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「……なんか言えよ?あん?」
武って人が吾郎さんに物を投げる。
「そうだね。
僕の本当の名前は、源 英雄。
ろくでもないおじさんさ」
「で、そのおじさんがなにしに来た?」
「なにしにって?
そんなの決まっているじゃないか。
この子を助けに来たのさ」
そう私は、吾郎さんに『助けて』って一言だけメールを入れた。
そしたら、すぐに来てくれた。
でもなんだろう。
もしかして私はこれから先このことを後悔するかもしれない。
そんな気がした。
「助ける?
ただのおっさんがか?
静と理香を捨てたんだろ?
そして、そいつも!」
「今更なにをしに来た……?」
「自分の子どもに会うのに理由はいるか?
引き取るんだよ!」
「それは認めませんって何度も!」
奈留先生が大きな声で涙目でいった。
「認めろよ!俺の後継者を育てるんだよ!
子どもができなくなったんだよ!
後継者がいなければ俺はあいつに捨てられるんだよ!」
武って人がナイフを取り出す。
そして、吾郎さんに向ける。
「なんなんだ?お前は……
お前みたいなやつのために静は……」
吾郎さんがため息をつく。
「そうだよ!
俺は勝つんだ!人生の勝者になるんだ!
俺は!俺は!俺は――」
武って人が後ろから大輔さんに殴られてその場に倒れる。
「あ……」
私は思わず声を出す。
今なら出してもいいよね。
さっきから大輔さんの影が見えていたけど……
そして、武って人がその場で複数の男の人に押さえつけられる。
「なんなんだ?なんなんだ?なんだなんだよ!」
武って人の言葉のあとに大輔さんがいう。
「警察」
「警察だと?警察風情がこんなことをしてただで済むと思うのか?
お前のクビなんて……!」
「僕、ニート刑事だから」
「クソニートが!!!」
ニート、少し前までは働かない人がそう言われてきた。
だけど今は、働かないことを禁じられた人がそう言われている。
「それにアンタのことはいろいろ調べてくれた人がいるよ。
結構、悪いことしているみたいだね。
とりあえず、強盗の容疑で逮捕しちゃうね」
「クソが……クソが……クソが……」
武って人が抵抗をやめそのままパトカーまで運ばれていく。
私は、その様子をじっと見ていた。
ただ虚しさしか残らない。
そんな感じ。