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――とある地下室。
「……痛い」
ひとりの少年がうずくまる。
少年の名前は、藤村 優。
優しい子になりますようにと名前をつけられた。
優の胸をひとりの女の子が触る。
「いたいのいたいのとんでけー」
そういった女の子の名前は、ピノ。
年齢は4歳。
治癒の旋律を奏でる者だ。
「まだ痛みますか?」
全国ヒーロー協会の田中が心配そうに優にそういった。
「あ、はい」
「でも、その痛みは忘れないでください。
貴方が傷つけた子たちも同じように痛いのですから」
田中がそういってメガネをクイッと上にあげた。
「はい」
優の心の中に罪悪感があった。
いじめられていたとはいえ傷つけてしまえば、そのときはいい。
でも、後で来るのは後悔と罪悪感。
元々が優しい子になるように育てられたため、そういうものにも敏感だった。
「貴方は償わなければいけません」
「……はい」
「でも、貴方をイジメていた子たちも償わなければいけません」
「え?」
「だって、貴方を苦しめたのでしょ?
そのため貴方は暴走した。
関係ない人を巻き込んでしまいました」
「そうですね。
関係ない人を傷つけてしまいました。
それは申し訳ないと思っています。
怪我人も沢山出してしまいました」
「怪我自体に関しては気にしなくていいです」
「え?」
田中が小さく笑う。
「怪我はね。
ピノが治したよー」
ピノがニッコリと笑う。
「え?」
優が驚く。
「みんな痛いのとんでけーで、ぽいぽいーだよ。
だってピノは治癒の旋律者なんだから!」
ピノがえっへんと胸を張った。
「ピノちゃんはすごいんだね。
いいな。能力者は……」
「君の能力も立派でしょう?」
「いえ、僕のは多分能力じゃないです」
「そうなのですか?」
田中が首を傾げる。
「はい。
何度か言ったと思いますが。
声が聞こえたんです。
『汝、我ト契約シ力ヲ得ルカ?』って……」
優の言葉に田中が首を傾げる。
「それは、能力を授ける能力者なのでしょうか?」
「わかりません。
ただ、それに同意したら力が――」
優がそこまで言いかけたとき。
天井が響いた。
「……地震?」
ピノが首を傾げる。
田中を天井を見上げる。
そして、視線を戻す。
するとそこに優の姿はなかった。