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「本気か……
それは私も少し困るな」
オトネが笑う。
フィサフィーも笑う。
「なにがおかしいのかのぅ?」
フィサフィーが殺気を込めてオトネを睨む。
「愉快で滑稽だ」
その言葉を聞いたフィサフィーの眉がピクリと動く。
フィサフィーは再び殺気を込める。
「じゃがな……
小娘、ヌシではワシには勝てぬよ?
この殺気を感じれぬヌシではな!?」
フィサフィーは、そう言って黒い犬を複数召喚する。
「哀れだな」
「これから犬どもの餌になるヌシがか?」
「いや……
私は死なぬよ」
オトネが、人差し指を動かし中に文字を書く。
「ほう?
ワシに勝つ気でいるのか?
人間風情が!?!?」
フィサフィーが、杖を振り上げ犬たちに命令する。
「さぁ!犬どもよ!!
小娘を喰い殺せ!」
「ぐるるるるるるるる!?
ぎゃう!」
黒い犬がオトネを襲う。
「ふん。
犬モドキに負けるほど私は弱くはない」
オトネが、黒い犬たちの方に向けて人差し指をリズムカルに振る。
「ぎゃ――」
黒い犬たちは断末魔を最後まであげることなく破裂していった。
「む……
もしやヌシは、旋律者か?」
「だったらどうだというのだ?」
「むぅ。
てっきり音の能力者だと思っていたが……
まぁ、よい。旋律者は殺さずに生け捕りにするのがモトフミさまの意思。
生け捕りにさせてもらうぞ」
フィサフィーは、そう言って拳を握りしめる。
するとオトネのまわりの空気が圧縮される。
「なにを……?」
オトネの意識が遠くなる。
「なぁに、ちょっと薬を……な?」
フィサフィーがそう言って笑うとオトネの体を杖の上に載せた。
オトネは、意識を保つだけで精一杯だった。
そして、黒い空間から明るい空間へと戻る。
元の空間に戻った。
「オトネ!」
セロがフィサフィーに走り寄る。
しかし、フィサフィーの殺気に飲み込まれ動けなくなる。
「ご主人さま……」
オトネが弱々しくセロの方を見る。
「ま、まって……いま……すぐ……たす」
セロが震える。
震える手を押さえながらいう。
「ご主人さま。
ありがとうございますです。
そして、さようなら」
オトネがそういうと姿を消した。
フィサフィーが、セロの方を見る。
「ヌシらは、殺さないで置いておこう。
それも一興じゃて」
フィサフィーも姿を消した。
そして、セロの叫び声だけがその場に響いた。