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「はじめまして、お嬢ちゃん。
そして、さよなら」
フィサフィーが小さく笑う。
セロはそれだけで身震いした。
新一や裕也震える。
ただ子猫のように震える。
しかし、オトネは震えない。
「そうですますね。
サヨナラですますね」
オトネが小さく微笑む。
「むぅ?
ワシの殺気が伝わらないのかのぅ?
よっぽどの雑魚じゃの。
我がテオスに主のような存在は要らぬ」
フィサフィーは、小さくうなずくと杖を振り下ろした。
すると黒い影がオトネを襲う。
オトネは、その影がオトネを包み込む。
オトネはフィサフィーの闇に飲み込まれた。
「んー」
オトネは首を傾げる。
その空間にはフィサフィーとオトネのみがそこに存在する。
「さぁ、この空間にはワシとお主だけじゃ。
肉片になり犬どもの餌にでもなれ」
フィサフィーの影から無数の犬が現れる。
「ぐぅぅぅぅぅぅ!」
「ここには、貴方と私以外いないのですますか?」
「それがどうしたかいのぅ?」
「そうですますか……」
オトネの声が低くなる。
犬たちの表情が変わる。
「む?主は……」
「黙るが良い」
フィサフィーが一歩退く。
オトネの言葉に犬たちが怯える。
「貴様はなにものじゃ?」
フィサフィーがオトネを睨みつける。
「さぁ、お前に答える義理はないと思うが……」
オトネの口調が変わる。
「雰囲気が変わったのぅ。
改めて聞く主はなにものじゃ……」
「改めて言おう。
主に答える義理はない」
「死にたいようじゃな。
犬どもよ。
この女を喰い殺せ!」
フィサフィーは、そう言って犬に指示を出した。
しかし、犬は動かない。
「指示だけだして動かぬヤツって、いつの時代もいるよのぅ」
オトネがフィサフィーの背後に周る。
「早いのぅ」
しかし、フィサフィーはオトネから距離を取った。
「音速のオトネの名は伊達じゃないのさ」
そう言って親指で中指を弾いた。
音の振動で犬たちが吹き飛ぶ。
「ほう。
やるではないか。
なら、ワシも本気を――」
フィサフィーが言葉を放つことなくオトネがフィサフィーの顔を殴り飛ばした。