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026 話は続くよ どこまでも

話は続くよ どこまでも

「えっと、じゃあコレとコレください」そう言うとミキは 手鏡と櫛を店主に渡すのであった。ちなみに 店主は、やはり先ほど「お母さん」と呼ばれた女性で、名をロビーナと言う。代々この店の店主は男の場合だと『ロビン』と名乗り、女性の場合は、『ロビーナ』と名乗るようになっている。なんでもこの町に裸一貫で店を築いた初代の志を忘れないようにという意味があるそうだ。まぁ その為か この五代目であるロビーナさんもなかなかに気っ風がいいようで…。

「おや、この二つにするのかい。いいものを選んだね」
「こっちの手鏡は、銀貨二枚、こっちの櫛は、銀貨三枚と銅貨五枚だよ」そう言いながら、ロビーナは、手鏡と櫛を包もうとするのだが…。

「あっ、そのままで いいです。僕が 使いますので」

「おや、そうかい?あいよ なら ハイ。」と言いつつ、しげしげとミキの方を見やる。

実のところ、いまのミキの格好は 長めの髪は、ヘアターバンで 髪をまとめ フードを深くかぶっている状態で、ミキの顔が露わにならないようになっている。
この世界に落ちてきたときのミキの髪の色は、艶やかな黒髪であったのだが、今現在のミキの髪色は、艶やかな「白銀」色をしている。三ヶ月にわたって眠り続けた後、ミキ本人もしばらく気がつかなかったのであるが、どうやら髪色がすっかりかわっていてしまったようである。そして 少し目立つのである。そこへミキの容貌が加わるとかなり目立ってしまうのである。

しばらくして、ロービーナは、こう呟く。
「蒸れないかい?」

「えぇ そりゃもう…はっ」

「心配おしでないよ、あんたが、髪を隠してることも、女の子だってことも誰にも話しゃあしないよ。このロビン商会五代目ロビーナさんをなめてもらっちゃ困るさね。」

どうやら、ミキのことを性別を隠して旅をしていると勘違いしてしまったようですね。

とりあえず、
「あ、ありがとうございます?」とだけ言ったミキは ずいぶんと進歩したようである。

「さて、ベルんところの宿のことだよね」

「えぇ、出来ましたらお話いただけると…」

「そうさね、中央の方に 公営の馬車預かり所があるのは、知ってるよね。」

「えぇ、最初は あそこでもいいかと思ったのですけどね」

「ほぅ、どうして 公営の預かり所へ停めなかったんだい」

「普通に旅をしているだけならば 問題ないのですが 手前どもは 皇都から商いするための荷を馬車に積んでございます。その積み荷も安いものから高価なものまでございまして、何より在庫の管理は 商人にとって必須のことでございましょう?」

「おや、若いのになかなか言うねぇ」

「いえいえ、滅相もない」
「そういう訳もございまして 出来るだけ近くに置いておきたいというのはおわかりいただけるかと…」

「ふむふむ、そうだろうねぇ、あたしだって いまから馬車に乗って行商にでなくちゃならないってなったら、そこは 信頼の置ける馬車預かり場のある宿に決めるさね」
「ベルんところの宿が たち行かなくなったのは まさに そのことが原因さ」

「うん?、それはどういう…」

「この町には、かつて馬車置き場のある大きな宿屋が何軒あったかわかるかい?…十軒ほどあったんだよ。中・小規模な馬車置き場完備の宿屋も含めるとかなりの数になったんだ」
「だけどね、あるとき一軒の宿屋に 盗賊が押し入ってね んで 荷馬車ごとそっくりそのまま消えちまったって事件があったんだよ。で、その後も同じような事件が起こっちまってね。知っての通りこの町は、皇都へ行くもの、皇都から そう あんたたちのように 荷を抱えて他国や他領に行くもので 成り立ってるといっても言い過ぎじゃないんだよ。で、そんな事件が何度も起きたんじゃ 御上だってほおって置く訳には 行かなくなったんだね。そこで、先代の代官が この町の中央に公営の馬車預かり所を設置して 事件の起きるのを防ごうとしたのさ」
「ちょいと、ツグミ~、お茶持ってきておくれ」

「は~い、ただいま。」

「まぁ あんたも一杯やんな。お酒じゃないけどね」

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
そういって、上品なしぐさで お茶を飲むミキをみ見つめて

「あんたほんとに商人なのかい?」
「えらく その振る舞いが 上品だよね。まさかお貴族さまじゃないだろうね、皇都からだから官位にでもついてるとか」

「いえいえ、滅相もないことで。手前が 扱う商品の中には そういった方々が好まれるものもございまして、自然とそういった振る舞いを身につけざるを得なかったということにございます。」

「ほへ~、皇都で 商うにゃ いろいろとたいへんなんだね~」
「んで、何処まで話したっけ…そうそう 代官が中央に公営の馬車預かり所を作ったところまでだったね」

「ええ」

「でね、その目論見は見事に当たって、中央の預かり所が 出来て そこに留めるようになってからは、事件は 確かに減ってきたんだよ。」

「ところが そうなると小さな宿屋は、軒並みたち行かなくなっちまった。中規模の宿屋の中にも 運悪くたち行かなくなってしまったところも出てきちまったね。んで、先代代官もそのことには 早くから気付いていたようで なんとか助成金とかを出して支えようとはしてたんだ。」

「なかなかに 良い代官さんですね」

「あぁ、先代はね」

「先代は?といいますと」

そうミキが訊ねると、ロビーナは 突然
「あんの外道が!!」と怒りをあらわにするのであった。

「あっ、ごめんよ。でもね ほおんとに外道なんだよ。あいつは」
「先代が、助成金を出して 中小規模の宿屋が なんとかたち行くように支援していたのを…いつまでもこんなことを続けていたら町の財政が成り立たなくなりますねと あっさり支援を打ち切りやがったのさ」

「見かけと違って 大変なのですか?僕は この町に来て なんて活気のあるそして 喧噪につつまれたところなんだろうって思ったのですけど」

「財政が 成り立たないなんてこと ありゃしないよ。この町はね、これまでだってずっと 互いが助け合って町を盛り立ててきたんだよ。そして 困ったことがあればね 町長(まちおさ)たちと相談してどういった支援が必要なのか 当然その中には金銭的な問題もあるんだけどね うまく解決してきたんだよ。その為に あたしたちは、積み立てもやってたんだ。それを あなたたちが 金銭管理をしても役に立たないどころか反乱でも企てられたらしゃれになりません。まぁ それに いままでそれだけの収益があったにもかかわらず 税を納めていないのは 脱税の容疑もかかりますなぁとか なんとか 言ってくれちゃって 積立金全部もっていっちまったんだよ」
そこで、お茶を一杯飲み干して 再び話を続けるロビーナ。
「そうそう、町長(まちおさ)ってのはね、この町を五地区に分けて 各区の代表が 町長(まちおさ)になるんだよ。まぁ この代表がねぇ 二年ごとに選出するんだけどなり手がなかなかいなくってね…はぁ」

ベルニーニさん所の話を聞いて終わるはずだったのが、なんだかスケールが大きくなってきたような気がするのだけど?って思い始めるミキである。

「で、ベルニーニさん所の話になるんだけれどね」

どうやら、この話 まだまだ続くようですね



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