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第47話 親衛隊隊長との対面






 ★・エリオ視点・★






 ネクターと割り込もうとしたが、例の親衛隊隊長(・・・・・)の登場に降りるのをすぐさま中断した!

「まーじで、隠蔽技能(スキル)の無駄遣いするかあの兄貴」

 一応(・・)実の兄である彼に、ネクターはげっそりするかのように舌を出した。

(無理もない。高ランク冒険者として尊敬してた兄貴が、『変態化』してればいくらなんでも)

 俺とて、レクサスさんには小さい頃から世話になって来たし、結構尊敬もしていた。
 が、口調や態度の切り替えは衛兵隊長のようなのはなくても、スバル君を崇拝対象としてる変態集団の頂点に立ってると知ったら一晩で変わった。

(あの歳でAAランク保持者が、ロリコンならぬショタコン……)

 嗜好についての言葉は、おそらくスバル君がいた世界と同じ過去の時の渡航者によって浸透したものが多い。
 まさか、そんな一生使うかどうかと言う単語を、幼馴染みの兄に使う日が来ようとは。

「エリオー、兄貴ってロリコンでショタコン? それか、ゲイ? ホモ?」
「……最後のはほとんど同じだろう」

 にしても、ネクターがさっき言ったように彼は最近技能(スキル)を多用し過ぎだ。
 元々隠蔽は俺達隠密(アサシン)とかが取得しやすい技能(スキル)。ロイズさんやルゥさんのような鑑定眼は先天性が普通だが、隠蔽は経験などから取得が可能だ。
 今回のようにいきなり現れるのもだが、街中にいる時も溶け込むために使いまくっている。
 普通の隠蔽なら、同じ隠蔽持ちには気づかれるがレクサスさんのは高位タイプ。その下の未だに中位しか鍛えられてない俺達じゃ、感知が出来ないのだ。
 衛兵隊の隠密(アサシン)に向けられたように、技能(スキル)を解除した時の気配でしか捉えられない。

「そちらの隊長殿は、どうやら正常じゃないな?」

 とにかく、もう少し機会を伺って降りるかどうか決めることになりそうだ。
 今回は、少し別件で衛兵隊長達に用があるので。

「自業自得ですよ。スバル嬢の事になると突っ走るんで」
「嘆かわしい事だが、親衛隊で一番接してるのは俺の次にイレインだからな?」
『結構来てるが、手は出してねぇもんなぁ?』
『聞こえるぞ』

 自分達の隠蔽を最大限に使いつつも、小声で彼らを観察。
 レクサスさんは気づいてるかもしれないが、ラウルと言った隠密(アサシン)からの情報を聞きたいのかこちらをちらりとも見ない。

「突っ走るってなんだい⁉︎……と、レクサス隊長」
「やっと気づいたか……」
「無視されてると思いかけたが、反省から戻って来たのか?」
「……はい」

 イレインは、いつもの自信溢れた美貌を曇らせ、盛大と言っていいくらい白い肌を青くさせていた。建物の陰から透かしてもわかるのは苦笑いになるが、これで変態が落ち着くとは思えない。

「自分でも、冷静になれませんでした。あの高名な錬金師が……まさか、同じ錬金師でも若手のスバル嬢に目をつけるなど!」
「「目がマジだから落ち着け」」
「はっ⁉︎」

 俺も内心突っ込んだが、イレインは紳士対応が外れるとこうも子供っぽいのか。
 あまり関わる機会がなかったから、『輝きの衛兵隊』の隊長が素だと年相応か以下に見えるのは、なんだか笑いが込み上げてくる。

『反省してるんなら、マジで突っ走んなっ』
『ネクター……』

 こっちは素も関係なく子供っぽいが、本当にレクサスさんの弟か未だに疑いかける。

「しかし、ヴィンクス殿まで来たとなれば……親衛隊としてはたしかに警戒しかねるな。必要以上に『女性』と関わらないあの人が、単身で出向くのには」

 レクサスさんの言う事は、まだ俺達も調査中だ。
 店に来るまで魔法を使ったのか、本当にいきなり現れたからだ。ロイズさんが時々言っていた『食欲には抗わない』の言葉通り、ガラス窓から見えてたパン達には飛びつかんばかりに凝視してたが。

