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文化祭とクリアリーブル事件⑤①




振り替え休日一日目 日中 結人の病室


文化祭を終え、ひと段落がついたと思いきや結人たちに再び襲いかかってくる恐怖、クリアリーブル事件。 結黄賊のみんなは休む暇もなく、次の行動へ移ろうとしている。
今日はこの後、結人の病室へ集まるよう彼らには指示してあった。 だが仲間が来る前に、結人は病室で一人あることを考える。
先程看護師が入ってきて、空気の入れ替えのため窓を少し開けてくれた。 そこから入ってくる冷たい風が、混乱した自分の頭を冷やすのに丁度心地がよかった。
そんな包み込むような風を身体全体で受け止めながら、まずは“自分がこうなってしまった”原点を思い出す。

―――あれは・・・確かに、アイツだった。

結人には一つ、思い当たる節があった。 確定とまでは言えないが、たった一つだけ、心に残っているものが。

―――どうして・・・アイツが・・・。

その記憶が、結人を再び混乱させる。 それと同時に、焦りや憎しみ、恐怖や悲しみなどの様々な感情も徐々に沸き起こってきた。

―――アイツじゃ、ないよな・・・。
―――誰か・・・違うって、言ってくれ。

この記憶を“何かの間違い”だと思い込みたいのだが、結人が実際“あの時”見たものは、紛れもなく事実だった。
この複雑な思いと共に窓から外の景色を眺め、きちんとした結論が出せないこのもどかしい気持ちを何とか落ち着かせる。
そこでふと下の方へ目をやると、仲間たちが目に入った。 そんな彼らの姿を見て、結人はこの複雑な気持ちを強制的に制する。

―――・・・後で、問いただせばいいか。

とりあえず、今日彼らに言い渡すことはそれ程大事なものではない。 さらっと命令を下して、解散させるつもりでいた。
―――藍梨もこの病室へ連れてきてくれるらしいけど、藍梨のこともアイツらに任せないとな。
そんなことを考えているうちにノックの音が聞こえ、結人はそれに対し返事をし仲間を病室の中へと誘導した。
「ユイー! 調子はどうですかー」
御子紫が笑顔で問いかけてくる。 みんなは元気そうで、振り替え休日のこの二日間を楽しみにしているようだった。
そのことを分かっていた結人は、できるだけ用事を素早く済ませ彼らに自由な時間を与えたいと思っていた。 だから命令する内容は、早く伝えられるよう予めまとめてある。
「俺は元気だよ。 じゃあ早速、今後どうするのかを言っていくからちゃんと聞いておいてくれ」
その言葉を合図に、みんなは結人のベッドを囲むよう円を作り、話を聞く態勢をとった。 当然結人の隣には、藍梨がいる。
そんな彼らを見渡して意を決した結人は、彼らに命令を下した。
「今の俺たちの人数じゃどう見ても不利だ。 だから、今回のクリーブル事件に関しては後輩も使おうと思っている」
結人のその言葉に、仲間たちは一斉に頷く。 そして彼らの反応を確認しながら、更に言葉を続けた。
「みんなには、夜のパトロールを続けてほしい。 真宮は御子紫と一緒に行動してくれ。 何度も言うが、絶対に一人ではパトロールをしないように」
「分かった」
その命令に、近くにいた真宮は頷いた。 そしてもう一つ、大事な命令を彼らに下す。
「あとみんなも気になっているとは思うが、クリーブルに関して探るのは危険だから止めるようにな」
「え、それも駄目?」
「当たり前だ」
御子紫の発言にすぐさま否定の言葉を述べる。 そして続けて、丁寧に言葉を紡いだ。
「もし探ってクリーブルが俺たちに襲いかかってきたらどうする? 今の俺たちの人数じゃ、負けるに決まってんだろ。 だから後輩が来るまでは大人しく待っているんだ。
 週末には後輩らを呼んで、クリーブル事件にケリをつけるつもりでいるから」
「・・・分かった」
結人の命令に渋々と了承した御子紫は、反論することなく口を閉じた。 そして最後に、ある一人の少年だけに命令を下す。
「未来」
「・・・何だよ」
突然名を呼ばれた未来は少し身体をビクつかせるが、すぐに返事をして次の発言を待った。 そして結人は、彼に微笑みかけながらある言葉を口にする。

