文化祭とクリアリーブル事件㉖
同時刻 都内某所
コウたちが真宮のいる正門へ向かっている頃、ある二人は待ち合わせの場所へと向かっていた。 今日は家に帰る時間も勿体ないため、制服での行動となる。
悠斗に言われた通り、伊達のことはしっかりと守るつもりでいた。 彼は結黄賊でもないし、喧嘩なんてものは当然できない素人だからだ。
―――俺は自らクリーブル事件に関わろうとしている。
―――だから、それなりの覚悟はとっくにできているさ。
今二人は制服のため派手に行動はできないが、今日は情報だけが手に入ればそれだけで十分なため、下手に学校に連絡がいったりはしないだろう。
それに辺りが暗くなったら、伊達たちに外を歩かせるわけにはいかない。 だから夕日が落ちるまでしか動けないため、時間が限られていた。
「あぁ・・・。 そうだ。 大丈夫だよ。 俺たちももう着く。 ・・・あぁ、ありがとな」
伊達は通話相手と少しの間会話をし、電話を切る。 そして歩きながら、未来に向かって口を開いた。
「近くにいるから、すぐ集まれるって」
「そっか。 悪いな、伊達」
「大丈夫だよ。 まぁ・・・話の方は・・・」
「分かっている。 話は、全部俺の方からするよ」
未来は今から伊達のクリアリーブルの仲間に会わせてもらうことになっている。 もちろん未来が『クリーブルの仲間に会わせてほしい』と頼み込んだのだ。
そして、伊達の友達のことだ。 きっと彼らも、クリアリーブル事件に関しての情報は何も持っていないのだろう。
「俺らはさ。 いつも5人で行動してんだ。 みんな同い年だから、気が合う奴らだし。 あぁでも、学校はバラバラだけどな」
「4人だけでも十分さ」
伊達を含んで5人。 もし何かがあった時、5人くらいなら守れるだろう。 それにその数がいれば、結構な勢力にもなる。
そのようなことを考えながら、目的地へと確実に足を進めていく二人。 そしてもう一度伊達の意志を確認するよう、彼に向かってこう尋ねた。
「・・・伊達は、クリーブルのことをどう思っているんだ?」
その問いに少し戸惑いながらも、伊達は自分の思いをゆっくりと言葉にして紡いでいく。
「・・・今の事件は、本当にクリーブルが起こしているってことは信じたくない。
俺は結黄賊のよさを知っているし、今のクリーブル事件には全く関係がないってことも分かっている」
その答えに、未来は更に問い詰めた。
「俺たちはクリーブルを敵視している。 俺だけじゃなく他の奴らも、結黄賊とクリーブルの抗争は近々起こると覚悟しているさ。 伊達は、抗争が起きてもいいと思っているか?」
「そんなことは思っていない! 俺は確かにクリーブルだけど、結黄賊を悪く思っていないし結黄賊がやられてほしいとも思っていない」
「でも俺たちはクリーブルを許しているわけじゃない。 結黄賊が敵に回されている今、俺らはクリーブルと敵対しなければならない。
もし伊達がクリーブルの味方であるとしても、俺はお前らを潰しに行く。 と言っても、伊達はクリーブルの一員なんだ。 だから味方でいんのは当然だ。
それに関しては、何も文句は言わねぇし否定もしねぇよ。 ・・・でも、抗争が起きる前に言っておく。
伊達が俺たちの行く手を阻もうが、俺は伊達も含めお前ら全員を潰しに行くから」
未来の意志は変わらなかった。 どんなに親しい者が結黄賊の相手になろうが、そんなことは知ったこっちゃない。 こちらだって仲間がやられているのだ。
そのくらいの覚悟がないと、わざわざ伊達を使ってクリアリーブルを探ろうだなんて最初から思わない。 そして未来の迷いのない発言を聞くと、伊達は黙り込んでしまった。
彼がどんなに阻もうが、結局は結黄賊が突破してしまうことは既に目に見えている。 そのせいなのか、伊達は今の未来を止める手段がなく何も反論してこなかった。
そんな彼に同情するよう、再び未来は口を開く。
「・・・別に、伊達を殴ってでも潰そうだなんて思ってねぇ。 伊達は、こっち側の人間じゃないから」
「・・・こっち側の人間?」
小さな声でそう尋ねてくる伊達に、ゆっくりと頷いた。
