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カンカンカンカンカンカンカンカン。
電車の音が響く。
「さよなら。
僕の世界」
ひとりの少年が、電車に飛び降りようとしていた。
しかし、それをひとりの老人が止める。
「止めておいたほうがいいぞ?」
老人が、そう言って少年の腕を掴む。
「どうしてとめるの?」
少年の言葉に老人が目を緩める。
「主が死ぬのなら、ここにいるもの全てを殺す。
男も女も子どもも……老人もな。
例外はない。
みんな殺すぞ?全て殺すぞ?」
老人の目は穏やかでそして暖かかった。
「……それは困るね」
少年はため息をつく。
「よくもまぁ、毎度毎度スキを見つけては死のうとするのぅ」
「まぁ、それでモトフミを殺せるのなら安いものだよ」
少年は、老人の腕を大きく振り払い少し距離を開ける。
「さて、この人の多いところで誰も傷つけずにここを去ることが出来るかいのう?」
老人は、そう言って自慢の髭を撫でる。
「うーん」
少年は迷う。
「まぁ、迷っている間に殺すかのぅ」
老人は杖で制服を着た少女の足を叩く。
「え……?」
女子高生は、何が起きたのかはわからない。
わかっているのは、足が無くなっている。
ただそれだけだった。