5、何がどうしてこうなった?
ステータス画面を再度見てみる。
さっき感じた衝撃が名づけの効果だったのだろう。空欄だった名前の所にはしっかり「リージェ」と入っていた。
俺はその前にしっかり「ルッスクーリタ」と名乗っていたのに、それは無効だったらしい。解せぬ。
スキル「タリ―語・Lv.1」ということは、スキルにもレベルがあるということなんだろう。
ルシアちゃんと会話ができるようになるには、このタリ―語のレベル上げをしていかなければいけない可能性もある。
うん、俺、こんなわけのわからない状況なのにワクワクしてきてる。だってゲームみたいなんだもん。
改めて自分の身体を見分してみる。
白銀の鱗に包まれた身体。空中から落下してもそれほど痛くなかったから、ステータスの割に結構頑丈なのかもしれない。
猫のようだ、と感じた手には肉球はない。まぁ、毛もないから滑ることもないだろう。そして、猫と同じように鋭い爪が出し入れ可能なようだ。良かった。これで不用意にルシアちゃんを傷つけなくて済む。
それにしても、一体、何がどうしてこうなった?
俺は、小中学校時代ずっとボッチだった。人見知りで引っ込み思案で、結局九年間友人を作ることなどできなかった。
そんな俺がハマりにハマったのがライトノベルや特撮番組だ。どの作品の主人公たちも格好良くて憧れた。
彼らのようになれれば、きっと友人だって簡単にできるに違いない。そう思って、俺は物語の主人公のように振る舞うように決めた。そう、高校デビューってやつだ。
「ひれ伏せ下民共! 俺様こそ暗黒破壊神ルッスクーリタ! この世を統べる神になる男だ!」
初日のホームルーム。自己紹介でそう叫んだ俺に返ってきたのは、「中二病乙w」という嘲笑だけだった。
俺にとっての憧れは、誰にも理解されることのないものだったのだ。
「ふ、ふん。俺様は孤高で高貴な存在なのだ! だからゆうじ…ゲフン、下僕など不要なのだ!」
そう強がることしかできなかった。俺は結局高校でもボッチだった。
そんでもって、やたらとからかってくる連中を仮想敵――「光の軍勢≪ルーチ≫」として、特撮を真似て練習した技などを繰り広げつつ(と言っても実際に当てるわけではない。怪我をしてしまうからな、俺が)相手がシラケて去るまで演じ続けた。それは、周りからはいじめに見えたかもしれないけれど、俺にとっては全力で俺の作り出した世界をひけらかすことができる≪舞台≫で、けっこう楽しかったんだ。
うん、ここまでは覚えている。な、泣いてなんかいないぞ。クスン。
覚えている限りの最後の記憶まで辿ってみる。
あれは、梅雨に入ったばかりの頃だった。確か、寝坊したんだ。
で、完全遅刻で、憂鬱になって、教室に入るのをやめて帰ろうかとして。
「ほら、暗黒破壊神様、授業始めるぞ。さっさと教室入れ」
一限の教師に出欠簿で頭をはたかれて教室に入らされたんだ。それで……。
「う~ん……。何やら教室内が真っ白に光ったような気がするんだが……」
ダメだ。そこまでで記憶が途切れてる。
これが最期の記憶ってことか?
なら、
よし、当面の目標が決まったぞ!
情報を集めつつ、レベル上げをして、
んでもって、やはりドラゴンに生まれたからには最強を目指さねばな!
暗黒破壊神たる者、女に守られているようではいかんのだ!
「ふわぁぁぁぁ」
お腹も膨れたし、目標も決まって気が抜けたのか、急に眠気が襲ってくる。そういや俺まだ生まれて一日目だった。
濃い一日だったなぁ。
♢♢
目を覚ましたら、真っ暗だった。寝たのが早かったからか。まぁ、仕方ない。
ルシアちゃんの姿は見えない。
あ、真っ暗とはいえ、月の明りだろう。ほんのりと窓から光が入ってくるので視界には困らない。
ふむ……少し情報収集で飛び回ってみるか。
食事として持ってこられたあれがどこかに潜んでいるかも、と思うとぞわっとするけれど。
「ええい、男は度胸! 暗黒破壊神たるもの、あんな虫けらにビビるわけがないのだ!」
は~はっはっはっはっは! という高笑いが静かな室内に響く。
よし、行こう。そうそう、飛ぶ練習もせねばな。
背中に意識をしてフワッと舞い上がる。昼間何度も飛んだが、まだ慣れない。
天井近くまで飛び上がると、部屋の全容が見える。大きなベッドの上にルシアちゃんが眠っていた。
いたのか。騒いでしまったのに、起きる気配はない。
因みに、ルシアちゃんが眠るベッドの横に備え付けられた、ベッドの倍くらいの高さがある玉座のようなものが俺の寝かされていたベッドらしい。
卵の時、やたら高い所から落ちた感覚があったが、もしやあの高さから……? 芋虫がクッションになってなければどうなっていたか。いや、大丈夫か。飛んでる時もっと高い所から落ちたけど平気だったもんな。
ルシアちゃんの頬に伝う涙の痕が気になるが、うなされているわけでもなさそうだしそっとしておこう。
さあ、探索だ! あの動くメロン畑に近づかなければ一人でも大丈夫だろう!