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文化祭とクリアリーブル事件㊼




前奏が始まり、結人の後ろにいる4人たちは曲に合わせて踊り始めた。 そんな彼らの様子を背中で感じながら、結人は目を瞑って曲の世界に入り込む。
歌詞を思い出すと、高校に入ってから今まで起きた過去の出来事が、頭の中を次々と過っていった。 
その大切な過去と共に、結人は一つずつの歌詞に気持ちを込めながら丁寧に歌い上げていく。

「♪ファンタジーとリアリティ 理想と現実が混ざり合いもう見分けがつかなくなった」

この歌詞で思い出されたのは、やはり高校入学した時に経験した恋愛。 そう、藍梨のことだ。 結人は藍梨と再会するために、ここ立川にある沙楽学園へ進学することを決めた。
その夢が現実となりとても嬉しかったのだが、やはりそこで待っていたのは幸せなことばかりではない。 結人にとって逃げられない過去が――――自分を苦しめたのだ。
その過去とは、元カノである柚乃のこと。 彼女はまだ結人のことを忘れられないようで、再び近付くことになる。
結人の心は藍梨の方へ傾いているはずだったが、柚乃に色々と吹き込まれ藍梨に対する“好き”という気持ちに迷いが出始めた。
“俺はまだ藍梨のことが好きだ”と自分に何度も言い聞かせるが、過去の自分が今の自分をどんどん苦しめる。 
“これは現実であってほしくない”という儚い望みを、持ち合わせながら。

「♪だけどたくさん迷い最終的に立ち止まってしまった時 責め続けた自分を仲間が救ってくれた」

自分の心が迷ってどうしようもなくなった時、結人は自分のことをずっと責め続けた。 藍梨のことが好きなのは事実なのに、柚乃をキッパリ切り捨てられずにいる自分。
そんな結人を助けてくれたのは、やはり仲間だった。 いつも隣にいてくれた真宮の協力により、結人の心から徐々に迷いがなくなっていく。
その勢いで、柚乃との関係を決着つけずに藍梨に告白をした。 結果はOK。 ここからは柚乃のことを忘れ、藍梨と幸せな日々を送ることになる。

「♪必ず毎日朝を迎えられるわけではない だから不安な気持ちが消え去ることはないだろう」

この歌詞で思い出されたのは、入学して早々起きた未来と悠斗の事件。 二人の思い違いで起きたものだ。
未来は喧嘩をしたと先生に言われ一時は停学を食らってしうが、仲間のおかげでそれはなしになった。
だがここで重要なのはその問題ではなく、未来と悠斗の関係についてだ。
二人はよく喧嘩をするため放っておいても大丈夫なのだが、今回は未来の停学がかかっており簡単に放置するわけにはいかなかった。
そこで結人は二人の間に入って事情を聞き、少しだけ仲を取り戻すことに協力した。 普段は喧嘩をすると未来が先に謝り、悠斗がすんなりと許すパターンが多い。
だが今回は、悠斗から未来に謝ったのだ。 最初は、悠斗は不安だらけで仕方がなかったのだろう。 “許してくれなかったらどうしよう”と、悠斗の気持ちは常に揺らいでいた。

「♪だけど気持ちが通じ合ったあの瞬間 あの感動はみんなの胸にも刻まれた」

悠斗が勇気を出して謝ることができたおかげで、二人は無事に仲直り。 悠斗から謝ったことにより未来は少し怒っていたが、それはお互い様。
この二人は切っても切れない糸で繋がっている。 だからこれからどんな困難が彼らの前に現れて行く手を阻もうとも、未来と悠斗で協力し突破していくのだろう。
二人がこの先ずっと仲よくいてほしいと思っているのは結人だけではない。 結黄賊のみんなも、そう願っているはずだ。

「♪今の自分を見つめ変化を求め」

最近起きた出来事と言えば、今現在迎えている文化祭。 この文化祭で一番活躍したのは、やはり櫻井だと思う。 伊達いわく、櫻井は中学時代から口下手だったという。 
そのせいでいつも周りからからかわれていては、それを必死に耐え受け流す日々だった。 だけど彼は、文化祭という行事のおかげで人生が少し変わることになる。 
結人のおかげで、彼は徐々に変わり始めていく。