「……彼の店には、独自の強固結界を施されてる故に盗聴も出来ません。俺の遠視も、ことごとく跳ね返えされます」
「ラウルのランクでも不可能、か。俺の隠蔽と同等のランクなのにな。さすがは、S級越えと言うことか」
『マジ? 遠視予防以外に遮断もしてんの?』
『俺達には遠視がないからな?』

 望遠とも呼ばれる技能(スキル)だが、ランクが上がるごとに性能も当然変わってくる。レクサスさんの隠蔽と同等なら遮断はまず難しいのに、自分で魔術を組み込ませたのか?
 錬金師は魔法メインらしいが、アシュレインは魔術師の地なために学ぶ機会や技術は豊富。歳はロイズさんと同じ35でも神童と謳われた過去は侮れない。

「あれ以降、俺が巡回してる間も来てはいません」
「私も同じです」
「一昨日俺が行った時もなかった。今日あちらの店を少し覗いてきたが、営業すらしていなかったな。またどこかへ出かけてたか」
「まさか、スバル嬢のところに⁉︎」
「落ち着け。あれだけの人混みの中、あの人が行くわけがないっ」

 たしかに、俺達が警備してた間もヴィンクス氏の姿は一度もなかった。
 頭の出来などはともかく、基本出不精、不摂生なあの人は身なりを気にしなさ過ぎる。あの日も、多少服はマシにされてたが他はてんでという具合。
 ジェフがしょっ引こうとしたり、ロイズさんの奥様が叱りつけたりも当然な不潔感丸出しだった。
 そんな不審人物が行列に並べば、スバル君とは違う意味で目立つのに昨日も見なかった。

「ここで言い合っても拉致があかないだろう。彼の事はひとまず横に置いて、上に待たせてる者がいるぞ」
「「え?」」
「やーっぱ、気づいてやがったかっ!」

 ネクターがわざとらしく声を上げて先に飛び降りて行く。
 俺は、一呼吸置いて周囲に他の気配がない事を確認してから降りた。ネクターは堂々と兄の前に立って睨んでいたが、体格差があり過ぎるために小さな子供のようにしか見えなかった。

「マジで変態だなぁ、おい? 隠蔽使いまくって依頼(クエスト)こなしてもスバルちゃんの周辺探るって、どんなストーカーだ?」
「弟だからって、歯に衣着せないな? 親衛隊隊長として、AAランク冒険者として出来る限りの事をしてるだけだ」
「俺やエリオはギルマスからの依頼なんだからいいとして、あんたはAAの剣闘士(グラディエーター)なんだから仕事しろ!」
「きちんと、指南役はこなしてるぞ? 今のところ、金に不自由はない」
「威張んな⁉︎」
「落ち着けネクター」

 相手の手のひらで転がされるようにされるも、鬱憤は晴らしたかったようだが目的が違う。
 兄弟喧嘩を中断させ、俺から告げる事にした。

どこから(・・・・)、と言うのはやぶさかですか」
最初から(・・・・)だな? まあ、お前達に聞かれても特に問題ない。エリオ、今日はイレイン達に何か忠告をしに来たのだろう?」
「正確には、レクサスさんも含まれています」
「ほう?」

 ネクターの方は無理に抑えながら、俺は少し深呼吸をした。

「スバルさんに陛下御一行が随時接触され、招待状を直に手渡された。レクサスさんなら知っていたかもしれませんが、この意味でわかるでしょう?」

 最後に俺がわざと強調しても、彼は眉を少し寄せただけ。
 やはり、昨日も隠蔽を使ってどこからか陛下とのやりとりを覗いてたようだ。ラウルの方は他の仕事でいなかったのか、見るも無様な表情のイレイン同様に、かなり驚いていた。