「未来だけは、好きに行動してもいいぞ」

「ッ、は!?」

だがそう反応したのは、未来本人ではなく違う者だった。 
「待てよユイ、どうして未来だけなんだ!」
「そうだよ、だったら俺たちも行動したい!」
「駄目だ」
今それらの言葉を並べてきたのは夜月と優だけだったが、他のみんなは反論したくても口には出せなかったのだろう。 そんな彼らに、結人は自分の考えを紡いでいく。
「・・・未来の場合、いつも好きに行動した結果悪いことなんて起きていねぇだろ。 寧ろ俺たちが助かっている。
 いつも勝手な奴だってお前らは思っているかもしんねぇけど、未来は俺らのことを考えて行動してんだ。 ・・・だからきっと、今回も俺たちのために動いてくれるさ」
別に未来にプレッシャーをかけているわけではないが、これが結人の本当の思いだった。 そしてもう一度、念を押すように彼らに向かって口を開く。
「分かったな。 動いてもいいのは未来だけだ。 かといって未来、無理には動かなくていいからな。 動きたかったら動け。
 他の奴らも動きたい気持ちは分かるが、そこまで俺はお前らの安全は保障できない」
その言葉に納得がいったのかいっていないのかは分からないが、みんなは各々頷いていった。 リーダーの命令なら仕方がないと、思ってくれたのだろう。
「よし、これで話は終わりだ。 この後はみんなでどこかへ遊びに行くんだろ? だったら悪いけど、藍梨も連れていってくんないかな」
結人はみんなに向かって、苦笑しながらそう頼み込む。 そしてそれに一番最初に答えてくれたのは、やはり椎野だった。
「もちろん! 藍梨さんも一緒に行こうぜ。 てことで、今日明日は藍梨さんをお借りしまぁーす!」
「藍梨に変なことをしたら許さないからな? 北野、ちゃんと椎野を見張っておくように」
「分かったよ」
「なッ、俺が変なことをするとでも思ってんのかよ!?」
「椎野ならやりかねないからな」
「何だよそれッ!」
椎野のお調子者キャラのおかげで、張り詰めた空気は和やかなものへと徐々に変わっていく。 そんな雰囲気を全身で感じながら、結人は改めて言葉を紡いだ。
「そんじゃ、マジで藍梨を頼んだよ」
「おっけい! 任せておけって。 それじゃ、これからどこへ行くー?」
「まずは、その辺を適当に歩くか?」
そんなことを話しながら、みんなはこれからの予定を作っていく。
「このメンバーじゃあれだし、ついでに伊達も誘おうぜ」
「いいねー! 伊達は今日、予定空いてんのかな」
「伊達に連絡・・・。 あ、ここは携帯使えないんだっけ」
北野は携帯を取り出しながら、小さな声でそう呟く。 その言葉に対して、コウが返した。
「そうだな。 そろそろ外へ出て、伊達に連絡しよう」
「よーし! そうと決まればさっさと行動に移すのみだ! そんじゃユイ、安静にしておくんだぞ?」
「あぁ、分かったよ」
椎野のその言葉に、結人は頷きながら返事をする。

―――・・・俺も、みんなと一緒に行けたらよかったのにな。

「未来も行くか?」
いつもなら自然と輪の中に入ってくるはずの未来だが、今日は珍しく会話に入ってこない。 そんな彼を不思議に思いつつも、椎野はそう言葉を放った。
すると未来は一瞬困った表情を見せるがすぐに作り笑いをし、仲間に向かって言葉を返す。
「・・・いや、俺今日はいいや」
この返事を聞いた瞬間、みんなはきっと同じことを思ったのだろう。 “未来は早速、今から動くんだな”と。
そのことを瞬時に察した椎野は、彼と同様笑顔を作って返事をした。
「ん、分かった。 じゃあまた誘うな」
「あぁ、悪いな」
申し訳なさそうに謝る未来に対し、御子紫はみんなの気分を盛り上げるよう元気な声で言葉を発した。
「それじゃあ、早速外へレッツラゴー!」
その言葉を合図に、みんなはこの病室から次々と出て行く。 結人はそんな彼らを見送りながら、ある一人の少年を呼び止めた。

「真宮」

「ん?」

「・・・ちょっと、いいか」

先刻とはまるで違い真剣な顔をして呼び止めると、真宮は怪訝な面持ちを見せつつも小さく頷いた。
だがそれにもかかわらず、用件を言ってこない結人を見て察する。 “ユイはみんなが出て行くのを待っているんだな”と。
「それじゃあ、また来るからな」
最後に病室から出た夜月は、真宮がまだ残っていることに疑問を抱きつつも、気を遣うようにしてそっと扉を閉めた。
そしてこの部屋には二人しか残っていないことを確認すると、改めて口を開いてくる。
「ユイ? どうしたんだよ」
今真宮の目には平然とした結人が映っていると思うが、結人自身は平然となんかしていなかった。
少し震える身体を無理矢理抑えながら、どうしようもなく締め付けてくるこの苦しい心に耐えながら、先程からこの場をやり過ごしていた。
「・・・ユイ?」
心配そうに真宮が呟く。 そして結人は、ゆっくりと顔を上げ彼のことを見た。 普通に見ているのではない。 ――――真宮のことを、不審な目で見ているのだ。
「・・・何だよ」
真宮はその目を見て恐怖を感じながらも、必死に声を絞り出す。 そして――――結人はついに、言葉を静かに発した。
「・・・真宮。 お前は今、何をしている?」
「は・・・? 何って、何のことだよ。 俺、何もしてねぇよ」
「・・・そうか」
彼は必死に目を合わせようとしているが、少しだけ目が泳いでいるのを結人は見て取れた。
―――真宮・・・お前はこれから、何をしようとしているんだよ。
本当のことを言っているのか、それとも嘘を言っているのか分からない真宮に対し、結人は決定的な言葉を彼に言い放った。

「じゃあ・・・どうして俺を、階段から突き落したりしたんだ?」


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