「♪過去なんて全てここに置き 振り返ることなくこれからは仲間と共に前へ進んでいく」

櫻井はずっと一人だった。 こんな自分はもう変われないと思い込んでいた。 “周りからからかわられている俺”を客観的に捉えることにより、今までを何となくで過ごしてきた。
“いつもまともに話すことができず、曖昧な返事をしてしまうためみんなは俺を面白がってからかっている”と、櫻井は自分でも理解し認めていた。
だけどそんな中、結人だけは彼に違う言葉を言い渡す。 『そんな櫻井にも、いいところはいっぱいあるんだよ』と。 櫻井にとって、初めて自分を否定しない言葉。 
その言葉を聞き、櫻井の心は次第に動かされていく。 結人に徐々に心を打ち明けていき、心はどんどん動かされていった。
最終的に、結人には自分の思ったことを口にできるようになる。 この時、櫻井はきっとこう思ったのだろう。
“今までの自分なんか捨ててしまえばいい。 ここからまた、新たな一歩を踏み出せばいい。 だってもう俺には、味方がちゃんといるのだから”と。

―――1番を歌い切ったっていうことは、次は階段を降りて一周回るのか・・・。
―――痛さが顔に出ないようにしねぇとな。 

「♪奪われたものは簡単には許せなくて 心が交差してはみんな離れていく」

ここで思い出されたのは、執事コンテストのこと。 藍梨の方ではなく伊達のことだ。 藍梨は伊達に誘われ、それにOKしてしまう。 そうなってしまったのも、全て結人のせい。
伊達が藍梨を誘ったことから、伊達は彼女に気があると最初から分かっていた。 そんな彼に、藍梨を譲ってもいいのかもしれないと考えたことさえもあった。
二人は一緒に下校したり遊びに行くことが徐々に増えていき、そのことを知っていた結人は次第に伊達を敵視し始める。
一時は藍梨と別れてしまうがまだ彼女に好意はあったため、そんな彼女と常に行動を共にしている伊達のことが許せなくなった。
だけど自分には二人の間を裂く権利なんてものはないと分かっていたので、黙って二人のことを遠くから見守るだけ。

「♪だけど今となり真実を知って 逆に思い込んでいた自分が許せなくなった」

今となっては、どうして伊達とあんな出会いをしてしまったのだろうと、結人は自分を悔やんでいた。 本当はもっといい出会いを彼とはしたかった。
伊達はとても人柄がよく、今一緒にいて嫌な気なんて一切しない。 藍梨を好きになって誘ってしまったのも、藍梨が結人と付き合っているのを知らなかったからだそうだ。
何も伊達は悪いことをしていないのに、一度は彼のことを嫌な風に思ったり敵視したりしてしまった自分が、許せなくて仕方がなかった。
だがそんな結人に対して伊達は何も思っていないようで、これらは全て結人が思い込んでいるだけとなる。 だが結人は、そんな彼に感謝をしていた。
“あんなに俺は伊達に自分勝手で酷いことをしたのに、今でも俺と普通に接してくれてありがとう”と。

―――やっぱり歩くだけでもいってぇなぁ・・・。
―――痛過ぎて、逆に笑えてくるわ。
―――・・・あ、後輩たちだ。
―――手を振ってくれているから、振り返してやろっと。

