006 母子の語らい
母子の語らい
「ミキ、その大学というのは どういうものなの?」
「うん、それはね 僕が 元住んでいた国の教育機関の一つなんだ。」
「大学の他にも 小学校・中学校・高等学校といって そのうち 小学校と中学校は 義務教育と言って一定年齢に達した子どもたちが みんな通うんだ。そうして 親や養育している大人たちはその子どもたちを 学校へ通わせる義務があるんだ。だからこその義務教育。で、 義務教育をうたってる以上国の方も、小・中学校での教育にかかる授業料は、国というか公的機関が負担するようになってるんだよ。そういえば この国の教育?っていうか 学習する機関ってどうなってるの?」
「あぁ、それね。ここ 皇都には 国の運営に携わってる家の子女が通う皇立の学校があるわね、あと大店の子どもたちもそこで 知識を身につけるようになってるの。一応皇立だから、国が運営してるってことになるのかしら、あとは 入学金と年に一回の授業料を徴収しているわね」「それと 親が 国の運営に携わってる家の子たちが多いから 当然のように学習意欲は 高い方ね。大店の子どもたちにしても そこで身につけた知識や技術は 最低限のものかもしれないけれど 卒業までに確実に身につけるようになっているわ。」
「でも 皇都を少し離れた 周辺の町や村では…」
「…そっかぁ 元いた世界でも 義務教育が出来るまでは そんな感じだったよ」
「で、ミキは その大学に 通ってたってわけね。ふむふむ。ミキってさ、わたしと話すときでも 他の誰かと話すときでもすっごく丁寧な感じで話してたでしょう、それに 堂々としてたし 立ち居振る舞いなんかもね、こっちの大臣とかみても物怖じすることもなかったし。周りからの評価は、どこの賢者さまって感じ?見た目は、あれなのにね」
「母さま…」
「ごめ~ん、でさ 他には こっちとの違いってどんなことがあるの?」
「もちろん 魔法がない!その代わりに 科学技術が発達してたよね。でも 科学技術といっても 医療の面ではさ、逆に こっちの方が すごいなって思うこともあるんだ。まず いまの 医学ってかなり進んでいたって思うんだけど それでも 欠損した腕や足を生やすなんてことは 出来なかったよ。再生医療っていうのかな、ずっと研究されていたけれど。で、その代わりに 義手・義足っていうのが 研究・開発されていたかな。」「そうそう うろ覚えだけれど こんな言い回しがあったよ、確か…【十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。】クラークの三法則っていうらしいんだけどね」
「なかなか面白い言い回しだね、おまけに ミキの住んでた世界が、魔法のない世界だというのに」
「うん、たぶん魔法がないからこその憧れ?羨望?なのかも、ただ その三法則の中には、【可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである】というのもあったっけ。だから その時点では 不可能なように思えても 決して諦めないで足掻き続けるってことも大切なのかもね」
「そのクラークって人は、賢者さまなのかい?」
「うんにゃ、作家さん。本を書いて それを みんなに読んでもらうってお仕事」
「みんなに読んでもらうって、ミキの住んでた世界っていうのは そんな簡単に書物が手に入るのかい?
その本っていうのは やっぱり手書き?」
「あぁ~、基本、作家さんが 原稿を書くときは 手書きであったりパソコンやワープロであったりするけど、出版するときには、ほんと手書きじゃなくって印刷って技術があって 一度に同じものを たくさん刷ることが出来るんだ」
「す・すごいね、パソコンとかワープロっていうのが何か解らないけど…」
「あぁ、そうだよね。…僕が、落っこちる直前に持ってた荷物が あればいいのだけれど」
「うん、ミキの持ち物?」
「うん、そう。さっき話した大学の帰り道に その召喚?だっけ それに巻き込まれたからね、本とかタブレットとかいろいろ持ってたんだ」
「あぁ~、あ、あ、あ」
「ごめんね、ミキ。すっかり忘れてた。ミキの持ち物ならあるわ。ミキが 倒れてたすぐそばに落ちてた、おそらくミキの物だろうってことで ずっとわたしが 預かっていたのよ」
「ちょっ!母さま、そりゃないよ。って、まぁ なくてもこっちの生活でこれといって困ったこともなかったし。でも そっか そっか あるんだ」
「なんとなく嬉しそうだね」
「でもミキの世界って 魔法は ないんだよね」
「そうだね」
「不思議なことに、その荷物「紺色のリュック?」、そうそう」
「それなんだけど、魔道具になってるわよ」
「?」
「自分の目で確かめた方が 早いよね、ちょっと待ってて」
「えっと、どこに、どこだったかなぁ~…そっか執務室だ、取りにいってくるね」
--10分後--
「これでしょ?」と手渡してくる母さま
「ほんとに あったんだ!えっと 中に入ってるものは?って あれ、真っ暗で 中が見えない、どうなってんの」
「うん、だから魔道具になってる、こちらでいう魔法袋みたいな感じ、なので中にある物を、思い浮かべるとか、何が入ってる?って 強くイメージしてみて。そうしたらその袋、リュックだっけ…の中にあるものがミキに解るようになってるから」
「うん、やってみる」
……
「おぉ~!すっごい、中に入ってる物が リスト化されて頭に浮かんできた」
「えぇ、じゃぁ 取り出したい物を、念じながら袋の口のところへ手を持っていってみて、念じた物が その手に収まるはずだから」
「んじゃ、タブレット、タブレット、出てきてタブレット」
一瞬光り輝いたかと思うと、タブレットが ミキの手に
「すごいよ、これ、えっと次は、ド○ペ、ド○ペ、出てきて ド○ペ」
「あぁ~、あいたかったよ、ド○ペ」
「母さま、すごいよ!これ。他にも 大学の教科書とか…」
「あっ!ごめん」
ふだんと違うミキの様子に思いっきり微笑ましさ半分、びっくり半分な感じで生暖かく見つめる母の眼差しに気づいたミキであった
「いや、まぁ ね。ミキのそんな様子、見るのも久しぶりだなって、ね」
「えへへ、じゃあ、この出てきたものを見ながら、さっきの話に戻りますかね」
「うん、そうしてくれると 嬉しいかな」
まだまだ母子の語らいは 続くようです