隠れ人ナイヴス⑤
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手際よく寝床を作るナギ様を横目に、私は部下に簡易的な寝床を作るように指示していた。
私自身も材料運びに加わり、一丸となって落ち葉を拾い集める。1人分、2人分、と積み重なっていく落ち葉を、今度は別の部下が分け、まとまった寝床を完成に近づけていく。
「落ち葉はそろそろいいだろう。よし、分けるのを手伝うぞ」
適度な量が集まったところで、さきに落ち葉を仕分けしていた部下に混ざり、協力して作り上げていく。
作っている途中も、私の集中は途切れ途切れだ。どうしてもナギ様の方へ視線がいってしまう。
当の本人はすべてを忘れてしまったかのように、無口で黙々と作業をしている。そこに私は寂しさを感じてしまうのだが、ナギ様には旅を続けてもらう。これが上の判断だ。
私もナギ様の親衛隊長という身分ではあるものの、街組合の首脳部には及ばない。
ここでバッタリ会ってしまったことは任務の失敗と言えるが、失敗に失敗を重ねるのは騎士としても恥だ。
……すでに失敗している身が言っても、説得力はないのだろうが。しかし、明かしてはならないのだ。
それが決まりであり、我々の任務であり、……目の前にいる蒼髪の少女、ナギ様のためでもあるのだから。
しかし、どこでこんな技を覚えたのだろうか。
確かに勤勉な方で、非常に頭脳明晰な方であったが、サバイバル術まで知識として持ち合わせているなど予想不可能だ。
今度は何をしているかと思えば、我々が作り上げている途中の寝床の上に、屋根代わりのシートを覆いかぶせている。
それも、単に被せるのではなく、木と地中に差し込んだ枝を支柱に、寝床にシートがかからないように。
騎士の一人が尋ねれば、雨除けだという。
雲の動きから天気を読み取り、ナギ様はこの後雨になる、と予想された。
空を見上げれば、たしかにこちらに向かって雨雲が流れてきている。
一体、ナギ様はどこまで見積もっているのだろう。不思議でしょうがない。
観察眼も優れているが、幾年経った今でも、衰えず、むしろ昔よりも眼差しが鋭くなった気さえする。
もちろん私に一切の意図的な視線はくれないので、あくまで個人的な感想に留まってはしまうのだが……。
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「アリス、なにか言いたいことあるよね」
「い、いきなり、なんでしょう? 親衛隊長である私がナギ様に隠し事などは……ないわけではありませんが……」
街組合総司令官親衛隊の稽古の休憩中、途中からご覧になっているナギ様がそう口にした。
この方の前では本当に隠し事ができない。
「アリスが隠し事をしている時は、剣がぐらつくんだ」
「なっ!」
私としてもさっきまでの稽古は、剣の軸がぶれ、非常に出来が悪かったと思っている。
それでも気づけたのは本人である私と、腕の立つ騎士2人ほどだ。
その2人はわずかな剣のぐらつきを感じ取り、隙を討ち取ろうとしていた。とっさの後退でなんとか凌いだが、危うく連勝記録にストップがかかるところだった。
「今のアリスだったら、僕は殺せてしまうよ」
「……申し訳ありません」
情けない。ナギ様も騎士に劣らぬ技術を持っている方ではあるが、隊長である私はそれ以上の力量を持っていると自負している。しかし、今回の技量は最高ではなかった。
それをナギ様の前で見せてしまったことも、ナギ様に見破られてしまったことも情けない。
「ねぇ、久しぶりにやろうか」
「討ち合い、ですか?」
「残念だけど、模造刀」
「真剣使って討ちあいなんてしたら、私の首が飛んでしまいます……」
「ははっ、……で、やる?」
「手加減はなしで、よろしくお願いします」
「もちろん」
少し微笑んだナギ様はすぐに振り返り、休憩中の騎士から模造刀を受け取る。ナギ様が受け取ったのは、短いナイフ。サバイバルナイフの模造刀だ。
対して、私は両刃の細い剣。レイピアと呼ばれる剣の模造刀だ。
適度にお互いが離れ、その中央にジャッジがつく。
「イー……ウィル……」
ジャッジから準備の声がかかる。
「イー」で剣に手をかけ、交戦の意思を表す。
「ウィル」で構える。
公式のルールに則ったものだ。ちなみに構えの姿勢を作らない限り、討ち合いは始まらない。
どんなに余裕があっても、どんな戦闘スタイルでも、必ず構えはしなければならないのだ。
「サンッッッ!!」
張り上げた声とともに片手が振り下ろされる。
それはスタートの合図だ。
私はナギ様の剣先を見ながら、身体の重心をどこに置いているか瞬時に把握する。
一方、ナギ様は構えたまま不動だ。
少しだけ後ろに重心が傾いているようだが、予測だと右へ進路を取るだろう。
距離はあと少し。
見計らって、ズレを待つ。
コンマ秒の動作も見逃さない。
とにかく身体を観察する。
そして遂にナギ様が動いた。
「(右だッ!!)」
それに合わせ、私は左に重心を寄せ、背後を取る態勢を整える。
目をつむり、体内で時間を計る。感覚を研ぎ澄ませる。
少しブレた剣が、ナギ様の首へ向かっていくイメージを掴む。
いや、掴んだ。