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文化祭とクリアリーブル事件㉚




翌日 夜 都内某所


ここはとても静かで雑音なんてものは聞こえなく、人通りが少ない薄暗い道。 今日も結人が目覚めることはなかったが、みんなは彼の病室へと足を運んでいた。

「・・・待っていたわよ、坊や」

ただ一人の少年を、除いては。 自称“綺麗で美人なお姉さん”を目の前に、静かにたたずんでいる少年――――未来は、相手に向かって少し微笑みながら口を開く。
「あぁ、乗った」
「ふふ。 流石坊やね」
「でも一つ条件がある」
「何かしら?」
取引を承諾したことに対して素直に喜んでいるお姉さんに、条件を一つ提示した。
「おま・・・。 いや、ねーさんに協力すんのは俺の件が済んでからだ。 ねーさんが本当の情報を教えてくれるのか、まだ分からないからな」
「えぇ、いいわよ」
その答えに嬉しく思うはずだが、ここで違和感を感じる。
―――簡単に俺の条件を了解した? 
―――俺を騙そうとしているわけじゃなかったのか。
だがそんな不審な思いをしている未来をよそに、お姉さんは話を続けていった。
「じゃあ、早速本題へ入ろうかしら。 坊やは、どうしてクリーブルが立川の人々を病院送りにしているのか分かる?」
「は・・・?」
―――その理由をコイツは知ってんのか?
その問いは、最初から気になっていたものだった。 だけど唐突な質問に付いていけず答えるのを躊躇っていると、お姉さんは迷わずに衝撃的な答えを口にする。

「結黄賊を消したいからよ」

―――ッ!?

「・・・は? 何を言って・・・」
「クリーブルにとってはあんなに恐ろしい喧嘩をするチーム・・・。 そう、立川に結黄賊なんてものはいらないの」
「結黄賊はそんなチームじゃねぇ!」
―――コイツ、俺が結黄賊だと知っていて話しかけてきたのか?
「それは分かっているわよ」
「お前もクリーブルなのか? ならどうして俺なんかに協力する!」
お姉さんはクリアリーブルの情報を本当に知っている。 結黄賊は喧嘩をするチームではないが、喧嘩をしてきたという事実が既にバレている。
―――コイツの目的は一体何なんだ!
未来が一人混乱を起こしていると、目の前にいるお姉さんは悲しそうな表情を浮かべながら言葉を綴った。
「だから、私はお姉さんね。 まぁ・・・私も気に入らないのよ。 結黄賊のする喧嘩が嫌だから潰そうとか言うのは勝手だけど、立川の人にまで危害を与えなくてもよくない?
 坊やもそう思わない?」
「そりゃあ・・・」

「・・・坊やも、結黄賊なんでしょ」

「ッ! どうしてそれを」

思っていた通り結黄賊だと知っていて声をかけてきたのだと分かり、後ろへ一歩下がって相手を警戒した。 するとお姉さんは、次にもう一つ衝撃的な言葉を口にする。
「結黄賊の名前については、とっくに知っていたわ。 だって・・・あの坊やが『俺たち結黄賊は何ちゃらー』とか言っていたもの」
―――あの坊や?
この時、未来の頭には嫌な考えが浮かんできた。

―――俺たちの中に、裏切り者がいる・・・?

「誰だよそれ! それって俺たち結黄賊を裏切って、クリーブルに協力している奴がいるっていうことか?」
「さぁ・・・? そうじゃない? でもごめんなさい。 その坊やの名前までは分からないわ」
―――どういうことだよ・・・。 
―――俺たちの中に一人裏切り者がいて、クリーブルに俺たちのことをチクったというのか?

裏切った者は一体誰なのだろうか。 やはり怪我をしている仲間を発見した、第一発見者から疑うべきか。 だったら椎野を発見した、北野?
だが彼は椎野と同じダンスメンバーだ。 それぞれのチームは練習開始の時間が違うため、ダンスの練習場所へ行くために同じ時間帯、道を辿ってもおかしくはない。 
じゃあ結人を発見した真宮か? いや、彼もあの夜二人でパトロールをするはずだったため、結人の近くにいてもおかしくはない。 
悠斗もやられた側で、夜月も未来とずっと一緒にいた。 となると残りは、御子紫、優、コウ―――― この3人のうちの、誰かなのだろうか。