「あぁ。 こっちの人間・・・。 つまり、喧嘩とは無縁なんだよ、伊達は。 そんな奴に、俺は手を出せっこねぇ。 もし俺が伊達に一発でも手を出してみろ。
・・・ユイに怒られて、チームから外されんのは目に見えているさ」
再び黙り込む彼を隣に、更に言葉を続けていく。
「でもさ。 伊達も知りたいだろ? クリーブルの一員なら」
「知りたいって、何を・・・」
「真実だよ。 本当にクリーブルがやっているのかすらも、今は分かんねぇんだろ? だったら真実を突き止めるまでさ。
クリーブルが本当にこの事件を起こしているのか。 どうしてこんなに酷い事件を起こしたのか。 ・・・その、真実をさ」
そう口を開くのと同時に、目的地の場所が見えてきた。 そこには既に4人の少年がいて、皆こちらを見ている。
おそらくあの4人は、伊達が集まるよう頼んでくれたクリアリーブルの仲間なのだろう。 伊達も彼らの姿に気付き、覚悟を決めたような口振りでこう答えた。
「あぁ・・・。 その真実、俺も知りたいさ」
その言葉に、未来は少しだけニヤリと笑う。
「よし、決まりだな」
そして未来たちは4人のもとまで行き、彼らと対面する形をとった。 伊達の言っていた通りみんなの学校はバラバラらしく、制服はそれぞれ違うものを身に着けている。
この異様な光景が、逆に新鮮さを増していた。 彼らの容姿や顔付きを見る限り、伊達と同じで喧嘩とは無縁そうな4人である。
そんな友達らを目の前にし、伊達が代表として先に口を開いてくれた。 そしてここにいるみんなのことを、それぞれ紹介し始める。
「コイツらが、俺のクリーブルの仲間。 悪い奴らじゃないよ、ただ休みの日とかにたまに集まって遊んで、それで解散って感じ。 みんないい奴らだから。
そして彼の名前は未来。 俺と同じクラスメイトでさ。 いつも、仲よくしてもらっている」
未来は彼らと初対面で、当然彼らにとっても未来とは初対面だ。 そのためこの場には気まずい空気が流れ込むが、一応互いに軽く挨拶を交わすことができた。
「それで・・・? 俺らに何の用っすか?」
4人いる中で真ん中にいた少年が同い年のはずなのに一応敬語もどきを使い、早くこの気まずい状況から逃げ出したいのか早速本題を聞き出してくる。
その流れで、未来は彼らのことを一人ずつ見渡しながら言葉を紡いだ。
「今俺は、クリーブル事件の情報が少しでもほしいと思っている。 だから悪いけど、みんなにも協力してもらいたい」
「・・・情報がほしいから、クリーブルである俺たちを呼んだのか?」
「そうは言っても、俺たちは何の情報も持っていないよ」
未来の口調が初対面なのにもかかわらずタメ口だったせいか、彼らもタメ口で返してきた。
「何の情報も持っていないのは分かっている。 だけどお前らはクリーブルなんだろ、だからそれなりには顔が広いはずだ」
「おい待てよ。 ・・・信用できねぇ」
突然左にいる少年が、懸念を抱きながらそう呟く。 それに続けて、その隣にいる少年もこう尋ねてきた。
「・・・お前は、一体何者だ」
その一言で、この場には一気に冷たい空気が流れ込んだ。 人があまり通らないところを待ち合わせ場所に選んだのだが、ちらほらと人は通りかかっている。
そんな通行人の会話が未来たちには聞こえない程、この場は緊迫とした空気に包まれていた。 だがその沈黙を静かに破るかのように、未来はそっと口を開きこう答える。
「・・・俺は、結黄賊だよ」
「「「「・・・ッ!」」」」
その一言で目の前にいる少年4人は皆一様に一歩下がり、今から喧嘩しようとする態勢を一斉にとった。
だが喧嘩に慣れていないせいか、未来から見た彼らの身構えは不格好にしか見えない。
「おい、未来・・・」
結黄賊だということをカミングアウトするのに対し、伊達が心配そうな表情をしながらそう声をかけてくる。
―――今更俺が結黄賊だということを隠していてもしょうがない。
―――だったら、本当のことを言った方がいいだろ。
未来が彼らから出る次の反応を待っていると、少しの時間を置いて目の前にいる4人は恐怖を交えながら口を開いていく。
「お、おい・・・。 どういう意味だよ」
「俺たちに何の用だ!」
「今から俺たちをボコろうとしてんのか・・・?」
