文化祭とクリアリーブル事件㊻
体育館
体育館へ着いた結人たちは、辺りを見回して状況を確認する。 ほとんどの生徒は既に着席しており、ユーシが始まるのを今か今かと待ち侘びていた。
開始15分前だというのにアナウンスは何も聞こえなく、ユーシに出場する結人たちは体育館の入口付近に立ち止まり自分たちの居場所を探すことにする。
「俺たちも席に着いた方がいいのかな」
「でもバラバラになったら、いつ準備をしたらいいのか分からないよね」
悠斗の問いに北野がそう答え、二人は今どうしたらいいのか分からず行く当てもなく彷徨っている。
「おい二人共、俺たちからはぐれんなよ」
結人たちから離れようとする二人を椎野はすぐさま呼び止め、続けて言葉を口にした。
「つか、御子紫たちは?」
―――そういや・・・御子紫たちチームに会わないな。
そこで結人はあることを思い出し、同じチームの彼らに向かって質問を投げかける。
「なぁ、俺たちって出番いつ?」
その問いに辺りをキョロキョロと見渡しながら、適当に椎野が答えていく。
「ユーシに出んのは20組くらいいてさ。 俺たちはその真ん中、11番目と12番目だって。 ちなみに俺たちは後半。 あ、そうだ悠斗」
「ん?」
「曲はもう、音響さんに渡しておいたか?」
「あぁ、もちろん」
文化祭前日、久しぶりに学校へ登校したのというのに何でも知っている椎野に違和感を覚える。
「どうして椎野はそんなに詳しいんだよ」
半信半疑でそう口にすると、彼は辺りを見回すのを止め結人の方へ身体を向けた。 そしてその問いに、笑顔で答える。
「ユイが今日聞いてきたことは、全て俺が昨日聞いておきました!」
その答えに“なるほど”と感心していると、後ろから楽しそうな声が聞こえてきた。
「めっちゃドキドキするー!」
「みんなフォーメーションは大丈夫だろうな? 間違えんなよ」
「ダンスよりも歌の方が緊張するんだぞッ!」
「ダンスの方が、一人でもミスったら目立つんだから」
「俺だって途中踊るから、お互い様だし! もぉ・・・。 あ、コウ!」
どうやら優たちのチームも体育館へ着いたようだ。 これから披露するダンスについて話しながら歩いていると、優が結人たちの存在に気付いた様子。
優が走ってコウのもとへ行くと、他のみんなもこちらへ向かって歩いてきた。
「絶対負けないかんな!」
「こっちこそ」
勝つ気満々な表情をしてそう言ってくる真宮に対し、結人も負けじと言い返す。
『では、今からユーシを始めます。 ユーシに出る生徒は、自分の出番の2つ前にはステージの脇で待機しておいてください。 では、エントリーナンバー1番・・・』
結人たちは行き場もなく入口付近に集まっていると、いつの間にか開始の時間になっていたようで、そのアナウンスと共に体育館内の電気が消え徐々に暗くなっていく。
そして再び照明がステージ上を明るく照らし、そこにいる生徒が目立つようになった。
今更席に着くのもどうかと思い、結黄賊のみんなは後輩と共に体育館の後ろからユーシを鑑賞することにする。
エントリーした組は先刻椎野が言った通り、20組くらいいた。 そして、このユーシが終えた後どの組がよかったのか投票を行う。 投票する時は、理由も記入。
もちろん本校の生徒は強制だが、その他文化祭に来てくれた一般の人も投票することができた。 結果は、文化祭が終わる直前に発表される。
それを終えてから、文化祭の終わりの式が始まるのだ。 発表されるのは上位5組で、呼ばれたチームはリーダーが代表してステージ上で表彰される。
1位に輝いた組は何か景品が貰えるようだが、何が貰えるのかは分からない。
そしてユーシが開始してから一時間弱が経過し――――夜月がチームに向かって声をかけた。
「そろそろ俺たちの出番だから行くぞ」
「頑張れよー」
夜月たちがまとまってステージへ向かっていくのに対し、椎野は適当に応援の声をかける。 一組に与えられた時間は約5分なので、次々と生徒は出し物を終えていった。
―――てことは、今やっているユーシが終わったら俺たちも移動すんのか。
ユーシをやる出し物は様々だった。 結人たちみたいにダンスと歌を披露する者もいれば、歌だけやダンスだけを披露する者もいる。
他に、1組がやった漫才と同じようにお笑いをやっている者もいれば、マジックやダブルダッチ、バンドを披露したりと、本当に様々だ。
どれも高校生がやっているものとは思えず、思っていた以上にクオリティの高いユーシを見て少し冷や汗をかく。
