005 お披露目式
お披露目式
その日は、城内、皇都含めた周辺の町や村は 朝から妙にそわそわしていた。人のみならず 何故か動物たちまでそわそわしていたのは 謎であるが。まぁ さもありなん、これまで ずっと長くこの竜皇国お呼びリンドブルム帝国を治めてきた古竜であるルージュ・エリステルの第一子のお披露目式が執り行われるというのだ。
皇都近郊の人々
「なぁなぁ、陛下の御子は どのようなお方なのかな」
「おれっちが 知ってるわけなかんべよ」
「でもよう、聞くところによるとすっげぇ美人なお方だって話なんだがな」
「えっ、それは 初耳だわ。そんな噂どこから仕入れてきたのよ」
「ほら、この前あった武道大会。あれに 出場してた近衛騎士団の団長さんと対戦して見事優勝を果たしたっていう仮面の人…あの方が 陛下の御子ではないかって話なのよ」
「あぁ、それね、その話なら わたしも耳にしたわ。でも それって ただの噂話でしょ?」
「でもまぁ あとしばらくしたら」
「「「そう、しばらくしたら」」」
「「「「御子さまに会える」」」」
噂好きな○○○○たち
(古竜さまのお子が ついに)
(だな、ついに 古竜さまにもお子が)
(何年前だったか、三年前になるのか 古竜さまと邪竜の壮絶な戦い…)
(あの直後だったな)
(だな、凄まじいまでのマナの力を感じたかと思えば、すぅっとそれが 収束されて…)
(あれって あのとき 次元の裂け目から落ちてきた人の子の中に収まったのよね?)
(((!なんで そんなことが解るんだよ)))
(えっ?だって わたし あのとき わりと近くで見てたもの)
その他、周辺の人々一切合切含めて 皆の気持ちは
とにかく【めでたい】の一言につきるだろう
争いと貧困、天災に魔物の氾濫、荒れ果てた大地を 乱れた人々の心に安寧と希望を取り戻した大陸の言わば救世主ともいえる存在、それが ルージュ・エリステル
みなが、その御子のお披露目を 歓迎しない訳などないのだ
で、その御子さまと偉大なる陛下はというと
「母さま、どうしてもお披露目の式典…」
「はぁ、ミキよ いい加減腹を括ってはどうだ?あと二時(ふたとき)もすれば 式典が始まるのだ。そなたもそろそろ 着替えなくては ならんだろう。さきほど クラリッサが探し回っておったぞ」
「僕には、ああいった衣装は似合わないって思うのですが…」
「似合う、似合わないは そなたが 決めることでない、周りが 決めることだ。それに そなたの言を取り入れてずいぶんと質素にしたではないか」
「はぁ、まぁ そうなんですけど」「ぶっちゃけ 式典なんて出たくないです」
「この三年で 主もずいぶんと砕けてきたのぉ」
「それは、もう母さまの子どもですから」
「そ・そうか…うんうん そうであろう そうであろう、うん?」
「それは ほめられておるのかの」
「…」
「とにかく、ドレスにならなかっただけでも良しとせんか、そなたを 我の息子でなく、娘としてお披露目しようなどという不埒ものもいたというに」
「ゲッ!それは 真の話ですか?」
「うむ、あまりにもそなたの容姿がの、われの素の姿に似ておると言うことでな。実は 息子でなく娘なのではないかという話もあっての(こんな話がミキの耳にでも入ってしまったら城内がどんなことになるか、しれたものでないわ)」
「ふ・ふふふ そうですか そんな話が?ところで その方々は?」
「うむ、厳粛に罰をくだしたぞ」
「そうですか、えぇ ならばよしとしましょう」(けど、僕ってそんなに母さまに似ているのかなぁ。母さまの方が ずっと美しく その上神々しいのだけれど。まっ、みなの勘違いでしょう)
「さて、もうよいかな?そろそろ くるぞ」
「そうですね」
「ミキさま~!ミキさま~!」
「ここにいますよ」
「お時間ですよ、早くお着替えになってくださいまし」
「はい、それでは 母さま、式典の場で」
「うむ」
◇
「これより 竜皇国皇帝・ルージュ・エリステルさまが一子、ミキさまのお披露目の儀を執り行うことを宣言します」
「みなのもの、よくこの場に集まってくれた、感謝する。そして これより この場に 参じるものこそが 我の一子、ミキである。ミキをここに」
ってな感じで お披露目式は、厳粛に しかし終始和やかな雰囲気で執り行われた。ミキはというと別段緊張した感じでもなく 堂々とその姿を 会場に集まった皆々に現し、また式場に集まった皆々も その姿に そしてその振る舞いに まさしく陛下の御子である、陛下おめでとうございます、今日の日をこうして迎えることが出来、我ら一同感謝申し上げますと、なぜか皆、目を潤ませながら言祝いでいたという。まぁ なかには ミキに対して うっかり姫さまには…などと口走ってしまい 一瞬式場内を冷気が襲うかと思ったりもしたが、この二年でミキも少し落ち着いたのか ニッコリ微笑み、「さきほど 陛下より紹介いただいた ルージュ・エリステルが一子、ミキにございます。」と終始笑顔を絶やすことなく答えていたのであった…あったのだが 何故か 相手の方が 急に顔が青ざめてしまうと言う不可思議な現象が 所々におきていたという。
◇
「おわったぁ、ふはぁ~ 疲れました。地球にいたときは こんな式典に出席することなどなかったですし、ましてや この僕自身が 式典の主役だなんて、ねぇ。大学の入学式以来です。こんな規模の式典なんて。」
「ミキ、その大学というのは どういうものなの?」
「うん、それはね…」
こうして 親子の語らいは 朝方まで続くのであった