文化祭とクリアリーブル事件㊾
その後は伊達の友達4人と仲よくなり、一緒に文化祭を回ることになった。 4人とも思っていた通りいい人で、結人は一安心する。
どうして未来とは面識があるのかについては、気になったがあえて聞かないことにした。 きっと、彼らなりに事情があるのだろう。
結黄賊全員は紹介できなかったが、真宮、御子紫、椎野、北野以外のみんなには顔を合わせることができた。 といっても、この場にいてくれたからなのだけど。
そして他愛のない話をしながら文化祭を満喫していると、あっという間に終わりを告げる時間となってしまった。
本当は会話の中に“結黄賊”というワードも当然出てきたのだが、この場ではそういう話をなるべくしたくないと思い強制的に終わらせた。
伊達が簡単にクリアリーブルの仲間だと紹介をしたのは、彼らは人が多くこの沙楽学園にも同じチームに入っている者はたくさんいると思ったため、
堂々と口に出すことができたのだろう。
自分がクリアリーブルだということを名乗ったとしても、結局は何も起こらない。 だから隠す必要もないのだ。
文化祭を終え、体育館に集まるようアナウンスが流れた。 これから行うのは、ユーシの結果発表と文化祭を終える式だろう。
伊達の仲間たちと共に体育館へ行き、一般の人は後ろに並べてある椅子に座り、沙楽の生徒は前に並べてある椅子にクラスごと座っていく。
本当は後ろで仲間と集まって結果を聞きたかったのだが、文化祭の最後はちゃんとしようとみんなは各自席に着くことにした。
そして――――ついに、ユーシの結果発表の時。 1位、2位、3位と発表され――――残すは、4位と5位になる。 結人と優の両チーム共、まだ名は呼ばれていない。
といっても、1位から3位は結人が予想していた通り全て3年生が獲得していた。 “思っていた通りでつまらないな”と思いつつも、4位と5位に僅かに期待する。
そして、4位の発表――――
『続いて4位! 4位は・・・ドレミファクレヨンズによる、マジックショーです! 拍手ー!』
―――また・・・3年か。
そんなことを思いながら、気持ちのこもっていない拍手を彼らに送る。 そしてラスト、5位の発表となった。
『続いていきます、ラストの5位の発表! 5位は・・・コネクトイエローシーフズによる、Grow yellow glowです! 拍手ー!』
そのアナウンスの言葉を聞き、結人の思考は一時停止する。
―――え・・・マジで?
一瞬何が起きたのか分からず席に座ったまま固まっていると、斜め後ろの方から名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ユイ! 椎野が、ユイに行ってほしいって!」
その声の方へ振り向くと、丁度4組の外側の席にいた悠斗が結人に向かってそう口にしていた。
周りから聞こえる拍手は鳴り止む気配がないため“俺がステージに上がるのを待っているんだ”と気付き、慌ててその場に立ち上がり移動する。
3年の中に自然と加わった結人は、緊張のせいでより身体が動かなくなっていた。 それでも必死に脚を動かし、ステージへ続く階段をゆっくりと上る。
そして1位から順に表彰され、結人も彼らに続けて表彰された。 そして賞状と共に、数枚のプリントが先生から手渡される。
それには結人たちが踊っていた時にいつの間にか撮られていた数枚の写真と、結人たちチームに投票した理由をまとめたものが記載されていた。
そして――――その理由らを見て、結人は一瞬苦笑いをする。 その後は無事に結果発表を終え式も終わり、文化祭の幕を閉じた。
一般の人が次々と帰って行く中、結人たちは廊下に立ち止まりその場でたむろっていた。
「どうしてユイたちのチームだけ表彰されてんだよ! おかしいだろ!? 俺たちも完成度高かったはずだ!」
「やっぱりもうちょっと練習しておくべきだったかなー」
この結果を見て怒ったりふてくされた態度を示す、未来と優。 そんな中、夜月が結人のもとへ近寄ってきた。
