一枚の手紙
大キライだけど愛してる
喫茶店、フレンズ。
店内はそう広くないが、いつものように常連客でにぎわっ
ていた。
この店のマスターであるあきすぎゆうごは、この店自慢の
ミルク・ココアを作っていた。
作りをえると、女性定員のきよかサラに渡す。
サラは笑顔で注文したテーブルに行った。
テーブルには、この店の常連客であるかみしろしゅうが新
聞を読みながら一人で座っていた。
サラは笑顔で言う。
「お待たせしました、かみしろさん、ミルク・ココアで
す。」
かみしろはサラに「ありがとう」といって、新聞をたたん
だ。
かみしろは右手でコップをもつと、切断した親指が痛ん
だ。
彼は元ヤクザだった。
だが、その家業に嫌気がさし組を抜けた。
その時、オトシマエとして親指を失った。
長い治療はしたもののやはり痛んだ。
だが、いにもかえさず少しずつ美味しいミルク・ココアを
飲んだ。
かみしろは親指を見ながら昔の事を思い出してため息をつ
いた。
一瞬、悲しい顔をする。
そしてカバンから一枚の手紙を出した。
中身を見て、柱時計を見ると時間は3時半を少し過ぎた頃
だった。
かみしろは物思いにふけりながらミルク・ココアを飲み終
える。立ち上がってマスターのところに行った。
かみしろ
「よう、マスター、美味しかったぜ・・・・・・」
マスターのゆうごは微笑みながら言う。
「かみしろさん、ありがとうございます、600円になりま
す」
かみしろはポケットから財布を取り出して1000円渡した。
それをサラが受け取り「ちょっと待ってくださいね」
といって、奥のレジに向かった。
かみしろはマスターに言う。
「ところでゆうご、お前いくつになった。」
唐突にそう聞かれ少し困った顔をしながら答えた。
マスター
「ハイ、今年で26才になります。それが何か・・・・・」
かみしろは頭をかきながら言った。
「そうか、あの時からもうそんなにたつか・・・・・・、
ところでな、俺の所にめずらしいヤツから手紙が来たん
だ、そいつは俺の知ってるヤツなんだかな・・・・・」
ゆうごは誰からの手紙かと思った。
サラが戻った来てかみしろはにお釣りお渡す。
かみしろはお釣りを財布に入れてから、手紙をマスターに
渡した。
かみしろは言う。
「この手紙は俺の所にきたが、何だな、お前が持っていた
方がいいと思ってな・・・・・・」
ゆうごは顔をしかめながら手紙をもらった。
かみしろは「じゃあな、またくるよ」と言って出口のドア
を開けて帰って行った。
ゆうごは、かみしろはからもらった手紙を開けて読んだ。
その手紙に書いてある内容を理解して、うかつにも涙が
こぼれた。
手紙にはこう書かれていた。手紙の主はかなえマキだっ
た。
「お久しぶりです。かみしろさん、かなえマキです。
私がアメリカに行ってから、もう6年以上がたちますね。
私、アーティストになりたかったけど、やっぱり無理でし
た。こんなことならあの時、かみしろさんが言うように、
ゆうごの側にいればよかった。もう、昔の事ですけどね。
かみしろさん、私、7月4日に日本へ帰ります。
帰国時間は6時ごろかな。
ゆうごは元気ですか・・・・・・、また手紙を出します
ね。じぁあ・・・・・
かなえマキ。」と書かれていた。
マスターであるゆうごは、かって荒れてをり暴走族のリー
ダーをしていた。「ミラージュ」という名前で、県内最強といわれ恐れられていた。しかし、ある事がきっかで、マキと出会った。
ゆうごはマキに恋をし、マキも彼の愛を受け入れた。
そして暴走族を解散し、新しい人生が始まった。
ゆうごは、仕事をはじめてがむしゃらに頑張った。
ある時、かみしろが言った。
「お前さ、喫茶店のマスターになんない・・・、
俺の友人が、ガンでな、もう、そう長くはねぇ、お前の事
を話たらさ、ぜひ、店を任せたいて言うんだよな、どうだ
い、ただし今から修行してもらうぞ・・・・・」
ゆうごにとって、それは奇跡が起こった瞬間だった。
ゆうごはそれを承諾書し、辛い修行に耐えた。
そして、前マスターである、いしがきしんじと店を開店
中、事件は起こった。
ミルク・ココアを作っていたいしがきが、心臓発作を起こ
して倒れてしまったのだ。
すぐに救急車を呼んだが、帰らぬ人となった。
