第60話 ギルマスの契約精霊
「ルゥさん、広場のくじについてはどこまで?」
【スバルちゃんが、男の子が引く青い石を当てちゃったけど持ち前のキラキラスマイルで誤魔化したってところかしらぁ? その後に、司会の子がフォローのつもりで言ったことが会場内を煽っちゃったこととかー?】
「……だ、だいたい、合ってます」
後ろでジェフが笑いを堪えてるのとか、今は無視だ。
あとで、無駄かもしれないけど、もう一度腹パンしてやる!
は、さておき説明説明。
【それで押し寄せてきた子達から逃げるのにぃ、エリーちゃんが短距離用の転移魔法を使ったとこね〜? キャロナちゃんについては心配しなくていいわよぉ? 自分の魔術で逃げてたからぁ】
「良かったです……」
少し心配だったから、無事がわかってホッと出来ました。
後ろからも息を吐くのが聞こえたから、エリーちゃんもやっぱり心配だったみたい。
【けどぉ、色々情報がごちゃまぜになってたわ〜】
「ごちゃまぜ、ですか?」
僕が聞くと、精霊さんが首を縦に強く動かした。
動きは、どうやらルゥさんと連動してるみたいです。
【堂々と君にアピール出来る。振られてもチャンスは絶対あるとかぁ、赤い糸が見えるかもしれない……って色々よぉ〜】
「僕は男です!」
【あたしに言われても〜】
と言いつつ、精霊さんがくすくす笑うって事は、ルゥさんも絶対笑ってるって事だ!
(けど、あのイベントって恒例行事みたいだから……変な噂が飛び交うのも無理はないかぁ)
お店にもだけど、さっきジェフが言ったように商業やルゥさんがいるギルドにも簡単には行けない。
「……僕とエリーちゃん、とりあえずルゥさんのところへ向かおうとしてたんですが」
【今は来ない方がいいわぁ……問い合わせ殺到なのよぉ】
「……やっぱり、ですか」
所属してる冒険者さんもだけど、マスターのルゥさんもうちのお得意様だから顔見知りと知られてて当然。
結構迷惑をかけてしまったので謝ると、僕のせいじゃないと精霊さんが頭を撫でてくれました。
【あたしやロイズがくじの事を言わなかったせいもあるわよぉ〜。君が参加するかどうかわからなかったからもあるけど】
そ・れ・に、と言葉を止めた。
【偶然とは言え、変装はナイスアイデアだわぁ〜。その恰好だけで君がスバルちゃんだって誰にも思われないわよぉ〜? 後ろにいるお友達が用意してくれたのぉ?】
「あ、はい。ジェフもいますが、彼が所属してるパーティーの女の子が提案してくれて」
【あら、閃光のジェフもー?】
どこどこ、と精霊さんの顔がきょろきょろするも、写真の文化がないこの世界じゃデータに顔写真は残されていない。精霊さんは僕から離れて男性陣の方に向かった。
【君は違う、けど。君もー】
ただ、身体的特徴は前にルゥさんが精霊さんに持って来させたのに記されてたのか、レイス君を見てから隣にいるジェフを見て手を軽く叩いた。
【君ねぇ〜? 元
「どもっす」
ここにいるのは精霊さんでも、しゃべってるのはギルドマスターさんだからジェフは軽く会釈しました。
【アシュレインギルドのマスターとしてお礼を言わせてちょうだいな。彼の秘密も守ってくれてるし、他のパーティーの子達もありがとぉー。変装の提案は誰かしら?】
「ん、私です」
二つ隣にいるアクアちゃんが挙手すれば、精霊さんは彼女に向かってふんわり笑みを浮かべた。
精霊さんだからか、実際にルゥさんがそう思ってるのかわかりにくいけど、あんな表情する事が出来るんだとちょっとびっくり。
それにつられてレイス君がぽややーんな顔になってるのには、ケイン君が足を強く踏んで止めてたけども。
【ありがとぉー。とっさに思いつくのは、メンバーに
「はい。今そこで、足踏まれてひーひー言ってるのが」
【あらあらぁ? この精霊は慈母の属性もあるから、惚れっぽい子にはイチコロだもの〜】
わざとではないと思いたいけど、基本的にルゥさんの契約精霊さんって御主人に似て美人揃いだから、レイス君はどれでもイチコロだもの。
僕自身もその対象だったけど、少し困ってただけだから別にショックとかはありません。
僕はノーマル思考ですから!
【けど、そうねぇー? お店の方は、広場で聞いてた男の子達が変に群がらないように親衛隊の子達が頑張って守ってるらしいけど。戻りにくい事に変わりはないしぃ?】
なんで、あの人達が守って……いや、逆に親衛隊だからこそ守ってくださってるのか?