「どれどれー・・・」
そう言って結人の持っているプリントを勝手に奪い取り、書かれている内容に目を通す。
「・・・なッ、何だよこの理由! こんな理由じゃ俺たち勝てるわけねぇじゃん!」
「理由?」
夜月の大きな声により、優たちメンバーも結人の周りに集まり夜月が持っているプリントを覗き込んだ。
「・・・はぁ!? 待って、これはズルいよ!」
「コウについてばかりじゃん」
「神崎くんカッコ良過ぎです付き合ってください・・・って、これ愛の告白かよ」
そう言ってみんなはコウについて話をしているが、その本人はというと窓から外の景色を眺め彼らの発言を聞こうとしない。 いや、聞きたくないからかもしれない。
そう、彼らの言っている通り結人たちのチームに票を入れてくれた理由は7、8割コウのおかげだった。
“右から2番目の男子が素敵でした” “右から2番目の子超イケメン” “神崎くん相変わらずカッコ良かった” “神崎くん本当に最高!” など。
そして――――残りの2割は、結人のおかげでもあった。
“本当は入院しているはずなのに、頑張って学校へ来ていて凄いと思ったから” “怪我をしているのに頑張っていたから” など。
パフォーマンスの完成度ではなく、コウと結人のよさについてしか書かれていないためあまり満足のいく理由ではない。
だから当然、優たちメンバーが怒っても仕方がないと思った。 それでも納得がいかなかった未来は、生徒会室に乗り込み未来たちのチームは何位だったのかを聞きに行ったそうだ。
その結果、未来たちの順位は7位だったらしい。 半分よりも上だし、結人たちとそんなに変わらなかった。 そして、何といっても大事なのは理由だ。
だが優たちのチームに入れた理由は、ほとんどが夜月のカッコ良さで入れられたものだった。 他の意見では優の歌が上手かったというのもある。
これはどう見てもおあいこだ。 だから互いに、どうこう言える筋合いはない。
―――まぁ、いいじゃないか。
―――みんな、楽しめたならさ。
「結人くーん!」
ふいに聞こえる甲高い女性の声。 あまり聞き慣れないものだったため不審に思いつつも、声のする方へ目を向けた。
「結人くん久しぶりね。 直樹から聞いたわ、今入院していること。 怪我の方は大丈夫なの?」
直樹の母だ。 相変わらず元気で、笑顔の似合うとても綺麗なお母さん。 誰とでも仲よくできて気の優しい人のため、自慢できる母親だと思う。
「お久しぶりです。 怪我の方は、今は一応アザだけなので大丈夫っすよ。 それにほら、ちゃんと歩けるようにはなりましたし」
不安そうに尋ねてくる伊達のお母さんに対し、結人は心配かけないよう笑顔で言葉を返した。
「そう? ならよかったわ。 結人くん、一人暮らしなんでしょう? あ、藍梨ちゃんと今は一緒に住んでいるんだっけ。
二人でも不便なこととかはあると思うから、何かあったらすぐ私に相談してね。 できる限りのことは協力してあげるわ」
「えぇ、ありがとうございます」
立川に親がいないということから、伊達のお母さんは結人のことを自分の息子のように見てくれていた。
それに対しては別に嫌な気はしていないし寧ろ嬉しいのだが、申し訳ない気持ちも混ざり合い複雑な気持ちになる。
「あ、そう言えば見たわよ、結人くん! 劇の王様役と、ユーシで披露した歌!」
「マジっすか? 何かお見苦しいところを・・・」
「ううん、凄くカッコ良かったわよ! 王様の時に言った台詞も凄くいいものだったし、歌も凄く上手いのね」
「はは、それはどうも」
どこまでがお世辞でどこまでが本音か分からない言葉を聞き流しつつも、丁寧にお礼を言っていく。
「歌と言えば、結人くんの前に発表した子も歌上手かったわね」
「あ、優のことっすか? 優ならコイツですよ」
そう言って、近くにいる優を手招きし伊達の母に紹介してあげた。
「貴方が優くん? 名前通り可愛らしい顔をしているわね。 歌聞いたわよ、凄く上手じゃない!」
「あ、えっと・・・。 ありがとうございます」
