022 初任務に向けて
ヒサとタケがミキの専属護衛をすることになって二ヶ月が経ちました。
『長かったような 短かったような二ヶ月だったなぁ』
『あの礼儀・作法の授業は 正直キツかったよ。あの講義は、出来れば二度と受けたくないって思った。おっかね~侍女さんだ。』
「おふたりとも、お疲れさまでした。宰相のガストールさんが 言ってましたよ。ヒサ殿には、ゆくゆくこの皇国の騎士団か皇国兵の指揮を執っていただきたいとか。なんだったら わたしが 隠居するときに 宰相の座を引き受けて貰いたいって」
「いやいや、一介の傭兵上がりに そんなの無理だって。」
「タケさんにも 騎士団から戦闘指揮をお願いしたいって話がありましたよ」
「おれも無理だな、所詮は 傭兵だ。おれやアニキが指揮を執ったりしたって どっかで侮る奴らが出てくるにちげぇねぇ」
「まぁ それを含めての皆さん方の採用だって思いますけどね」
「確かに、この皇都・皇都周辺に身分至上主義の奴らはいないって思うんだが…一歩辺境に出てしまえば、まだ根強く残ってるからなぁ」
「まぁ 先々のことは その時になって考えれば いいんじゃないか?」
「ちげぇねぇや」
「そうですね。それで これからのことなんですが…」
「「はっ!」」
「いやいや、そんなかしこまった返事しないでくださいよ。僕、泣いちゃいますよ」
「をいをい」
「あちゃ~、その上目遣い禁止な」
「って、冗談は さておき…」
「これより ブラウン子爵及びメルバーン子爵の両名は、リプスティック公爵の護衛としてモンド・グラーノ領へ行き リプスティック公爵が領主のグラーノ伯爵に面会し今年の麦の収穫量の大幅な減少について事情を確認する任務が滞りなく遂行できるよう周辺の警戒と情報収集に励めとのこと。以上、エリステル陛下からのお達しです」
「「委細承知つかまつった」」
「で、そのリプスティック公爵ってのは 何処にいらっしゃるんで?」
「ここです、ここです」
「「はぃ~い!」」
「一応、相手が伯爵なんて肩書きもってますからね。こちらも それなりの官位を名乗った方がいいのではと。一応ですが 領地もあるんですよ」
「こいつぁ おったまげた」
「うん、おれもだ。てか ミキ殿には そんな官位必要ないでしょうに」
「うーん、まだね 僕のことは 周辺の方々には あまり周知されていないようなんです。もともと この皇国には、貴族位っていうのが あってなきが如くだったのですけどね」
「モンド・グラーノは、まだ皇国に参入して新しい領地になりまして、もとがいくつかの国があつまって出来た共和国だったんです。で、二〇年ほど前に いろいろありまして共和国としての体裁を保てなくなったそうですね。で、皇国から支援を申し出たときに 相手の方から参入したいってことで いまの形になったそうです。当時の共和国の王様は かなり立派な方のようですが。いまの領主さまは どうなのかなってことも今回の任務の一つでもあるんです」
「なるほどなぁ、もともと竜皇国、それからリンドブルム帝国自体の成り立ちも複雑だからなぁ。」とヒサ。かなり歴史を勉強したようです。
「そういうことなら いっちょう、きばりますか」
「それでですね、大勢の騎士や武装兵を引連れて 赴くっていうのもありと言えば ありなんですが…」
「「解ってるって」」
「それじゃぁ、ホントの意味での窮状を知り得ないって言うんだろ」
「はい、その通りです」
「で、どうすんだい?」
「旅の商人に扮して モンド・グラーノ領まで赴きます。お二人には その商家の従業員兼護衛として同行しているって
「おもしれぇこと考えてんな」
「やっぱ、ミキ殿は面白い」
「で、売り物は?」
「えぇ、チリメ「言わせないよ!」」
「「?」」
一瞬、つむじ風が起きたかのような気がしたのですが…なんともなかったようですね。
「一応、僕 魔道具作ったり あと内緒なんですけどあの「ライト・エール」を作って売り出したのも僕なんですよ」
「おいおい、冗談だろ」といって ミキの目をじっと見つめるヒサ。タケはというと口が開いたまま固まっていますね。
「冗談じゃねぇのか?」
「はい、ホントの話ですよ」
「あっちゃ~!!」
「なんかおもしれぇやつだって思ってたけど 想像の斜め上行ってんな」
「あっははは」と苦笑するミキである。
「ということで、僕たちは皇都の『エチゴヤ商会』のオーナーとそのお供って感じでいきますので、よろしくお願いしますね」
「で、
「まぁ、早いほうが いいとは思うのですが それぞれ準備もあるでしょうし二日後の朝イチでいかがでしょうか?」
「うん、二日もありゃ 準備に事欠かないな、タケもそれでいいか」
「おうよ」
「ところで、モンド・グラーノまでどうやっていくんだ?てか 馬車しかねぇよな?馬車の用意とか…そうそう、馬車が用意できたとして御者はどうする?」
「ヒサさんや、タケさんや、御者の経験は?」
「いや、おれたちゃ馬に乗るのは 問題ねぇんだが、御者なんざ やったことねぇ」
「そうですか、では 御者は 僕が勤めますね」
「ミキちゃん、御者出来んの?」驚きのあまり つい以前のような口調になってしまったタケである。
「大丈夫、僕も この二ヶ月間、何もしてこなかった訳じゃありませんから」
「任せてください、お二人には、道中で 覚えていただきます」
「だな、モンド・グラーノまで 馬車だと一週間くらいか。直前までには なんとか覚えられっだろ」
「それでは 僕たちの初任務、成功させましょうね」
「「おぉ!!」」