例の襲撃事件以来、そう言う人達と遭遇はしてないけど、さっき通り過ぎた人達の会話から聞くに変態集団らしいから少し怖い。
【んー……そうねぇ。いっそ、祭りが終わるまで街中で遊んじゃえばいいわぁ!】
『………………は?』
不安がってた時に、拍子抜けする事を言われたら誰だって首を傾げます。
けど、精霊さん越しのルゥさんはまたくすくす笑い出した。
【せっかくの休日だしぃ? 男の子にも戻れたんだからもったいないわぁ】
「何がですか⁉︎」
【スバルちゃんがほとんど遊ばないからよぉー】
「はい?」
意味がわからないのでそう言えば、精霊さんが近づいてほっぺをぷにぷにし出した。
【ロイズやエリーちゃんから聞いてるわよぉ〜? 定休日も、結局は仕事熱心過ぎてあんまり息抜き出来てないそうだし? 休むのは少ぉし朝寝坊さんするくらいって。今日みたいに買い物するにも、パンの研究する用とか】
「ふ、普通じゃないですか?」
【は・た・ら・き・す・ぎっ】
最後にペシっとおでこを軽く弾かれて、少しため息を吐いた。
痛くはなかったけど、後ろを振り返ればエリーちゃんも似た表情でいました。
「たしかに、研究熱心だとは思ってたけど。息抜きもほとんど料理かパン生地いじってるばっかだし、あたしも気づかないのが悪かった」
【職人とあたし達冒険者は違うから無理ないわよぉ。で、ジェフや他の皆がいるのならいい機会じゃなぁい。いっぱい遊んできなさいな】
「け、けど、お店にはいつ帰れば……?」
【それは今思いついたわぁ。ジェフ達と同じギルドが管轄してる宿舎の部屋をあてがってあげるわよぉ。もしくは、今確認したけど。そちらのパーティーは男女それぞれ大部屋を借りてるからお邪魔するか】
「え?」
突然の提案がまたぽんぽん出てくるが、話題に上がったジェフ達は特に困っていませんでした。
「いいんじゃね? クラウスは?」
「ベッドはまだ二つあるから、一人加わったところで問題はない」
「レイスは万が一のことがあっちゃいけないから、簀巻きにするしー?」
「やらんくてええわ!」
「カツラ取ったら、普通の『店長さん』なのに?」
「そ、それは……」
【ふふ。とりあえず、良さげね〜? 一日分の宿泊費だけは男女共にタダにしておくわよぉ? それと、リーダーってジェフが今呼んだクラウスって子かしら?】
「はい、自分です」
クラウス君が挙手すれば、精霊さんが今度は彼の前に立った。
その表情から、慈愛に満ちた笑顔が急になくなって真剣な表情に。
何か他に大事な要件を伝えるのだろうか?
【これは、アシュレインギルドのマスターからの依頼とさせていただく。スバルとエリザベスが冒険者ギルドに来るまでの護送任務として受け取ってほしい】
「……友人、だからですか?」
【そこを見込んでもある。ギルドから派遣することも出来なくはないが、ごく一部にはジェフとスバルが交流してるとの情報が広がっている。それを撹乱させるためにも、報酬を受け取ってほしい】
「……承知しました」
クラウス君の言葉に、誰も反論はない。
レイス君があの時重症で運ばれなければ。
その後に、ジェフに性別がバレても仲良くならなければ。
ジェフや他のメンバーの皆さんに迷惑がかからなかっただろうに。
それなのに、クラウス君達は僕やエリーちゃんをすぐに受け入れてくれた。
思わず涙が出そうになったけど、我慢しました。
精霊さんが一瞬僕を見たけど、クラウス君がお辞儀から頭を上げるのを見てから表情を緩めていく。
【刻限については、閉会式後でいいわぁ。宿舎の受付の方には伝えておくし、任務と言っても普通に遊べばいいわよん】
ギルドマスターの口調を解いて、いつものルゥさんに戻っただけなのに酷く安心出来た。
【それと、多分ロイズもこれからの事を話したいだろうから。明日は一日あたし達に付き合ってくれるかしらぁ?】
「ろ、ロイズさん?」
【困ってたわよぉ? 『あれに参加するのはともかく、あれが当たるか⁉︎』って〜】
「……あははは」
それから、証拠に石を見せてくれないかと言われて取り出した。着替えの後にケイン君からポッケに入れておきなよと言われたので、ズボンの方にしまってたんです。
【たーしかに、例のくじの景品ね〜?】
「エリーちゃんも当たっちゃいました……」
【あらぁ!……そう。それは、幸運ねぇ?】
少し間を置いたのが気になったけど、すぐに切り替えてから僕とエリーちゃんに向けて手を差し出してきた。
【万が一に、確認させられるかもしれないから精霊に渡して? もちろん、後でちゃーんと返すわよん】
「「わかりました」」
実は、石が少し重かったので助かりました。
持ってたバックは、財布以外レイス君の
あとで遊ぶ途中に、どっちの性別でも使えそうなバックを買うのもいいかもしれない。
とりあえず、エリーちゃんもポッケから石を取り出して、一緒に渡しました。
【大切に預かるわぁ。あ、そうそう〜】
もう帰ろうとした手前に、精霊さんはルゥさんに似た特大級のにまにま笑顔を見せてきた。
【スバルちゃんが賭けまでやられてた社交ダンスぅ。せっかくだから、参加したらぁ?】
「絶対嫌です!」
【男の子だから、いいじゃなぁい?】
「僕、踊ったことないです!」
【ジェフ達が教えてくれるわよぉ〜】
それだけを言い残し、精霊さんは来た時と同じように風に溶け込んで消えてしまいました。
(ジェフやケイン君はともかく、相手もいないのに踊れるわけないじゃないか!)
せいぜいキャンプのフォークダンスがいいところの僕じゃ、付け焼き刃で習ったって笑われるだけだ。
と、言い訳じみながらも怒ってると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「……エリーと踊れるように仕込んでやろうか?」
「ジェフはシェリーさんと堂々と踊ればいいじゃん!」
やっぱりジェフだったので、さっき決めてた腹パンを試みるもすぐに避けられました。
代わりに、シェリーさんの事を出したから顔は驚いてたけど。
「なんで知って……あ、お前ら⁉︎」
「ついでに、俺達に笑われた事も言っといたよん!」
「ケイン⁉︎」
当然怒ったジェフは、ケイン君に立ち向かうも彼は身軽さを活かしてジェフのパンチを避けまくってました。