。
その言葉に過去の二人のことを思い出しながら、結人はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「まぁ・・・そうだな。 ほら、コウってよく自分を犠牲にするだろ? そのせいで、ちょっとな」
「・・・?」
あまりにもざっくりとした説明に混乱する二人を見て、改めて言葉を綴っていった。
「コウは自分を犠牲にして、ある奴からいじめを受けていたんだよ。 それにいち早く気が付いた優は何があったのかをコウに聞くんだけど、全然答えてくれなくてさ。
 それでも、聞き続けたんだよな。 だけどその結果・・・コウは優に『しつこい』とか言っちまって、そっから関係が拗れたんだ」
「でも・・・今は仲直りしているんですよね?」
心配そうに尋ねてくる後輩を安心させるよう、結人は笑って言葉を返す。

「もちろん。 仲直りしたさ。 でも俺は、あの二人の関係が崩れてよかったと思っているよ」

そう言って、自然と顔を上げ空を見た。 結人が目にした空は、雲が夕焼けに綺麗に覆い被さっており芸術的な模様となっていた。
「・・・どうしてそう思うんです?」
突然変なこと言い出す結人に違和感を感じながらも、刺激を与えないよう後輩は静かにそう尋ねてくる。 そして空を見上げたまま、その問いに答えた。
「あの二人は仲よ過ぎるんだよ。 今まで、アイツらが喧嘩しているところなんて見たことがねぇだろ? 
 もし関係が拗れそうになっても、コウが折れてそうさせないようにしていたんだよ、きっと。 ・・・いや、そうとしか考えられねぇけどな」
「・・・」
「未来と悠斗みたいに、自分の意見をハッキリ言えないと駄目なんだ。 どんなに仲がよくてもさ。
 お前らだって、コウたちよりも未来と悠斗の方がいい関係を築いているって思うだろ? そう思うのも、この理由さ」
「え・・・。 でも、未来先輩と悠斗先輩の場合は・・・悠斗先輩の方が、折れている感じがしますけどね」
「傍から見るとそうかもしんねぇけど、悠斗の奴、案外かなりの頑固者だぞ?」
そう言って、結人は笑ってみせた。
「え、そうなんすか!?」
「そ。 まぁもっと言うと、悠斗は本音を未来にしか言わないってのもあるけどな。 未来に対しては結構思ったことをズバズバ言うぞ、アイツ。
 そんで、どちらかというと未来が折れて悠斗に謝るパターンが多いのも事実だ」
「マジっすか!?」
「さっきからどんだけ驚いてんだよ」
オーバーなリアクションをしながら驚く後輩を見て、笑って突っ込みを入れる。 そして今話したものを全てまとめるように、結人は目を瞑りながら口を開いた。
「だからまぁ・・・コウたちも、一度は自分の意見をぶつけて喧嘩した方がよかったんだよ。 だからその願いが、今回は叶ってよかった。 俺はそう思っている。
 その事件によって、二人はよりいい関係を築くことができたんだからさ」
それともう一つ、この事件には感謝していることがあった。 それはもちろん、コウが自分の嫌な気持ちを少しでも吐き出せるようになったことだ。
その事件で彼は少し変わることができた。 それも含めて、この事件は起きてよかったと心の底から思っている。

そしてこの話を終える頃には、いつの間にか病院へ着いていた。 入り口まで行き、結人は後輩がいる後ろへ振り返る。
「そんじゃ、送ってくれてありがとな。 お前ら早いうちに帰れよ。 今日は本当に、文化祭に来てくれてありがとな」
「いえいえ、俺たちも楽しかったです!」
「先輩、お大事にしてくださいね」
後輩らの言葉を聞き、小さく頷いた。 そしてもう一度、彼らに向かって確認を取るようにこう言い放つ。
「いいか? ちゃんと週末は予定を空けておくんだぞ。 そして体調を崩さないように、体調管理もしっかりしておけ。 怪我とかすんじゃねぇぞ」
「「「はい!」」」
後輩らの元気な返事を聞いて、結人は満足する。 そして彼らと少しの間会話をし、みんなとは別れた。 この後は何事もなく、無事に文化祭の日が終わりを告げる。


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