023 最初の町を目指して
最初の町を目指して
「さて、ここから南西の方向に向かって 約300キュロスほど 行けば 目的地であるモンド・グラーノです。途中難所が、一カ所あるんですよね?たしか」
「そうだな、まぁ 難所っていうか 道が悪いのと見通しが悪いのと あと馬車同士での離合が難しいんだわ。ところどころに 離合用の待避所みたいなものが設けられているのだが…なかなか譲り合いが難しいようだ」
「では、一週間っていうのは やはり途中の休憩や諸事情を含めてのことなんですね?」
「そぉいうこったな。」
「そう、僕たちは いま皇都を出立し、皇都を取り囲む巨大な城壁を抜け出て いよいよモンド・グラーノへと旅立つところです」
「なぁ、ミキちゃん 誰に話してるの?」
「おいおい、言葉、言葉。ミキちゃんじゃなくて…」
「旦那さまか、若旦那って呼ぶようにと」
「いえ、旦那さまは ご勘弁を」(やっぱさ、旦那さまって こう若いお姉さまに呼ばれたいよねって、ちがっ)
「まぁ、『あるじ』とか若旦那で。なんか 若旦那って ばかだんなっぽくて いいよね」
「「恐れ多くて考えられません」」
「じゃ、あまり好きじゃないけどミキさまか、若旦那ってことで、周りに人がいなければミキちゃんでもミキ殿でもいいですよ~」
「僕は、お二人のことを ヒサさんや、タケさんやって 呼びますけどね」
「そのこだわりは?」
「うん、どうにもならないね」
「「はぁ~、諦めるっきゃないか」」
「んじゃ、モンド・グラーノに向けて。しゅっぱ~っつ!!」
◇
「もうすぐ最初の町に着きますが、若旦那、どうされやすか」
「最初の町は…たしか『ヴェスドラッヘ』ですよね?」
「うん?そうだなぁ。あってる。まぁ 皇都ほどではないが それなりの大きさの町で 皇都へやってくる他国や他領からの商人や旅人で わりとあふれてる町だな」
「まぁ、この町があるおかげで 皇都は、喧噪から守られていると言ってもいいのかもな」
「そういやぁ、俺たちもドラッヘの町で 先に進むのを止めようとしたんだったなぁ」
「そうだったなぁ、皇都の手前には それぞれ 四つの大きな町があるんだがな 東のアスドラッヘ、そして南のジュドラッハ、西のヴェスドラッヘ。んで ドラッヘの町といってな」
「あぁ、そんで それぞれの町で って、ちょっと待て」
「旦那、気付いてるか」
「ええ、五、六、いや八人ですね」
「囲まれてんな」
「こんなところで襲ってくるとは…夜盗にしては 出てくるのが早すぎだぜ」
どうやらミキたちご一行を 夜盗が襲うようですね。さて どうなることか。
「右の二人は ヒサさん、任せます。左二人、タケさん 任せますね。」
「ダンナは?」
「僕は、あの後ろにいる二人、っと その前に 草縛り!×2」
「うぉっ!」「なんだ こりゃ」「「足がとられて動けねぇ」」
「ダンナ、魔法も使えたのか」
それに ウィンクで応えるミキである。
「てめぇら、名乗りぐらい上げさせろよな!」
「はんっ!知ったこっちゃねぇ。どうせ くだんねぇ 口上だろうよ」
「な・なんだとぉ!」
「おめぇたち、やっちまえ!!」
「あっ!そこのお二人さん、動けば 動くほどその草縛り、キツク縛るようになってますから」
「うぅー、とけねぇ」「痛ぇ、どんどんくい込んでいく」
「さて、どっちから来るんだ!」と不敵に笑みを浮かべるのは ヒサである。
「でぇや-!」技も何もあったもんじゃない。ただ上段から振りかぶってくる剣など百戦錬磨のヒサにとっては稚技に等しいものである。振り下ろされる剣を、大剣で、受け流し 空いた胴めがけて蹴りを放つ。
「てめぇら 相手に剣を使うのは もったいねぇ・よっと お次は おまえか」
「ふんっ!おれは、あいつみたいに 簡単には やられないぜ」
「おんなじだよ」
