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024 願い事一つだけ・・・

願い事ひとつだけ…

「もういいんですってば」

「いや、そういう訳にはいかん…です」
「ほんと、すまねぇ」

(はぁ~、どうしてこうなった。いま 僕の目の前には、正座して頭を下げているヒサさんとタケさんの二人がいる。実は、先ほど 夜盗を捕らえた後しばらくして 僕に対して思わず素の話し方をしてしまったことを思い出した二人が 突然 謝りだしたのであった。曰く、主君とも仰ぐべき方に対して 『あんた』呼ばわりは、いかんだろうと。なんで突然思い出すかなぁ…別に僕は 気にしちゃいないんだけどなぁ)

「わかりました、解りましたから。お二人の謝罪は 受け取りました。なので もう立ってください。ヴェスドラッヘの町ももうすぐなんでしょ。早くしないと野営をすることになっちゃいます。」

「「ミキさま~」」

「いや、もうマジでいいですってば。それより早く 町を目指しましょうよ」
「でも、人前では 気をつけてくださいね」
そういって二人を起たせるミキである。


まぁ、いろいろありましたが その後は順調に進み いま一行の眼前には 皇都ほどではないが かなりの高さを誇る巨大な壁、そして 門がそびえているのであった。

「壮観な眺めですね~」

「ええ、ほんとに」

「ここの壁も凄いなぁ」

「まぁ、この皇都側の壁は 万が一敵襲があったときに 皇都への賊の進行を防ぐ為、また遅らせる為もあるので この大きさなんですよ」

「なるほどぉ」

「そろそろ わたしたちの順番になりますよ」

「次のものカードを掲示して」

「はい こちらがカードにございます、それと こちらが行商の鑑札にございます」

「え~、皇都商会『エチゴヤ』主・ミキとその供のものヒサとタケであるな」
「確かに確認した。うむ、通ってよし」

「お役目、お疲れ様でございます」

そうして ミキが役人の側を通り過ぎようとしたところ
「ようこそ、ヴェスドラッヘの町へ」と覇気のある大きな声で歓迎の言葉を贈られたのであった。

「じーん」

「ダンナさま、ダンナさま」
「若旦那、若旦那、感きわまりないって感じですけど 早く通り抜けないと他の方々の迷惑になってしまいますよ」

「そうでした、そうでした」

「それに 中では もっと驚きますぜ」

「うわ~、これは すごい」

一歩門をくぐり抜けると そこは 人、人、人で あふれかえり 通りの中央は 行き交う馬車。そして通りの両脇には 様々な商品を陳列した店が 並んでいます。

「ほんっとに 皇都とは違った町並みですね」

「そうでしょう、そうでしょう」
「この活気と喧噪。これが この町の側面にございます」

「(小声で)というか ダンナ、あまりきょろきょろしてちゃダメですぜ、お上りさんに間違われてしまいますぜ」

「あいわかった。でも…まぁ この世界じゃお上りさんには 違いないんですけどね」と小さく呟いたミキの言葉は 町の喧騒にかき消されたのである。

「今日は、この町で泊まりますので まずは 宿の確保からですよね。」

「ですが、馬車は どうされますか?」

「先ほど 入門前に お役人さんに 聞いた話ですと 町の中央付近に馬車預かり所があるそうですね」
「馬車の方は、そちらへ預けておきましょうか。さすがに 馬車を停められる宿が 都合良くあるとは思えませんので、まぁ もしあれば そちらの方が 便利ではありますけど」

「では、手前が ひとっぱしり行って探してきましょう」

「タケさんや、では よろしくお願いしますね、わたしたちは 先に中央の 馬車預かり所まで行って待っております」

「かしこまりました。…ヒサ、ダンナのことは よろしく頼むぜ」

「任せろ」


「タケのやつ、なかなか戻ってきませんなぁ」

「少し時間が かかりすぎているようですが…」

などと話しておりますと こちらへ向かって

「ダンナぁ~、ダンナぁ~」
「ありやした、あり、やし、た。はぁ~、はぁ~…馬車も、停め、、、られますぜ」

「まぁ 水でも飲んで 一息ついてください」そう言うと ミキは肩から提げていた革袋の中から水筒をとりだしタケに水を注いでやるのであった。

「はぁ~~、うめぇ。ありがとうございます」

「で、タケさんや。その宿屋は どちらの方に」

「へい、通りからは 少し離れるんですがね…」

……
「では、今夜の宿は そちらにしましょう」

「いいんですかぃ?」

「もちろんですとも、せっかくタケさんが見つけてくださったんです。そちらへ向かいましょう」


「ほぉ~」

「これは これは」

「あちゃ~」

何故か、当夜の宿とするべく所を訪れた三人であったが 皆、一様に固まっております。
それは、この宿が 寂れているとか廃れているとかでなく 文字通りボロかったからなのですが さてどうなることやらです・