―――つか・・・最下位とかだったらマジどうしよ・・・。
―――・・・まぁ、6位より下だと自分が何位だか分かんねぇけどな・・・。
「ユイ、俺たちも行くぞ」
いつの間にか今披露していたものも終わったらしく、置いてけぼりにされていた結人は遠くにいるコウの声によって我に返る。
結人も彼らに迷惑をかけないよう、意を決して力強い一歩を踏み出した。 優たちの出番は次らしく、とてもそわそわしていて落ち着きがない。
―――つか・・・俺たちに票、入んのかな。
―――絶対3年が仲のいいダチとかに入れるから、ガチな結果じゃないんだろうなぁ・・・。
もし結人たちのチームと優たちのチームが上位5位以内に入らなかった場合、藍梨、伊達、後輩らによって真剣な投票で決着をつけることになっている。
これは予めみんなには言っておいたことで、ズルはなしだ。 だが負けたからといって特別な罰とかはないため、ただの自己満足で終わるだけなのだけど。
『ありがとうございました。 とてもカッコ良いダンスでしたね。 迫力があってよかったです』
どうやら前の組が終わったようで、次の出番は優たちのようだ。 最後の意気込みを入れ、優たちのチームは団結する。 その時、ふと真宮と目が合った。
不安を隠し切れていないようで緊張を交えた複雑な表情をしながら見つめてくる彼に対し、結人はガッツポーズを見せ勇気を与える。
そしてそれを受け取ったかのように真宮は力強く頷くと、ステージへ向かって一歩を踏み出した。 その一歩と共に、アナウンスが流れ出す。
『続いて、エントリーナンバー11番。 漆黒の闇に陥った堕天使たちによる、Shooting starです。 どうぞ』
―――さてさて、優たちの出来はどうかなぁ・・・。
―――・・・ッ!?
―――漆黒の闇に陥った堕天使たち!?
―――そ、それはチーム名か!?
―――だ、誰だ・・・そのチーム名を考えた奴・・・!
あまりにも中二病の匂いがするそのチーム名に呆気にとられるのも束の間、曲は既に流れており優たちのパフォーマンスが始まった。
―――うわ、クオリティたけぇ・・・。
―――つか、夜月超かっけぇな。
―――男の俺が言うのもなんだが、女子が惚れるのも分かる気がする。
そして前奏が終わり、優が歌い始めた。
―――はは・・・相変わらず、優は歌が上手いってか。
優の歌に聞き惚れながら、彼らのパフォーマンスをステージの横から鑑賞する。 生徒から歓声が上がっているのか、女子の甲高い声が耳に入ってきた。
優たちの衣装は結人たちとは正反対の真っ赤な衣装を身に纏っており、照明がいい感じに彼らを照らしていてとても輝いて見えた。
本家に負けないような歌とダンスを繰り広げる彼らに、それを見ている生徒たちは釘づけとなっているようだ。
そしてこの幸せな時間はあっという間に終わりを迎え、優たちは反対側のステージの脇に捌ける。 そして、次第に結人の鼓動は早くなっていった。
『物凄くカッコ良かったですねー! ダンスを踊ってくれた男子生徒も凄くイケメンで、もう本当に最高でした。 そして、何と言っても歌がもう・・・』
「ユイ」
悠斗に名を呼ばれアナウンスの声を聞き流しながら振り返ると、チームの仲間が輪になって結人のことを待っていた。 その中に結人も加わり、円陣を組む。
「思い残すことなく、楽しむぞー!」
「「「「おぉー!」」」」
椎野の掛け声によりこのチームも団結する。 そして結人たちも、ステージへ向かって一歩を踏み出した。
「絶対、成功させるからな。 優たちには負けていられないぜ」
ステージへ向かう途中、突然そのようなことをコウに言われ一瞬戸惑った表情を見せるが、彼と同じよう笑顔になり言葉を返す。
「あぁ、もちろんだ」
そして結人たちはステージ上に着き、みんなと確認しながら自分の配置に立つ。 そして、アナウンスの声が流れた。
『続いて、エントリーナンバー12番。 コネクトイエローシーフズによる、Grow yellow glowです。 どうぞ』
―――・・・ッ!?
―――コネクトイエローシーフズって、俺でも分かるぞ!
その単語を聞き、椎野のいる方へ勢いよく振り向き彼を強く睨んだ。 だが椎野は振り返るだろうと想定していたのか、結人のことをニヤニヤしながらずっと見てくる。
―――結黄賊ってことがバレなきゃ、まぁいいけどもな・・・。
呆れた表情をしながら視線を前へ戻し、曲が始まるのを待った。 そして――――結人たちの曲が、流れ出した。