「んだとぉ、食らえ。万物の根源たる火の精よ!ファイヤーショット」
「ほう、魔法を使うか、だが そんな魔法じゃ 俺には効かないぜ」
「あたらなけりゃぁ、問題なかろうってもんだ」
放たれた火弾を するりと躱し 腰に下げていた袋から小石を放つ。これが ほんとの石礫だってか。
「うっ!いてぇ」こちらは、顔面に石礫を受けてしまった夜盗のひとり。
「タケ~、手伝おうか?」
「いんや、こっちも終わった!よっと」
タケの方も、戦斧を使うことなく 素手で終わらせてしまったようである。なかなか格闘にも強いお方である。
「さて、残るは あなたひとりです。諦めて投降しませんか」
「うっせいやい、おれたちにも なけなしのプライドってもんがあるんだよ」
「くらえ!万物を流転する風の精よ!ウィンドショット!」お頭っぽい男も魔法を撃ってきたようですね。
「魔法ですか、僕には 効きませんよ!」と言いながら 手にしたショート・ソードで向かってくる魔法を切り捨てるミキちゃんである。
「「魔法を切った」」
なぜか驚く、ヒサとタケ。
「魔法って切れるのか」、「あぁ切れるんだろうなぁ」
「なんだよ、なんなんだよ。ウィンドショット!ウィンドショット!」
「そんな闇雲に魔法を撃っても 当たりませんよ」
「仕方ありませんね」と呟いたかと思うと一瞬にして、敵の懐に飛び込み、当身を放つミキである。
「うっ」と呻いたかと思うとその場に倒れ込む夜盗のお頭。
「ふぅ~、怖かったです」
「「誰がだよ」」
「あんたが怖いわ!」
「あんた、さっき魔法を切ったよな?」
「そうでしたっけ」
「そうだよ、魔法って切れるんだな」
「そうみたいです」
「どうやってやるんだ?」
「まぁまぁ、取りあえずは この人達を縛って…あぁ みなさんほとんど気絶してますね。ひどい怪我はしていないようです」
「おそらく、さっき話してた途中だったんだが。皇都を目指して出てきたんだがその前の町、『ヴェスドラッヘ』で、色々と無くしちまったんだろうな。良くも悪くも 皇都目前の町は、皇都に入ってくる人間を
「大きい町には、人が多く集まる。そこには 善人もいれば 悪人もいる。そぉいうこった」
「だな」
「そうですか」
(母さまの守るこの国で この国の町で そんな横暴は許せません!ですが いまは 先を急がねばなりません)
「ヒサさん、タケさん。僕はね 母さまが守護するこの国の人々が 幸せに暮らせるようになって欲しいんです。幸せの形は 人それぞれだって思いますけど。それでも 理不尽なことに泣いてしまう人が少しでも少なくなってくれれば 今は、今はそれでいいって思います。でも いつかはきっと…」
「「そうだな」」
「おれたちも 協力するぜ」「あぁ、任せろ」
「お二人とも、ありがとうございます」
◇
「ちょっと待っていてくださいね。確かここに…ありました。通信の魔道具です。衛兵さんに 連絡して回収に来て貰いましょう。」
「このあたりは、母さまの領域だから 凶暴な魔物が 現れることは ありませんけど知性のない魔物とかは出てくるかもしれませんから…結界の護符を使って。これで 大丈夫です」
「あのまま放っておけばよかったんじゃないか?」
「そういうわけにもいかないでしょう、きっちりと裁きをうけてもらわなくちゃ。ヒサさん、タケさんの話とあの格好とか見るに さっきの襲撃がおそらく 初めてのことだったのでしょう。何人かは魔法を使えた人もいたようですし。このままにしておくのは もったいないです」
「もったいないって、ダンナ」
「『人は石垣、人は城、情けは味方です』まぁ これを 仇でかえすようなことがあれば…ふっ。」
「こえぇよアニキ」、「あぁ、おれもいま一瞬ブルってきた」
「おや?どうかされましたか」
「なんでもないです」「あぁ、問題ない」
「それでは そろそろ参りましょうか」