「おい、タケ」

「言うな、ヒサ」

「まぁまぁ、ここで 固まっていても仕方がありません」

「それに 馬車ごと停められる宿など そうそう見つかりませんよ」

「どれ、馬を お願いしますね」と言いやり 御者台からすっと降りると 宿の入り口へ向かうみきなのである。

「ごめんくださ~い」言いながら 扉の側の 呼び鈴を鳴らすミキ。

しばらくして 奥の方から 応える声が聞こえてくる。

「は~い、何かご用でしょうか」

「当夜の宿泊をお願いしたいのですが」

「えぇ~!ほんとうに でございますか」

いや、なんで あなたが驚くのと心なしか思ったミキであったが
「ほんとうにございますよ」と微笑み告げる。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「では、案内をお願い出来ますでしょうか。馬車を停留出来ると伺い こちらへ参ったのですが」

「さようでございますか、見ての通りのボロ宿にございますが 馬車を停留するスペースと食事には ご期待いただけるかと存じます。あっ、わたくし 当宿の女将で、ベルニーニと申します。」
「馬車の方は、こちらへどうぞ。餌やりとかは、いかがされますか?」

「そうですね、馬の世話は、こちらでいたしますので、馬にやる水くみ場と入れ物をお貸し願えればと。」

「水くみ場は、そちらの納屋の裏側に、入れ物は、どうぞこちらをお使いくださいませ」
なかなかに てきぱきと 答えていただける女将ですが、何故これほどまでにボロ宿になってしまったのでしょう。


受付にて

「それでは、こちら 宿帳になっております。お名前をいただけますでしょうか?」
女将から宿帳を受け取ると、それぞれ名前を記入していく。そのとき ふっと外宿の入り口の方に目を向けると一人の少女がいた。

「女将、あちらは?」とミキが問うと 言葉に従って振り向いて一声をあげる。

「ちょうど良かったわ、こちら 今夜お泊まりになるお客さま方なの」

「初めまして、ようこそいらっしゃいました」と爽やかに挨拶をしてくる少女
「当宿の従業員の一人で 名をシオールと申します。」

「ご丁寧にどうも。わたくしどもは、皇都より参りました商人にございます。こちらのお宿にてお世話になるものでございます。どうぞ よしなに」と挨拶を返すミキである。

「シオール、帰ったところすぐで 申し訳ないのだけど 夕飯のお買い物をお願いしていいかしら?」

「まかせて、お姉ちゃん」

「「お姉ちゃん?」」

「これっ、就業中は 女将と呼びなさいと…」

「あっちゃ、すみません。女将、早速、行って参ります。」

「そうね~、今夜は久しぶりに あれを作りましょう。なので あれにあったお肉とお野菜をお願いね、あと お客さまは お酒の方は いかがされますか」

「ヒサさん、タケさん。どうするね?」

「「飲みます!」」

「ということですので、よろしくお願いします」

「では、それに見合った一品ものもあるといいわね。その辺りは、あなたに任せます」

「はい、では いってまいりまーっす」

「あっ、宿帳の方記入が終わりましたので お返ししますね」

「皇都からいらしたミキさま、ヒサさま、タケさまでございますね、お部屋の方は 一人部屋に 二人部屋、あと五人部屋までございますが…」

「一人部屋一室と二人部屋一室で お願いします」

「はい、では こちらへ どうぞ」


「なぁ どうやって見つけてきたんだよ。この宿」

「いやな、馬車が停められる宿が どっこにも見当たらなくてよ。んで 色々聞いて回ってたらな。旅の行商人っぽいのがここの宿が馬車も停留出来る宿だっておしえてくれたんだがな…」

「そっか。んで、他には その行商人ぽいやつ なんか言ってなかったか?」

「うーん、おれもな それ聞いた後 すぐに飛び出てしまってよ」
「まぁ 来てみたら すんげぇボロ宿だったな」

「そりゃまぁ 仕方ないがな。若旦那が なんも言ってないから いいんだけどよ」

「でも女将は すっげ美人だったな。あの妹ちゃんも」

「タケぇ~」

と、男二人がとりとめもない話をしていると 扉をノックする音が聞こえてきたようで

「ヒサさん、タケさん。いま ちょっといいかな?」

「タケ、若旦那だ。そこちょっと開けろ」
「どうぞ、お入りください」

「うん、ごめんね。ちょっとだけお願いがあってさ」

さて、ヒサとタケの元を訪れたミキ。何か お願いがあるということみたいですが…いったいどんな願い事をするのでしょうか。

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