「♪君はいつも本当の自分を隠していた 本当は苦しくても平気なフリして一人泣いていたんだろ?」

ここで思い出したのは御子紫。 御子紫と日向の事件だ。 と言っても――――一番の原因は、結人なのだが。 御子紫が言うには、結人は神の存在だという。 
それだけ彼は、結人のことを尊敬し忠誠を誓っていた。 だがある日、突然御子紫に悲劇が訪れる。 大切に思っていた結人のことを、罵る奴が現れたのだ。 彼の名は日向。
日向は最近調子に乗っている結人のことが気に食わないらしく、結人を笑い者にしながら友達と会話していた。 その中に御子紫はすぐさま割って入り、悪口を止めるよう促す。
結人のことを大切に思っていた御子紫にとっては、とても苦しい状況だった。 今すぐにでも手を出したいのに、命令が出ていないため手を出せずにいる自分がとても悔しかった。
本当は苦しくてこれ以上結人の悪口を聞きたくないため、早くその場から逃げ出したかった。 もしくは日向を殴ってでも、悪口を止めたかった。
だが――――その両方を行動に移せなかった御子紫は、更に自分を悔やみ責め続ける。

「♪でも君が今でも頑張っていること僕は知っているから それを初めて口にした時本当の友情を知った」

そこでやっと御子紫の異変に気付いた結人。 自分のせいでこうなってしまったと重く責任を感じながら、上手く仲間を使って解決させていく。
もちろん結人は日向を許してなんかいない。 だからせめて、仕返しだけはしたかった。 御子紫に苦しい思いをさせてしまった分、その倍となる仕返しを。
結人の計画と仲間に言い渡した命令により、無事に解決することができた。 そこで結人は、初めて御子紫に自分の思いを告げる。
今まで自分のことを庇ってくれたことに感謝しながら、今まで何もできなかったことを謝罪しながら、そして、御子紫が好きだという思いと共に。

―――・・・あ、クラスのみんなも手を振って俺の名前を呼んでくれてる。
―――ありがとな、みんな。

「♪仲間が傍にいることが当たり前で 終わりなんてないと思っていた」

ここで思い出すのは、藍梨と一度別れた時のこと。 結人にはまだ忘れられない過去があった。 柚乃との関係に決着をつけていなかったため、今となって過去が結人を苦しめた。
そこである日、藍梨との約束を破り柚乃のもとへと足を運んでしまった結人。 そこから、結人と藍梨の間には亀裂が入ってしまうことになる。 付き合って約一ヶ月。 
二人はこれから先も、ずっと一緒だと思っていた。 別れることなんてないと思っていた。 なのに――――終わりを告げてしまったのだ。

「♪もしまたこの穴が塞がれるようなことがあるなら もう二度と手を離さないだろう」

梨咲とのこともあり、複雑な感情を持ったまま過ぎ去っていく日々。 そこでまた結人を助けてくれたのは、やはり仲間である夜月だった。
柚乃との関係にけじめをつけることができない結人を見て、夜月はそんな結人に言葉をかけ続け次第に心を動かしていく。
時には優しい言葉をかけ、時には厳しい言葉を投げかける。 それらを言われて実際どう影響を受けたのかは分からないが、確かに結人の心は少しずつだが動かされていた。
夜月が結人の心を支えてくれたことにより、結人はけじめがつき再び藍梨に告白する。 そしてもう一度付き合い出し、その後はちゃんと柚乃ともキッパリ別れることができた。
この選択に当然後悔なんてしていないし、寧ろこれで大正解だと思っている。 
この時になって初めて結人は“今まで藍梨に苦しい思いをさせてしまった分、これからは彼女をもっと幸せにしてやろう”と、思えたのだ。

―――・・・ふぅ、何とか一周回ってこれたぜ。
―――よし、残すはラストのサビ!

「♪君はいつも虚勢ばかりを張っていた 本当は苦しくても平気なフリして一人耐えていたんだろ?」

この歌詞と言ったら、当然頭に浮かぶのは自己犠牲野郎であるコウのこと。 彼自身は強がっていないかもしれないが、傍から見ればそう見える。
コウと言えば、再び起きた日向との事件だ。 それと同時に、優との関係も徐々に崩れていく。 コウは日向からの暴力を日々受け続けていた。
当然血を流したりアザが残ることは多く、毎日それらを隠すのに必死だった。 その理由はもちろん、仲間に心配されないため。 本当に強がってなんかはいなかった。 
コウの周りにいる仲間たちが、笑顔で毎日を過ごしてくれるのならそれで彼は満足だった。
仲間の笑顔を思い出すだけでコウの心と身体は元気になり、日向からの暴力なんて痛くも痒くもない。 コウは、ずっとそれでいいと思っていた。