「つまり、俺……もだが、親衛隊(・・・)がこれ以上活動的になり過ぎるなと?」
「会報発行や彼女の周辺警戒強化くらいは、ロイズさんからも許可を得ています。ただし、それ以上は場合によってはカルマを左右する。この意味、わからないあなた方ではないでしょう?」
「変態は取れねーけど」
「やめろネクター……」

 見た目は毛嫌いしてるが、相当拗ねてる証拠だ。
 レクサスさんもわかってるから苦笑いしかしていない。しかし、俺に向き合う時はネクターと同じ赤銅色の瞳を真剣に向けてきた。

「忠告は痛み入る。が、それならより一層親衛隊(・・・)としては喜ばしい事だ。彼女も実力もだが、美しさなども認められたと言う事だ!」

 前言撤回したい。
 ネクターが言うように、この人も変態に彩られるとただの阿呆となるのか。
 きっと顔にも出てるだろうが、レクサスさんは気にせずに俺や隣で歯ぎしりしてるネクターの肩を強く叩いてきた。

「結構結構! が、親衛隊にも過激派に部類する輩もいなくはない。それのあぶり出しや選別などをするのには、少々強めに言っておこう」
「「そーですか」」

 派閥がどうとかは俺達には関係がないので、発言に気持ちがこもらないのも無理はない。
 とりあえず、この人には必要以上に関わるのは止そうと心に決めた。

「……その関係で、王家直属の暗部部隊も動いています。だから、必要以上に彼女の周辺を洗おうとしない方がいいですよ? ヴィンクス氏のことはともかく、この前のような不当な輩達についても」

 俺達以上に仕事が出来て当然な彼らには、足手まといもだが邪魔なだけだ。
 それを最後の言葉にして、俺はネクターと目配せしてから退散した。

「ど、どうお守りすればいいんだぁあ⁉︎」

 壁を蹴る際に、イレインの声が聞こえたが、そんなことは知らんと言いたい。

「陛下方がお帰りになられたらー、俺達に仕事が戻ってくるだけじゃん?」

 ネクターの言う通りだ。
 そのお陰で、今は少しの間だけでもスバル君達から目を離せられるのだ。実際、暗部部隊から合図のような人影を見せてくれたし、彼らもスバル君の事情など調べ上げてるだろうから安心出来た。

(先代、当代共に、良き人材しか集めてないと評判が高いし)

 逆に無能なのは、地獄を見るくらい扱き上げてから使えるようにするとの噂がある程だ。
 帰るのも距離はそう遠くないから、いつもの位置に着くと、行列は少し減ったがまだまだ途切れてなかった。

「繁盛繁盛っ。俺もあれ食いたい……」
「たしか、疲労回復だったな?」

 スバル君が意識して補正を調整したことで可能になった、ドーナツとラスク。
 ずっと調理して疲れてるのは本人だろうに、さすがは職人だからか笑顔が一切崩れていない。
 明日はロイズさんから休みを言い渡されたそうだから、あとで変装して買いにくかとネクターに言えば飛び上がらんくらい喜んだ。

(気づいてるかどうかはわからないが、レクサスさんはどちらにしても庇護するか……)

 彼に憧れた時期が、今は懐かしい。
 歳を重ね過ぎずとも、人は変わるのだなと実感した日だった。

「あ⁉︎」
「どうした?」

 いきなりネクターが声を上げるので、少し驚いた。

「……兄貴らに、いちおージェフが心配ねぇよって言うの、忘れてた」
「あー……」

 イレインのところに向かう途中、少しだけ覗いたが彼についてはある意味安心出来た。
 念願だったパーティーの女性と結ばれた事だ。

「ま、今のイレインじゃ冷静じぇねぇし? ジェフ警戒しまくってたから、親衛隊の間で広まるだけですまねーだろーが」
「だろうな。告げなくて良かったかもしれない」

 もしくは、合流する前のレクサスさんが隠蔽状態で覗き見してた可能性もある。
 今考え過ぎても良くないので、行列が落ち着くまで俺達は仕事に戻ることにした。

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