救急車に一緒に乗っていたゆうごは、いしがきがの最後の
願いを聞いた。
「ゆうご、俺はもうだめだ、ゆうごあとは頼んだぞ」と言
て息をひきとった。懸命な処置をしたがもう手遅れだ。
そんな事もあり、今ではマスターをしていた。
一緒に住んでいたマキは、プロの音楽家を目指し毎日頑
張っていた。
マキのそんな姿を見て、ゆうごも頑張っていた。
ゆうごにとって、一番幸せな時だった。
この生活がいつまでも続くと信じていた。
そして、結婚して欲しいと言うために内緒で貯めたお金で
結婚指輪を買った。
ゆうごは仕事を終えて、今日帰ったらマキに結婚して欲し
いと告白するつもりだった。
しかし、アパートに帰ってくるとマキは居なかった。
テーブルに一枚の手紙が置いてある。
ゆうごはその手紙を読んで泣いた。
手紙にはこう書かれていた。
「ゆうご、ごめんね、私、今のままじゃあダメ見たい。
楽しかったよ 、今まで支えてくれてありがとう。
でも、夢、あきらめきれない。
さようなら。
マキ。」
ゆうごはテーブルをこぶしで叩いて言う。
「何でだよ、なんで・・・・・・、これから新しい生活を
するって言ったのに、そんなに夢が大切か、だったらなん
で相談してくれないんだよ、ばかやろう。」
ゆうごはその日、一睡もできなかった。
ただ、思いでだけがよみがえって、何度も泣いた。
そのうち彼女への思いが憎悪となっていった。
ゆうご
「あんなヤツ、女なんて他にも沢山いるさ。
最も、あんな裏切りをするヤツなんていない、はっ、
アイツは最低の女だ。あんなヤツ、二度と会うもんか、
あんなヤツ、だいっきらいだ」
ゆうごは失った彼女をそう思うたびに思った。
「だいっきらいだけど愛してる」と。
結局、ゆうごはその後もいい出会いはあったものの、誰と
も付き合うことができなかった。
一人なると堪らなく寂しくなったが、別れたマキの事を
考えない日は一度もなかった。それほど、彼女はゆうごに
とって特別な女性だった。
そのマキがかみしろに手紙を送っていた。
そして、俺の事も・・・・・
ゆうごは柱時計を見た。
時間はそろそろ4時になろうとしていた。
ゆうごは成田空港に行くことを決めた。
もう一度、もう一度だけマキに会いたかった。
ゆうごはエプロンを脱ぎ捨てると、サラが手を強く握りし
めた。
ゆうごは驚いて振り向く。
サラは泣いていた。
サラ
「ダメ、マスター、行かないで。だってもう昔の人で
しょ・・・・・・」
ゆうごは驚いて聞いた。
「何で君がその事を・・・・・・」
サラはゆうごの胸に飛び込みながら言う。
サラ
「マスター、私、マスターの事が好きなの・・・・・・」
ゆうごはしがみついてくるサラをいとおしく想ったが、
その思いに答える事は出来なかった。
ゆうご
「サラ、気持ちはありがたいけど、ごめん、俺にはやっぱ
りアイツが必要なんだ・・・・・・、ごめんな・・・・」
サラは泣いた顔をゆうごに向けたが、すぐに笑顔になって
言う。
「やっぱり私じゃあ無理ですか・・・・・・」
ゆうごは「ああっ」と言った。
サラゆうごから離れて言う。
「マスター、お店は私に任せて下さい、さ、早く会いに
いってあげて・・・・・・」
常連の客の一人であるきざきけんがマスターの所に行っ
た。
きざき
「マスター、話が聞こえているよ、ハイ、これ俺の単車の
キー・・・・・・」
と言ってキーを投げた。
ゆうごはキーを受け取って言う。
「悪いな、きざき、借りるよ・・・・・、」
と言って出ていった。
ゆうごは単車のキーを差し込むと、もうスピードで成田空
港へ向かった。
店に残ったサラは、しずんだ顔をしながら立ちすくんでい
た。
中年の女性みきが、サラを抱き締めて言う。
「サラ、今はすごく辛いね、誰かを好きになるとさ、
でもさ、今日のアンタはカッコよかったよ・・・・・・」
店は何もなかたように常連の客が話はじめた。
5時58分、ゆうごはやっと成田空港についた。
そして単車を駐車場に置いてから思った。
「くそ、もう5時58分か、マキ、会いたい、間に合ってく
れ・・・・・」
ゆうごは成田空港の中に入り空港の店員に聞いた。
「ハァ、ハァ、ハァ、すみません」
店員
「ハイ、何でしょうか、お客様」
ゆうご
「今日、アメリカからくる飛行機はもう到着しましたか」