「♪でも君が今でも頑張っていること僕は知っているから それを初めて口にした時仲間の温かさを知った」

そんなコウの気持ちに初めて気付いたのは、結人だった。 いや、一番最初に気付いたのは優かもしれない。
だけどコウの苦しい気持ちの中に自ら入り込み共感してくれたのが、結人だった。 結人の言葉により、少しずつ動かされていくコウの心。
“いつも俺たちには見せない仮面の下の、本当のコウを見せて” “痛い時は痛いって、苦しかったら苦しいって喚いていいんだよ”
“上手に笑えなくてもいいんだよ” “涙も堪えたりしなくていい。 俺も一緒に、泣いてあげるから” 
これらの言葉を言われて“今まで俺は本当に苦しかったんだ、痛かったんだ。 ずっと俺は、誰かに助けを求めていたんだ”と次第に気付き始める。
結人が率先して涙を流してくれたことにより、それに安心したのかそんな結人を見てコウも続けて涙を流す。 その場にいた彼らにとって、コウの涙は初めて見るものだった。 
泣いている彼を笑ったり馬鹿にしたりする者はいなく、仲間は優しく見守り続ける。 そしてコウは今後、苦しいという気持ちをみんなに少しずつだが言えるようになっていった。

「♪君はいつも本当の自分を隠していた 本当は苦しくても平気なフリして一人泣いていたんだろ?」

最後の歌詞で思い出されるのは、コウに引き続き優のこと。 コウの異変にいち早く気付いた優は『どうしたのか』と尋ねるが、求める答えは返ってこない。
だけど優は、それでもコウにしがみ付いていた。 何と言われようとも、彼を助けたい一心でしがみ付いていた。 コウが本当のことを話してくれるまで。 
コウが優に向かって弱音を吐いてくれるまで。 だけどコウは――――一度も弱音を吐かなかった。
そんなある日、優の異変に気付いた結人は声をかけ状況を把握する。 そこで考えたのは、コウが自ら相談してくれるまで待つということだった。
待っている間、当然コウは日向にやられ傷付いていく。 そんな彼を見て、動かないよう命令を受けていた優は何も出来ずにいた。 そんな自分が悔しかった。
もっと傷付いていくコウを見ているだけでも苦しく、もうどうしようもないと思った優はついに自分自身を傷付け始める。

「♪でも君が今でも頑張っていること僕は知っているから それを初めて口にした時本当の友情を知った」

だけどそんな優の気持ちを一番最初に察してくれたのは、結人でもあった。 結人は『用事があるから今日は悠斗に任せる』と言われ、優と悠斗は一緒に帰宅する。
そんな時、自分を無力だと思い込んでしまっている優に向かって悠斗は言葉を紡ぎ出した。
『コウなんてもう知らないとか思っているかもしれないけど、優の心の何処かでまだコウの存在は残っているはずだ』
これらの言葉を言われ、優は自分を取り戻し始める。 もう一度彼を助けてやりたいという気持ちになり、翌日コウのもとへ自ら足を運んだ。
これ以上弱音を吐かさせようと思っても無駄だと思い、優は彼のことを認めてあげたのだ。
“コウはそのままでいいよ” “今のコウが、俺は好きだから” “でも、苦しいことや悲しいことは二人でちゃんと分け合おう”
“嬉しいことや楽しいことと、同じようにさ” “いつも傍にいて、いつも隣にいるから” “これから先も、ありのままのコウと俺でいよう”
優は思いをちゃんとコウに伝え、二人は無事に仲直りをし関係を戻した。

―――どれもみんな、俺にとっての大切な思い出だ。
―――色々あって大変だったけど、これは全部仲間のおかげで解決できたもの。
―――俺一人では何もできなかった。
―――仲間思いで仲間を大切にするお前らが、俺は大好きだ。


しおり