樫井豹真(かしいひょうま)から刀根理子(とねりこ)への手紙
ここに、一枚の手紙がある。
ついさっき、街を去ろうとしているひとりの小柄な少年が、春の朝靄の中で、そんなに背丈の違わないひとりの少女に手渡したものである。
少年が俯き加減に走り去った後、数寄屋造りの古風な屋敷の娘らしい少女は、鋲を打った大きな門に恐る恐る振り向くや、人通りのないのを確かめながら、手紙の封を切ったのだった。
その幼さを残した白い指が開いた手紙には、1行だけ、こう書いてあった。
「あいつをどう思ってるか知らないが、いなくなったら一生、後悔する」