初対面の女性に戸惑いながらも、いつもの癒しの笑顔で礼を言う優。 そして伊達の母は結人の周りに集まっている集団を見て、不思議そうに呟いた。
「この子たちって・・・みんな結人くんのお友達なの?」
「え? あぁ、はい。 みんな、俺の大切なダチっすよ」
急に話題を変えられ一瞬言葉が詰まるが、思考を素早く切り替え上手く話を繋げていく。
「凄いわねー。 思っていた通り、結人くんの周りにはいい人がいっぱい集まるのね」
「・・・そう、っすか?」
その発言に、結人は何処か違和感を感じる。 その気持ちのまま曖昧な返事をすると、今度は聞き慣れた声が結人の方へと近付いてきた。
「おいー!」
伊達だ。 彼がまた怒りながら結人たちの会話に入ってくる。
「母さん! 何でまだ学校にいんだよ! 文化祭が終わったらすぐに帰れって言ったろ!」
「帰ろうとしたら結人くんの姿が見えたんだもの。 挨拶しておかないと悪いでしょ」
「じゃあ挨拶は済んだんだからもういいだろ! 頼むからさっさと帰ってくれ!」
―――そういや・・・伊達って、いつもお母さんと口喧嘩しているよな。
―――仲悪いってよりも・・・お母さんと俺を、会話させたくないのかな。
伊達と母はしばらく言い合いをし、結果母の方が折れたようだ。
「仕方ないわねぇ・・・。 あ、結人くん。 よかったら家に泊まりにきてね? もちろん藍梨ちゃんも連れてきていいわ。 待っているからね」
「ありがとうございます。 いつかお邪魔させていただきます」
結人は丁寧に礼を言い、伊達のお母さんと別れた。 そしてそのまま辺りを見渡すといつの間にか文化祭の片付けに入っているようで、生徒は皆廊下を行き来し忙しそうにしている。
“自分も手伝った方がいいよな”と思いここにいる仲間に向かって口を開こうとすると、その行為は御子紫によって防がれた。
「なぁ、ユイ。 ・・・クリーブル事件に関しては、どうするんだ?」
その一言により、この場にいる結黄賊のみんなは一斉に結人に注目する。
文化祭が終わった今、彼らの思考は文化祭からクリアリーブル事件の方へ一気に切り替わったのだろう。
彼らがまだ事件に興味を持っているということは、自分たちがこうしている間にも被害者が出続けているということからだろうか。
結人はそう察するが、今の状況を振り返り冷静に物事を考えた。 そして辿り着いた答えを、ここにいる仲間に向かって言い放つ。
「今日は文化祭なんだ。 今日一日終えるまでは、文化祭の日。 だから、今そのことを考えるのはよそうぜ。 今日は楽しい気持ちのまま、一日を終えよう」
そして続けて、仲間に向かって命令を言い渡す。
「明日、みんなは俺の病室に集まってほしい。 もちろん後輩は明日学校があるから、そっちを優先してくれよ。 集まるのは俺たち学年だけでいい。
そこで、これからどうするのかを考えよう。 後輩にも手伝ってもらうことになると思うから、週末は予定を空けておけよ」
「「「はい!」」」
明日明後日は、文化祭の振り替え休日だ。 そのことを予め知っていた結人は、彼らにそう命令を下した。
そしてみんなをまとめた後、これから文化祭の片付けを手伝おうとすると担任の先生から声をかけられる。
「おぉ色折、ここにいたか」
「あれ、先生ー。 こんなところにどうしたんすか?」
「色折はそろそろ病院へ戻れ。 片付けは他の生徒に任せればいい。 心配だから、明るいうちに戻るんだぞ。
先生が送ってあげてもいいんだが、この後会議があって送れそうにないんだ」
「あぁ、大丈夫っすよ。 了解です、片付けは任せて病院へ戻ります」
「そうしてくれ。 じゃ、病院へ戻ったら安静にしているんだぞ」
「はーい」
そして結人は先生と別れた後、同じ学年の仲間に向かって両手の平を合わせ謝るポーズを作った。 そしてそのまま、笑顔で彼らに言葉を発する。
「つーことで、俺はこのまま失礼します! あとの片付けは頼んだぞッ!」
当然この一言の後、結人は仲間からブーイングの声を浴びせられたというのは言うまでもない。