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文化祭とクリアリーブル事件⑱




同時刻 立川駅前


真宮が未来たちを必死に捜している頃、未来本人は駅前でたたずんでいた。 どこの学校も授業が全て終わった立川には、たくさんの制服姿の生徒たちが見受けられる。
駅周辺にはそんな彼らが特に集まっていて、この場でたむろっていたりゲームセンターへ足を運んだりしている者が多くいた。
そんな中、未来は彼らに反するよう服装は私服で、かつ何処へも行かずにその場に留まっている。 隣には当然、悠斗もいた。
未来たちは一度家へ帰り私服に着替え、今駅前で夜月が来るのを待っている。 未来と悠斗は互いに家が近いため、一緒に駅へと向かっただけのことだ。
夜月の家は未来たちとはほんの少し離れており駅からも少し遠いため、どうしても未来たちが先に着いてしまう。
二人の目の前をたくさんの人が横切って行く中、未来はこれからのことについて考えていた。

―――さて、夜月が来たら最初は何をするかな。

今日はクリアリーブルの情報が少しでも手に入ればいい。 未来は昨日、家でクリアリーブルについて調べていたがやはり直接情報を得る以外には、他にいい方法がなかった。
ネットで掴むには限界がある。 だから直接街の人に聞き回った方が新しい知識が手に入るし、深く探りを入れることもできる。
今日の目標はできるだけクリアリーブルの情報を得ること。 そして、もう一つ。 

―――結黄賊についてどう思っているのかも、聞いてみないとな。

「お待たせ。 未来、悠斗」
いつの間にか夜月も駅前へ到着していたようで、未来たちの目の前に立ちそう声をかけてきた。 
彼は普段と変わらない私服だが、背が高くファッションセンスもいいことから何だか腹が立つ。
心の中ではそう思いつつも、顔には出さないようにして言葉を返した。
「じゃあ、行くぞ」
未来のその合図と共に、3人は歩き出した。 

そして特に行く当てもなく、たくさん人がいる駅周辺を適当に歩き回る。 それは当然、クリアリーブルらしき集団を捜すため。 
クリアリーブルに直接会えたらいいのだが、事件を起こしている者たちはきっと彼らのほんの一部なのだろう。
だからたとえ会えたとしても、結黄賊の目的である人物に辿り着くのは相当な時間がかかりそうだ。 だがそんなことは、覚悟の上。
「・・・真宮の奴、追ってこないかな」
悠斗はそう言って、後ろを振り返りながら周りを気にし始めた。 そんな彼に対して、未来は淡々とした口調で返していく。
「大丈夫だよ。 真宮に気付かれないために、俺たちは私服で動いてんだ。 私服ならまだしも、制服だと余計に目立つだろ」
「・・・そっか」
だが悠斗はあまり納得がいっていないのか、未だに周りを気にしていた。 だけど未来はそんなことには構わず、目の前にいる人々を確認しながら足を前へと進めていく。
「なぁ」
「ん?」
突然話しかけられ、夜月から出る次の言葉を待った。 すると彼は、ある少年の名を静かに口にする。

「伊達に聞いたらいいんじゃないのか?」

「伊達?」

クラスメイトでほぼ毎日顔を合わせている伊達という少年の名に、悠斗はすぐに反応した。
「そうそう。 伊達はクリーブルなんだろ? だったら、伊達に協力してもらった方が早くね? クリーブルについて探るならさ」
「あー、そっか。 確かに伊達がいた方が戦力になるかもな」
「だろ。 今から伊達を呼ぶか?」
「じゃあ俺が連絡するよ」
勝手に話を進めていく二人に、未来は慌てて止めに入る。
「おい! 勝手に連絡すんなよ! 伊達はいらねぇ」
「は? 何でだよ。 今更そんな強がりはいらないって」
「強がりじゃねぇよ。 とにかく、伊達は駄目だ」
夜月の言葉に迷わずそう返し、伊達がこの場に来ることを防いだ。
「どうして駄目なんだよ」
自分の意見を反対され少しふてくされている彼の問いに、未来は気にせず答えていく。

「よく考えてみろ。 伊達はクリーブルだ。 俺たちが伊達に協力してほしいって頼んだら、アイツは嘘の情報を教えるかもしれないだろ」
「嘘の情報?」
「あぁ。 伊達は昨日の様子だと、クリーブルを庇おうとしている。 
 俺たちがクリーブルを敵視していることを伊達は知っているから、クリーブルに近付けさせないために俺たちに嘘の情報を教えるかもしれねぇ。 だから伊達を呼ぶのは駄目だ」
「あぁ・・・。 そっか」