店員
「何時の便でしょうか」
ゆうご
「6時、6時の便なんですが」
店員
「ちょっとお待ちください」
店員
「お客様、6時の便は先程成田空港につきまして3番ゲート
になります行き方は」
ゆうごは店員から行き方はを聞いて「ありがとう」と言っ
て走り出した。
ゆうごが3番ゲートに到着すると、かみしろがいた。
かみしろ
「ん、ゆうご、やっぱりお前来たのか・・・・・・」
ゆうごは驚きながら言う。
「かみしろはさん、どうしてここに・・・・・マキは、マ
キに会ったんですか・・・・・」
かみしろは頭をかきながらいう。
「いや、まだ会ってねーよ、マキの乗る便はどうやら到着
が8時頃になるそうだ」
ゆうごは言う。
「何でマキが8時頃に到着するって分かつたんですか」
かみしろは呆れながら言う。
「そりゃ、お前、問い合わせてみればわかるだろ」
ゆうごは赤くなりながら「ああ、そうか」と言った。
かみしろとゆうごはとりあえず空いている席に座る。
しばらく二人の間に沈黙ができた。
かみしろは何か考えていた。
ゆうごはゆうごは下を向いていた。
かみしろが沈黙を破る
かみしろ
「ところでさ、ゆうご、お前マキちゃんと会ってどーすん
の」
ゆうごは深いため息をつきながら言う。
「わかりません」
空港内はいろいろな人たちが歩いていた。
かみしろ
「あのさ、ゆうご、まさかお前、マキちゃんとやり直した
いとかって、思ってる」
ゆうごは無言だった。
かみしろ
「いゃ、気持ちは分かるんだけどさ、6年以上も離れていた
んだぜ、マキちゃんだって新しい彼氏がいるかもよ」
ゆうごは歯を食いしばりながら言う。
「それでも俺、マキに会いたい」
かみしろは頭をかきながら言う。
「まーなんだな、なるようにしかなんねーか、
ま、いか」
二人は無言のまま、マキを待ち続けた。
7時50分、ようやくマキが乗る便が成田空港に到着した。
二人は3番ゲートで待った。
大勢の人たちが空港に足をはこびながら帰ってくる。
その中にマキの姿があった。
かみしろは手を振って言う。
「おーい、おーい、マキちゃん、ここだ、ここ」
マキはかみしろとゆうごを見た。
マキは辛い顔をしながら彼らの方に足をはこんだ。
マキには連れのカッコいた男性がいた。
マキと男性はかみしろとゆうごの前に行く。
マキ
「かみしろさん、おひさしぶです、それにゆうごも」
ゆうごは隣にいる男性を見ながらいった。
「マキ、お帰り」
男性がゆうごたちに挨拶をする。
「こんばんは、俺、しょうっていいます。マキと一緒に音
楽をやってました」
かみしろは「そうか」と言った。
しょうはマキに言う。
「じゃあ、マキ、待たな、俺、まち合わせしてるから、電
話かけて、あ、俺、待ち合わせしてるんでこれで」
と言って去っていった。
かみしろはゆうごとマキに言う。
「ま、なんだな、積もる話は沢山あるが、とりあえずマキ
に会えたし、帰るわ」
ゆうごとマキが驚いた。
かみしろは二人に背をむけながらゆっくりと歩いて帰って
いった。
ゆうごとマキお互いにみつめあう。
マキ
「ゆうご、久しぶり、元気だった」
ゆうごはマキを抱き締めた。
ゆうご
「お帰り、マキ」
しばらく二人は抱き合っていた。
マキ
「ゆうご、私、やっぱりダメだった。あの時」
そうマキが続けようとするとゆうごが言う。
「マキ、俺さ、今喫茶店のマスターをしてるんだ。
それで、マキが一番好きだった飲み物、ミルク・ココアが
店の一番美味しいメニューにはいってんだぜ、すごいだろ
う」
マキ
「そうか、ゆうご、マスターになったんだ、あのさ、
ミルク・ココアって、本当に美味しいの」
ゆうご
「ああ、うまいぜ、飲みにこいよ」
マキ「ゆうご、私」
ゆうごは覚悟を決めて話す。
ゆうご
「マキ、さっきのアイツと付き合っているのか」
マキ「うん、音楽の仲間としてね」
ゆうご
「音楽の仲間」
マキ
「うん、ゆうご、私誰とも付き合ってないよ、ゆうご以外
はね」
ゆうご
「マキ、本当か」
マキ
「本当だよ」
ゆうご
「マキ、俺たちやり直そう」
マキ
「いいの」
ゆうご
「ああ、お前の事、だいっきらいだけどやっぱり愛して
る」
ゆうごとマキはキスをした。
そうしてまた、新しい時が二人に始まった。
終わり。