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うそつきピエロ㉓




この時未来は、何も言葉を発さずに二人のやり取りを黙って見ていた。 あんな言葉、自分では言えやしない。 結人だからこそ言えたことだ。 
もしかしたら、優でもコウの心を動かすことができたのかもしれないが。 
―――いや、そんなことより・・・。
「いやー、これで一件落着だねー」

「・・・コウの泣いている姿、初めて見た」

「え?」
コウが涙を流す姿があまりにも衝撃的過ぎて、未来は真宮の発言をスルーし自分の気持ちを素直に口に出してしまった。
「・・・コウは泣くの、初めてなのか?」
真宮はその言葉を聞いて、そう尋ねてくる。 
―――・・・そっか、真宮は中学校の頃一緒じゃなかったもんな。
「まぁ・・・。 俺の見ている限りではな。 もしかしたら、優ならコウの泣いている姿を・・・過去に見たことがあるかもだけど」
「あぁ、優か・・・。 まぁ、よかったよな。 コウの心を縛っていた何かが、ユイによって解き放たれたんだからさ」
「そうだな」

―――・・・何だ、コウでもちゃんと涙を流すことができるじゃないか。 
―――喧嘩ではいつも強くて、俺たちを後ろから見守ってくれている立場だったけど・・・本当は今まで、苦しかったんだな。
―――まぁ、そんなコウの心に気付けなかった俺も、悪いけど・・・。

「コウ! ユイ!」
「ん?」
未来は声がした方へ振り返る。 そこにいたのは、北野だった。 彼が何故か、未来たちの後ろから走ってこちらへ向かってきている。
「北野? そんなに急いでどうしたんだよ」
「北野は俺が呼んだんだよ」
そう言ったのは真宮だ。 
―――そうか、ユイの手当てがまだだったか。
「北野・・・。 わざわざ来てくれて、さんきゅーな」
「いいよ。 ユイ、手を見せて? あ、コウは怪我とかない?」
北野は結人のもとへ駆け寄り、すぐに彼の手当てをし始めた。 未来もそんな3人に近付き、北野に尋ねる。
「北野、ユイは病院とかへ行かなくても大丈夫なのか?」
「まぁ・・・。 一応、出血だけだからね。 身体の方の傷もそんなに深くはないし、風呂に入る時少し滲みるくらいかな。 でもちゃんと傷の消毒はするから。
 ・・・っと、左手の出血はこれで一応抑えられたけど・・・血は補給しないとね。 だから、今日は血になる食べ物とか・・・」
―――んー、食べ物か・・・。 
そこで未来はあることを思い付いた。 これは我ながらにいい考えだと思う。
「ユイ、俺いいことを思い付いたぜ!」
「ん? いいこと?」
「今日さ、コウをユイん家に泊まらせてやってよ」
「まぁ、俺はそれでもいいけど」
「いや、でもそれは・・・」
そう拒んだのは、当然コウだ。 そんな彼を見て、未来は優しく言葉を紡ぎ出す。
「・・・コウは、ユイん家に一度も泊まったことがねぇんだろ? 折角のチャンスだし、泊まってこいよ。 そんで、ユイにスタミナ料理でも作ってやれ」
そう――――コウは一度も、結人の家に泊まったことがない。 みんなの身に何かしらの事件が起きて仲間が危険な状態になったら、結黄賊の誰かの家に必ず泊めていたのだが――――
コウはあんな性格だ。 自分が苦しい目に遭っても誰にも相談しないため、誰かの家になんて泊まったことがなかった。 
当然、優の家には事件とは関係なしに、泊まったことがあるのだが。  
―――いい機会だろ、ユイの家に泊まらせるの。
「・・・コウ、俺ん家来るか? 俺は、大歓迎だぜ」
結人はそう言うが、コウはまだ拒んでいるようだ。 
―――・・・あ! 
―――もう一ついいことを思い付いた。 
結人の言葉に続けて、未来も笑顔で物を口にする。

「そうだよ、行ってこいよコウ! だから今日、藍梨さんは俺ん家で預かる!」

「は?」
真宮が隣で変な目で見てくるが、そんなことは気にしない。 

―――コウはユイの家に泊まって、その間藍梨さんを俺ん家に泊めさせる。 
―――もう俺幸せじゃん! 
―――コウも幸せじゃん! 
―――もう最高! 

そして――――顔がにやけて胸がドキドキワクワクしている未来に対し、結人は冷静さを保ったまま冷たく言い放った。
「あー、悪い。 藍梨なら、とっくに夜月に任せているから」
「ん・・・。 はッ!? おいおい、今更それはないだろ!」
「だーれが未来なんかに任せるかッ! 未来に藍梨を任せられるのは、まだまだ先だな」
そう言って、彼はいたずらっぽく笑う。

―――・・・ちッ。
―――やっぱ、ユイにも敵わねぇな。

そんな笑顔を見せてきた結人に、未来は苦笑いをしながら軽く溜め息をついた。 そして――――最終的にコウは、今日結人の家に泊まることになった。


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