夜月はその意見に納得したようで、これ以上は伊達という名を口にしなくなった。 そして夜月から悠斗にバトンタッチするよう、次に悠斗が口を開く。
「今から俺たちは何をするの? またパトロールみたいに、被害に遭いそうな人を助けるのか?」
彼がやっと本題へ戻してくれ、未来は今からすることを二人に伝えた。
「パトロールはちゃんと夜にする。 だけどクリーブルが動いて被害者が出るのは夜だ。 暗くならないと、事件を起こしている奴はきっと現れない。
 だからそれまでの間、クリーブル事件の情報を聞き込みして得ようと思う。 ・・・ついでに言うと、結黄賊のこともな」
“結黄賊”というワードを聞き二人は一瞬固まったような表情を見せるが、文句は何一つ言わずその意見に賛成してくれた。

早速3人は、駅周辺にたむろっていて柄が悪そうな集団たちに声をかけ始める。 質問内容は、クリアリーブル事件のことをどこまで知っているのか。
そしてその事件と同じくらい話題になっている結黄賊というチームを、どのように思っているのか。 この二つについて、彼らに尋ねてみた。

「あぁ? クリーブル?」
「クリーブル事件かぁ。 あ、そういや俺の知り合いでその事件の被害者になった奴いるわ」
「え、マジで?」
「クリーブル事件って毎晩起こってんだろ? 物騒だよなー、最近の立川」
「何が狙いなんだろうね、クリーブルは」
「あ、俺クリーブルに入っているぜ! 
 最近起こっているクリーブル事件について気になったから、色んな仲間に聞いてみたんだけど、みんな事件には関わっていなかったんだよな」
「つまりクリーブル事件を起こしている奴は、ほんの数人っていうことか?」
「クリーブルは悪い集団じゃなかったのに、どうしてこんなになっちまったんだろうな」
「そういやさ、結黄賊って知っているか?」
「あぁ、知ってる! 結黄賊がクリーブルに、立川を荒らすよう命令しているっていう噂だろ?」
「あー、それ俺も聞いたことがある。 まぁ、まず結黄賊って何者なのかさっぱりだけど」
「立川を荒らすよう命令した集団だ。 きっと凶悪なチームだろう」
「うわー、結黄賊さいてー」
「マジ誰か結黄賊を立川から追い出してよ。 立川をこれ以上荒らされる前にさ」
「クリーブルがマジ可哀想。 結黄賊なんて、さっさとこの街から消えちまえばいいのに」

たくさんの集団を見つけ聞き込みをしたが――――彼らから返ってくる言葉は、ほとんど同じようなものだった。 クリアリーブル事件を起こしている者は誰か分からない。 
クリアリーブル事件は何が目的なのかも分からない。 クリアリーブルに立川を荒らすよう命令している結黄賊は最低だ。 結黄賊――――消えろ。

「どうして・・・俺たちの印象が、こんなにも悪くなっちまっているんだ」
一通り聞き込みを終え、駅から離れたところで静かにそう呟く夜月。 実際結黄賊は、クリアリーブルにそんなことを命令していない。 
一体彼らは結黄賊をどうしたいのだろうか。 何が目的なんだろうか。 どうして、立川をこんなに荒らすのだろうか。
聞き込みだけだと有力な情報はあまり得られず、ただ結黄賊は悪いチームだということしか耳に入ってこなかった。
そんな言葉らを聞き、3人のモチベーションは徐々に下がっていく。 だが今はへこたれている場合ではない。 もう既に夕日は沈みかかっている。 次はパトロールだ。
立川を見回って、被害者が出るのを防がなければならない。 そして今回の目的はもう一つ。 それは、クリアリーブルをできるだけ追い詰めること。
もし今日も運よく立川の人に手を出そうとしている者を見つけたら、ソイツを捕らえて白状させる。 これでもう――――クリアリーブルは終わりだ。
「行くぞお前ら。 この前行った、あの場所にな」
夕日は沈みかけているというのに、立川にいる人の多さは変わっていなかった。 “できれば早く家に帰ってほしい”と思いつつ、3人はあの場所へ向かう。

―――待っていろよ、クリアリーブル。 
―――俺はお前らを絶対に許さねぇ。 


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