007 夜明け前
母子の語らい 2
「いや、まぁ ね。ミキのそんな様子、見るのも久しぶりだなって、ね」
「えへへ、じゃあ、この出てきたものを見ながら、さっきの話に戻りますかね」
「うん、そうしてくれると 嬉しいかな」
「本の話の途中から、こうなっちゃったんだけど…よいしょ。母さま、これちょっと見てくれるかな?書いてる文字は 読めないかもしれないけど」
「うん。」「ほうほう、これが ミキの世界の書物なんだね。」
おそるおそる手をにとって ページを捲るエリステル陛下だったけど つぎの瞬間
「なに、なんなのこれ。すっごい 絵がとってもきれい。きれいって いうか現実的なんですけど。まるで 本物を切り取ったかのような感じ。どれどれ…」
ミキが エリステル陛下に渡したのは 地元タウン誌であった。グルメ情報あり、旅情報あり、季節の催し物情報あり…つまりカラフルで 写真がたくさん掲載されているものだ。
しばらく魅入っていたエリステル陛下であったが
「ミキぃ、これすごいね。他には どんな本があるの?紙は、こんな薄いのに丈夫だね。美味しそうな食べ物?の絵がいっぱいあるよね。文字が、読めないのが 残念だけどね」
「あとはね~、僕も 学校帰りだったからね。それは タウン誌っていうまぁ 住んでるところに密着した情報を掲載してる雑誌なんだ。あとは 学校で使う教科書的なものかなぁ…これだけど」
「何、これ。表紙?カバーが 厚みがあってしっかりしているんですけど」
次に ミキが手渡したのは、一般教養の教科書で 自然科学系の本であった。
「あっ、ちょっとまってね~ ダメ元でやってみる…ポチッとな」
「う・うっそ~、スイッチ入ったよ!入っちゃったよ……」
「なになに?その板みたいなもの、なんか絵が出てきたよ。今度は、ちっちゃな模様が何個も出てきたよ。」
「うん、これはね タブレットっていってね。こんなにちっちゃくて 薄いけどさっきの雑誌とか教科書と比べものにならないくらい多くの情報が 収まってるんだよ」
「って、たしかこのアプリを起動すれば、ほら、さっきのタウン誌とは、違うけど似たような情報が出てくるんだ」
「わぁ~、美味しそう」
「うん、これは 料理のレシピ集だね。僕の住んでたところで作られる料理の作り方・写真もいっぱいだね」
「なんかね、なんだかね、ミキの国?の文字が いまとっても とっても読めるようになりたい、すっごく覚えたいね。ミキは、わたしのことを 母さまって呼んでくれるけど わたしは 母親らしいことなんにも出来てないよね?料理ひとつ作ってあげたことないし、それに いまみたくこんなに長く話せたこともなかった」
「だから…、だからね、もしミキさえかまわなかったら、わたしに ミキの国の文字を教えてくれないかな?そうしたら、ミキにね、美味しい物、たくさん、たくさん作ってあげられる」
「母さん…、ありがとう、その言葉だけで とてもうれしいよ、うん。ほんとに ありがとう」
「ふふ、ようやく母さんって 呼んでくれたね、わたしも すごく うれしい」
「「そうだ、お茶に」」
「ふふ」「あはは」
「ちょっと お茶でも飲みますか?っと そのまえに これ、落ちる前に買ったおにぎりだよね、さっきから気になってたんだけど もうかれこれ三年以上経っているのにカビひとつはえてない。まさかと思うけどこの魔道具化したリュック、時間停止の効果もあるってこと?さっきのタブレットに電源がはいったこととか…含めて。」(ここを、こうして あむ。うん、美味しい、食べられるってことは)
「ちょっと、ミキあなた何食べてるのよ」
「だいじょ~ぶ、みたいだよ。なんだか中に入ってる物の時間が経過してないみたい」
「うん、母さん!今日は 僕の国のお茶を飲んでみよっか 今日は 僕がお茶をいれるね」
「はぁ、この子ったら(ふふ、母さんだって、ようやく ようやく呼んでくれた。三年の間、母さまとは 呼ばれていたけど もっと親しみを込めて呼んでほしかったのに…それでも陛下って呼ばれるよりは よかったけど。ずっと距離を感じていたのよね)」
「お茶、飲も。さぁ さぁ」
「変わった色をしているわね、緑色?でも すっごくいい香りがする」
「うん、日本茶っていうのだけれど 特にこれは 抹茶入り玄米茶っていってね…」
……
「そういえば、さっき あなたが 食べていたもの。あの三角の形をした」
「おむすびとか おにぎりって言うんだけどね。さっきのは 塩おむすび…で どうかしたの?」
「わたしも食べてみたい」
「うん、いいよ もう一個あったはずだから。ちょっと待ってね」(あれ?気のせいかな。まいっか)
「はい、ここを こうして…っと、おひとつどうぞ」
っと、「そのまえに これで 手を拭いて」
「ありがとう」
「あ~む、うん。おいしい」
「あったかいとね~ もっと美味しいんだよ」
「この白い粒は お米といってね、僕の国の主食だったんだ、懐かしい味だ。もう食べることないって思ってたけど。ふふ」
「ミキ…、やっぱり」
「うん?な~に湿っぽい雰囲気だしてるの、気にしない。気にしない」
「僕が、こっちの世界に 落ちてきたの母さんのせいじゃないでしょ、それどころか 瀕死の僕を 助けてくれて。それこそ 大切な命玉使ってまで…だからね 母さん、改めて言うよ」
「これからも ずっと僕の母さんでいてください」
「ミキぃ~、うん。うん。ミキこそ ね!ずっとわたしの子どもでいてよね」
ふたりの母と子の絆が より深く結ばれたようですね
◇
「魔道具化したリュックに、時間停止機能までついてたなんてね。おまけに ミキの持ってる本、そしてタブレット?だっけ なんか すさまじいね。この大陸に 文明が起こってから 一般には六千年とも八千年とも言われてるのだけれど 過去に栄えたと言われてる古代文明でもこれほどまでの技術はなかったと思うわ…」
「そうなんだ、ってことは これらのものは 他の人の目には触れない方がいい?ってこと」
「そうね、そうした方がいいかも」
「それか こちらの技術で 実現可能なものは、技術化して…そう紙とかね。あと印刷技術なんかもね そうすれば、きっと多くの書物が世に出て みんなが 簡単に文字を読めるようになって…」
「って、ダメかな」
「そうね、いろんな事が出来そうだけれど 急激な変化がもたらす危険もあるわよね」
「うん」
「これは、わたしたちだけで 考えるのは危険ね」
「うん」
「ということで」
「「入ってきて」」
「いつからいたのかしらね、クラリッサにリョージュン。それに あなた…ガストールまで」
「いえ、もう夜が明けそうなのですが まだこちらの執務室に明かりがついてるということで 確かめに参りましたら クラリッサに入ってはだめだと」
「あら、気を遣わせてしまいましたね、クラリッサ」
「いえ、陛下。」
「で、リョージュンは?」
「いやね、わたしは 宰相に呼ばれて」
「はい、もし万が一にも賊が侵入でもしていたらと、リョージュンを呼びに」
「「はぁ」」
「で、実際のところは?」
「「「なんか楽しそうな出来事がおこりそうだったから」」」
「ちょうど 良かったわ。あなたたちにも いろいろと知恵を出してもらいますからね」
なんだか母子の語らいから 思わぬ方向へと話が進んでいきますね