「その反応じゃ、本当に坊やも結黄賊みたいね。 駄目よ、街中で『俺は結黄賊ー』とか、普通に名乗っちゃ」
―――・・・何だよ、それはやっぱり俺のせいだったのか。
「ごめんね? 少し坊やを尾行しちゃった」
「それは過ぎたことだからもういい。 それより聞かせてくれ! そんな説明じゃ、納得できねぇ」
「何を聞きたいの?」
未来の頭は今でも混乱を起こしている。 とりあえず今分かったことは、結黄賊の中にみんなを裏切ってクリアリーブルに協力している者が、いるかもしれないということ。
そしてクリアリーブル事件を起こした理由は、結黄賊を消したいからということ。 だが肝心なことが、まだ分かっていない。
「どうして結黄賊を消したいからって、立川の人々に手出しをするんだよ! 結黄賊に直接対決を申し込めばいいだろ!」
「まぁ・・・。 そうねぇ・・・」
「何で関係のない立川の人まで巻き込むんだ。 クリアリーブルの目的は、俺たちじゃないのか?」
「クリーブル事件を起こした本当の目的は、結黄賊を消したいからっていう理由できっと合っているわ。 でもごめんなさい。 これ以上のことは私でも分からないの。
 調べようとしても、限度があってね。 だからどうして結黄賊に直接対決を申し込まず、立川の人を襲っているのかは分からない。 ・・・でも本当、不思議よね」
「・・・そうか」
これ以上質問攻めをしても求める答えは返ってこない思い、感情的になっている自分を何とか落ち着かせた。 

そして冷静になって、再び口を開く。
「じゃあ・・・早速だけど教えてくれ。 俺の仲間をやった、犯人の情報を」
「それはちょっと待って」
「は?」
昨日は『教えてくれる』と言っていたため、急に否定されては言葉が詰まる。 だが相手はそんな未来を気にせずに、淡々とした口調でこう言ってきた。
「沙楽学園、もうすぐ文化祭なんでしょ?」
「なッ・・・。 どうして学校まで知ってんだ!」
「知っているも何も、坊やと私は昨日会っているんだから。 あの制服、沙楽のでしょ?」
昨日制服を着て行動してしまったことを、今となって反省する。 やはり情報が漏れてしまうため、危険だったのだろうか。
「だから、それが終わってから動きましょ。 文化祭が近くなって、坊やも大変だろうし」
「それだと遅い。 今すぐに教えてほしいんだ」

「大丈夫よ。 文化祭が終わるまで、結黄賊のみんなと沙楽学園の生徒には手を出さないよう、言ってみるから」

―――・・・え?

「ねーさんはやっぱりクリアリーブルなのか? だったらどうして自分で、クリーブル事件を止めようとしないんだ」
“お姉さん”というワードを簡単に口にしてしまうようになった自分を少し気持ち悪く思いながらも、相手に疑問をぶつける。
「私は下っ端だから私の意見なんて全然聞いてくれないの。 でも坊やなら、クリーブル事件を解決させたいっていう強い意志を持っているから、大丈夫だろうって思ったのよ」
「・・・」
色々なところに突っ込みを入れたかったが、これ以上話をややこしくさせないため今は受け流すことにした。
「・・・本当に、手を出さないように言ってくれるんだろうな」
未来だって高校生だ。 文化祭はもうすぐで、準備もラストスパートに差しかかっている。 それに帰りの時間も遅くなるため、クリアリーブル事件を探っている暇はあまりない。
だからこのお姉さんが言っていることを本当に実行してくれるのなら、未来にとっては凄く助かることだった。
「えぇ、もちろん。 約束するわ。 でももし約束を破ったりしたら、私を煮ても焼いても好きにしてくれていいわよ!」
「煮ても焼いてもって・・・」
両手を大きく広げニコニコしながらそう言ってくる相手に、未来はリアルで引いてしまった。 だけど気持ちをすぐに切り替え、続けて言葉を発する。
「分かった。 じゃあ俺も、もしねーさんの協力を拒んだとしたら・・・。 どうしようかな・・・」
そこまで言いかけ、しばし考え込む。 そして意を決して、お姉さんに笑顔を向けながらこう言葉を放った。 

「まぁ・・・。 俺を好きに、利用してくれても構わないぜ」

自分の意志は変わらないということを、証明するために。


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