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2、うんうん、やっぱりルシアちゃんはこうでなくっちゃ。

 たどり着いた場所は、これまで立ち寄った村とはまるで様相が違っていた。
 最初に寄った村が高床式のログハウスみたいな家が点在する作りで。次の村は職人ではない人が建てたという風情の木造平屋が密集した作りで。今目の前にあるのは、色とりどりに塗装されたレンガ造りの背の高い建物が所狭しと並んでいるのが、これまたレンガを組み上げた背の高い頑丈な塀の外からも見えている。

 そんな街並みで威容を誇るのは、背の高い家々よりも更に高い白亜の宮殿。 その絵本に出てくるようないかにもなお城を見て、ここが王都だと思ったのだがどうやら正解らしい。
 王都へ入る行列に並んでいると、めっちゃジロジロ見られた。ドラゴンである俺を怖がる人、おもちゃを欲しがるように触ろうとして親に止められる子供。


 怖がる素振りを見せた人たちは、俺の首輪を見て安心したように元の列へと戻っていた。
 因みにそんなに触りたいのなら触らせてやろう、とサービスしてやったら尻尾を持って引きずられたよ。ルシアちゃんが大慌てで助けてくれたけど、末恐ろしい子供だった。


 これが後方の馬車に乗っていた護衛の冒険者が列を無視して門へと走って行っている間に起きたこと。
 しばらく列に並んで待っていると、兵士らしき人が走ってきた。聖女の到着を待ち侘びていたらしく、貴族用の出入り口に回らされてそのまま通らせてくれた。


「このまま結界石の場所を回ってください」

 後方の馬車はそのまま報告のため城へ行った。もうすぐ夜になるからまずは宿屋で休憩を、と御者が勧めたのだがルシアちゃんがそう言い出した。

「一刻も早く結界を修復しなければなりません」

 私は今日一日馬車に揺られていただけなので疲れていませんもの、という言葉に押されてそのまま回ることになった。
 連れてこられたのは、王都の端。景観をぶち壊すような巨大な黒い岩がドン、と塀のそばに鎮座していた。よく見なくても、真っ二つに割れてしまっている。


「これでは……使い物になりませんね……」

 新たな岩の手配をすることになって、その場を後にした。岩は後三箇所、王都を四角く囲うように置いてあるらしい。
 結局三箇所とも同じように割れてしまっていた。ルシアちゃんが言うには、暗黒破壊神が内側から力を込めたことで結界の触媒となっていたこの岩が割れてしまったのだろう、と。


 急を要する事態ということで急いで来たのに、まるで役に立てないと唇を噛むルシアちゃん。俺にできることなんて何も……何も?

『ルシア、 怪我人を先に治療させてはどうだ?』
「! そうですね! 失念しておりました。救護院へ連れて行ってください」

 ルシアちゃんの目に光が戻る。うんうん、やっぱりルシアちゃんはこうでなくっちゃ。
 馬車は王都の都心部へ。

 入ってみてわかったことは、この都は中央に王城があり、それを囲うように貴族街がある。都市は真四角に区画整理されていて、貴族街を囲うように金属の柵で区切られている。無断で進入できないよう、隙間や高さが調整されているのだろうが……俺みたいな空を飛べる奴は入りたい放題だな。それを防ぐための結界が機能していないわけだし。夜中にモンスターが襲来したらひとたまりもないというのがわかった。

 柵から覗き見た貴族街は、一般市民の居住区と違ってかなり一軒一軒の敷地が広く取られている。それに、人の気配がなさすぎる。
 アルベルト先生に聞いたら、結界が壊れて多くの貴族が逃げ出したのだと。当然、身の回りの世話をする従者も連れて行っている。だからここは無人に近いのだと。いるのは無人の家を守るために雇われた傭兵くらいなものらしい。


 一方、一般市民は行く場所もないということでほぼ残っているのだとか。モンスターが来ても戦うという気概のある住人も多く、戦う術のない人ですら武器を持っての巡回を買って出てくれているとのこと。何それカッコいい。

 で、救護院はというと。貴族街の入り口と王都の入り口の間。貴族街と王都の入り口を一直線に繋ぐように広場となっている場所にあった。
 この公園の両側は公的な建物が並んでいるとのこと。聞けば、入り口近くに商店、武器・防具店、貴族街側に冒険者ギルドと救護院だそうだ。救護院の隣には教会があり、救護院の運営は教会と冒険者ギルドが折半で行なっているとのこと。



 で、その救護院の中はまるで野戦病院のようだった。
 ベッドが足りず所狭しと床に寝かせられた人々が呻いている。暗黒破壊神が召喚したモンスターに果敢に挑んで怪我をしたらしい。


 最初の村でルシアちゃんが着替えた修道服と同じ服装の老婆が出迎えてくれた。
 老婆の話によると、あまりに怪我人が多過ぎてここには重傷者しかいないらいしい。軽傷者は碌に治療もされないまま家で過ごしているのだと。


「命が消えそうな者ほど奥におります」
「では、その人達から」

 いくつかの扉をくぐって奥の部屋へ。そこは、はっきり言って地獄だった。

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