「おい直樹、これはどういう意味だ」
“直樹”という聞き慣れない単語に一瞬思考が停止するが、頭を切り替え未来は彼らに向かって言葉を放した。
「・・・結黄賊はやっていないと言ったら、信じるか」
「は・・・?」
「そ、そんなもん信じられるわけないだろ・・・!」
―――・・・だろうな。
信じられないと分かっていながらも彼らに向かってそう尋ねた自分に対し、少し呆れてしまう。 だが気持ちを切り替え、彼らに向かって説明をし始めた。
「現に今、クリーブルによって結黄賊の仲間が3人やられてんだ」
「え・・・?」
「俺は仲間をやった犯人が許せない。 どうしても捕まえたいんだ。 だから、お前らにも犯人捜しに協力してほしい」
結黄賊はクリアリーブルに酷い命令を下していると噂されている。 だからクリアリーブルにとっては、結黄賊は酷いチームだと思い悪印象を持っているに違いない。
そのせいか、今の未来の発言を聞いた彼らは混乱してしまい、誰も言葉を発さなくなってしまった。 だけど未来は、これ以上のことは何も言えなかった。
クリアリーブル事件に関しても、彼らは実際結黄賊のことをどのように思っているのかも何も分からないないため、知ったような口振りでは言えなかったのだ。
「別に俺のことを信じても信じなくてもどっちでもいい。 とにかく、俺は犯人を突き止めたいだけだ。 結黄賊は悪い奴らじゃねぇって言っても、どうせ今は信じられないだろ。
だから無理に協力しろとは言わねぇ。 ただ・・・お前らも、真実を知りたいだろ?」
「真実?」
その問いに、先程伊達に放った言葉をそのまま返していく。
「あぁ。 本当にこの事件はクリーブルが起こしているのか。 こんな酷いことをする目的は何なのか。 ・・・そして結黄賊は悪いチームじゃないっていうのも、証明したい」
そう言うと4人は再び黙り込んでしまうが、伊達が代わりに答えてくれた。
「俺は未来に協力するよ。 真実を知りたいから。 みんなも思わないか? クリーブルは、こんなことをする集団じゃないって。 本当に起こしているのはクリーブルじゃないって。
それに俺は、結黄賊について少しは知っている。 結黄賊は、クリーブルに立川を荒らすような命令なんて絶対にしていない。 でもみんなは、そう言っても信用できないだろ?
・・・だから、一緒に真実を突き止めようよ」
伊達がこんなにも、積極的に協力してくれるなんて思ってもみなかった。 そんな彼の熱い言葉に、未来の意志もより強いモノとなる。
そして伊達の言葉を聞いて少しでも心を動かされたのか、彼らは次々とこう口にしてくれた。
「そう・・・だな」
「・・・真実は、俺も知りたい」
「でも俺らにできることなんてあんのかな」
「あまり信じたくはねぇけど・・・。 協力するよ、俺も」
それらに応えるよう、未来は少しだけ笑顔になりながら彼らに向かって言葉を返す。
「マジありがとう! すっげぇ助かるわ。 でもお前らが思っているよりも、クリーブルを直接探ろうとすんのは危険だ。
だけどお前らのことは、この俺がちゃんと守るから。 もしクリーブルがお前らを敵に回そうとしたら、その時はちゃんと俺が最後まで守り切るからさ」
―――伊達の仲間なんだ。
―――だからコイツらにも、怪我を負わせるわけにはいかない。
「あぁ、ありがとう」
「なぁ、未来って呼んでもいいか?」
「もちろん」
この場は先程とは違い、今度は温かい空気が流れ込んでいた。
クリアリーブルと結黄賊というチームがここにいる少年たちを縛り上げ少しの壁はあるが、これでも多少は打ち解けることができた方だ。
これで伊達の仲間、クリアリーブルが未来の味方についた。 ここから有力な情報が、手に入ればいいのだが――――
「未来、俺たちは何をしたらいいんだ?」
―――みんなを連れてクリーブルの集団に突っ込むのは危険だ。
―――だったら回りくどいけど、安全な方法でいくしかねぇ。
未来は真剣な表情になり、彼らに向かってある頼み事を入れた。
「つてを辿っていくしか安全な方法はないと思っている。
だからお前らには、できるだけ多くのクリーブルの知り合いに連絡して、クリーブル事件に関して知っている奴を捜し出してほしい」