第58話 追跡途中
★・ネクター視点・★
俺はとにかく、いつも以上に屋根の上を跳んでいた。
(どこだよ、まったく⁉︎)
追跡用の呪印を、あのバカ冒険者の再逮捕以降に客に紛れてスバルちゃんの手にこっそりつけさせてもらった。
もちろん、ロイズさんやうちのギルマスからの許可を得ての行動だ。
今はそれを追跡するための触媒を通して追っている。
【───────追跡マークまで、残り三キロ。次の角は左です】
まだスバルちゃん達には遠い。
ほんとは瞬時に駆けつけてあげたかったが、あんなでっかいイベントだったのとエリーが
俺は今エリオと手分けして、二人の跡を追っていた。
恋みくじのせいで欲望剥き出しの連中から守るのはもちろんだが、これを機に影から身を守ってた護衛を打ち明かすきっかけとして。
「結局それが出来るかもわかんねーし?」
ロイズさんやギルマスに
極力接触する機会がないようにとの契約だったが、こればかりは動けない二人を思うと俺やエリオしか動けない。
【次、右です】
「っと、あっぶね」
休みの日にさせてあげて、スバルちゃんには思いっきりアシュレインの創立祭を楽しんでもらうはずが恋みくじに参加するのは迂闊だった。
その前座に近い大道演舞は、知り合いだったキャロナの出演もあって喜んでたのは遠視越しに見えたからまだ良かった。
が、キャロナと合流したんですぐに広場を去るわけがなく、そのまま恒例の恋みくじに参加。
仕組みを知らないスバルちゃんと、久しぶりに祭りに参加することでそれを忘れてたエリー。
「エリーはまだしも、スバルちゃんが引いちゃうとわなぁ……」
魔法の触媒を使ったくじだから、基本的に性別を間違えることはない。
だが、前例が
のに、司会が調子に乗って前例ん時の結果を言い出すもんだから、逆に男共を煽ってしまったのがムカつく!
「人の仕事これ以上増やすなよ!」
バカなのは、あん時の脱走犯だけでもこりごりだ!
そう叫びたいが、
次は一度降りないと無理な構造だったんで仕方なく地面に降りると、右の方から団体の会話が耳に届いた。
「まだ見つからないのか⁈」
「あの詠唱時間じゃ大した距離は飛べないだろうし、次までのチャージには時間がかかる」
「店や自宅には帰っていないようだ。くじの観客達も定期的に向かってるらしい」
「だが、我らが囲ってしまうと同じように思われるだけでなく、帰り辛いだろう」
てっきり観客の一部かと思えば、会話の内容から違うみたいだ。
追跡を一端やめて、隠蔽を高めて影から覗き見た。
服装は、冒険者と衛兵が混じってると見事にアンバランス。
衛兵の方に変態二人はいないし、冒険者にも変態兄貴はいないが多分間違いはねーはず。
(親衛隊メンバーか?)
あの三人以外は見た記憶があんまりないが、昨日兄貴らに伝えても下は動いてるわけか?
たしか、派閥がどーとか言ってたがこいつらにその傾向はなさそうだ。
「しかし!」
いきなり、衛兵の一人が声を上げたのに他の連中も会話を止めた。
「くじの結果がああなって、スバル嬢は災難だったかもしれないが」
まさか、『男』だと疑い出したか⁉︎
「我々にも千載一遇のチャンスが得られたではないだろうか⁉︎」
『異議なし!』
思わずこけそうになったが、ギリギリで堪えた。イレインに引き続くくらいバカな連中で良かったぜ……。
けど、散らばってる親衛隊全員が同じ意見かはわからないが、これを利用する手はねーよな?
「…………作り変えれ、創り還れ。我が声はイレイン=シャトーレイヴン」
詠唱と同時に、懐から蝶の一式を取り出して薄紫のを選ぶ。
伝言用のやつでも少し特別製だけど、出し惜しみしてる場合じゃないから。
(ちょい、ちょいちょいっと)
素早く折って、息を軽く吹きかける。
瞬時に、薄紫の光をまとった綺麗な蝶に早変わり。
指でまだ騒いでる奴らの方に飛ぶよう指示を出す。
「ん? 伝書蝶……の」
冒険者の奴が気づき、全員の注目が集まっていく。
だいたい真ん中辺りに行くのが見えたら、俺は残しといた紙の切れ端に向かって声を送る。
『驚かせてすみません皆さん、イレインです』
『た、隊長⁉︎』
『イレイン(さん)⁉︎』
声と口調を変えただけでバレねーって、経験の賜物でもめんどくさいもんは面倒。
が、スバルちゃんのためを思うのならその面倒も我慢のうちだ。
『今この蝶を媒介に伝言に回っています。よく聞いてください』
そう言っただけで、統率が取れたように無言になってしまう。
この能力を普段に活かせよって思うが、それを利用するのが今だから今回は利用することに。
『スバル嬢ならびにエリー嬢は、秘密裏にご自宅へ戻られるようです。
『承知しました!』
全員が俺と同じ
頭の悪い連中達が、あの親衛隊に所属出来ないわけがない。風の噂に聞いた程度だが、冒険者のC級昇格試験並みに面倒らしい。
『では、私は次の場所へ向かいますので』
紙切れの方を懐に戻して、蝶の方も俺のとこまで戻した。
掴んでから奴らの方をもう一度見ると、姿はどこにもなかった。
『チョロすぎね?』
まだイレインの声のままだったんで、慌てて解呪の詠唱を施して元に戻した。
(すぐバレるだろーが、まあ衛兵の方が店の周りをうろつく奴とか撒いてくれるかも?)
でないと、スバルちゃん達も帰りにくいことこの上ない。
対策云々は、多分ロイズさん達がなんとか頑張ってくれてるはずだが、俺は蝶とかを懐に戻してから向かいの屋根に登っていく。
「さーて、次はー?」
【おい、ネクター。聞こえるか?」
「エリオ?」
向こうが先にスバルちゃん達を見つけたのかと動くのを止めた。
「見つかったかー?」
【ああ。運がいいと言うか、ジェフが所属してるパーティーのメンバーと合流してたんだ】
「へー?」
くじ運が良いと言うか豪運と言うか。
タイミング良すぎるっしょと思うが、都合が良かった。
レイスはともかく、全員がスバルちゃんの性別を知ってても引かないあいつらなら問題はない。
【おまけに、レイスから変装道具を借りて『男装』してる】
「ぶっ…………くくく、
【正確には、カツラで髪色は変えてる】
「なーる?」
服の方は、レイスのじゃなく
【ジェフとシェリーに合流するのに、中央広場を目指してる。悪いが戻ってくれ】
「りょーかい。あ、さっき親衛隊の連中見つけて少し細工してきた」
【は?】
踵を返してからそう言えば、当然意味がわからないと返される。
詳しく説明したら、エリオから苦笑いしたような吐息が聞こえてきた。
【まあいい。イレインにはあとで面倒がかかるだろうが】
「あの兄貴を変態に変えたかもしんねー奴のことはしーらね!」
【わかったわかった】
そこで
(他の
今回はなんとか切り抜けたにしたって、スバルちゃんの性別が完全に公になるわけにはいかない。
受け止められる人間とそうじゃないのがいるのが世の中だからだ。