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第7話  初めての戦闘、新しいスキル

「ぐげぇ!」

 ありったけの力を込めてゴブリンを斬る。その一撃が致命傷になり、間抜けな断末魔をあげたゴブリンは黒い霧となって消滅した。

「な、なんだぁ?」
「あっ! に、人間のガキだ!」
「ちくしょう! よくも仲間を!」
「こいつ――げあっ!?」

 間髪入れず、もう1匹を斬り捨てる。俺が言うのもなんだけど、喋り過ぎだ。さらに、

「べあっ!?」

これで残るは3匹だ。

「な、なんだあの子どもは!?」
「あっという間にゴブリンを2匹仕留めたぞ!」
「もしや……先日報告のあった、桁外れのステータスを持つという子か!?」

 あ、もうその話伝わってるんですね。

「このガキ! 調子に乗るなよ!」
「わっ!」
 
 オークの一撃が体をかすめる。危ねぇ。もうちょっと反応が遅れていたら真っ二つになっていたぞ。

「うん?」

 俺は違和感を覚えた。
 オークといえば、その体は緑だったり茶色だったり、地味な色使いが普通なんだけど、このオークは全身燃えるような赤色だった。赤オーク? これがこの世界の常識なのか?

 ともかく、さすがに、実戦――生きたモンスターを相手に戦うっていうのは訓練と違う。当たり前だけど、相手の行動を注意深く観察して動かなければならない。ステータス的にはこっちが圧倒し ているんだから、ヘマをしなけりゃ簡単に倒せる。
 と、思っていたが、

「ぬりゃっ!」
「うおっと!」

どうもこのオークさんはそう簡単にいかない相手のようだ。力任せに棍棒を振り回し、俺を間合いへ入れようとしない。その間に、残ったゴブリンがジリジリと俺との距離を詰めにかかる。
「くそっ! すばしっこいガキだ!」
「それで翻弄しないと勝てそうにないしね」
「けっ! 生意気な――ん?」

 オークの動きが突如止まった。

「おいおまえ……俺様の言葉がわかるのか?」
「うん」
「いや『うん』って……モンスターの言葉が理解できる人間なんて聞いたことがねぇ。――さては、おまえ亜人とのハーフか?」

 なんか、俺の中にあるイメージ上のオークとはだいぶ印象が異なるな。なんていうか、もっとバカっぽくて、理屈とかより本能を優先させる感じだったけど、こうして言葉を交わしてみると意外と知的なヤツだとわかった。

「どうなんだ!? おまえの片親はエルフか!? それともドワーフか!?」
「普通の人間だよ」
「ば、バカな……そんなはずが……」
「まあ、そういうスキルだし」

 身も蓋もないけどそれが事実だ。
 オークは言葉を失っている。ゴブリンも同様に、「まさか……」と呟いたっきり動きを見せていない。そんな衝撃だったのか? まあ、今まで人間と喋ったことなんてないからあんだけ驚いているんだろうけど。
 神様からもらった言語系スキルにより、俺は大体の種族と会話が可能になっている――ただそれだけのことなのに。あ、ついでにステータス値が異常に高い。
 
 スキルを告白したのはいいが、だからといって現状が好転したわけではない。今は混乱状態に陥っている2匹だが、しばらくすると我に返って戦闘を再開するだろう。――やるなら、今しかない。
 
「ぎぎゃあっ!?」

 踏み込もうとしたら、ゴブリンの断末魔が後方から轟いた。
 護衛の兵がゴブリンを倒した――と、思ったら、

「君にばかり良い格好はさせないよ」

 子どもだった。子どもといっても、俺よりは年上っぽい。10歳か11歳……小学校の高学年くらいってとこか。銀色の髪をなびかせ、青い瞳でゴブリンを見下す。端正な顔立ちは勝利の余韻で緩んでいた。どことなく、レビング伯爵が乗っていた馬車にいたあの女の子と似ている気がする。

この世界の服飾事情は詳しくないけれど、絶対高価な逸品だと素人目でもわかる服をゴブリンの返り血で緑色に染め上げた少年――その勇姿を目の当たりにし、

「「「「「レナード様!?!?」」」」」

 絶叫する大人たち。
 どうも貴族の人らしい。

「ば、馬車にお戻りください! まだモンスターがいるんですよ!?」
「民にばかり剣を握らせてなるものか! それではレビング家の名折れだ!」

 勇ましいというか向こう見ずというか。
 でも、奇襲とはいえ、一撃でゴブリンを葬り去ったんだから、年齢以上の実力は備わっているのだろう。ただ、緊張の糸が切れたのか、体が震え出し、その場にペタンとしゃがみ込んでしまった。

「お、おい!」

 声をかけようとしたら、背後に気配を感じた。咄嗟に横っ飛びすると、さっきまで俺のいた場所に大きな棍棒が打ちつけられた。オークだ。

「このっ!」

 すぐに体勢を立て直して斬りかかろうとするが、オークは俺を避けるように距離を取った。どうしたんだ? ――答えはすぐにわかった。

「女の悲鳴を聞きたかったが、命令じゃどっちの子どもでも問題ないんだ!」

 命令?
 あいつ、誰かに命令されて馬車を襲ったのか?

「レナード様を守れ!」
「おおう!」

 負傷した兵たちが気力を振り絞ってオークに飛びかかる。だが、パワーで勝るオークを誰も止めることができない。

「どけ! 雑魚ども!」

 兵たちを蹴散らすオーク。これって、兵が弱いのか? それとも、オークが強過ぎるのか? まったく相手になってないぞ。どちらにせよ、このままじゃ危険だ。

「逃げろ! 逃げるんだ!」
 
 俺の叫びは、しかしその銀髪の少年に届かない。
 恐怖と疲労でもうわけがわからなくなっているのだろう。

 無意識のうちに俺は駆け出した。オークはその巨体ゆえ足は速くない。あいつが銀髪少年にたどり着く前に追いつける。――ほらな。

「ガキが! まだ邪魔をするか!」
「見殺しになんてできないね」
「ほざけ!」

 ボクサーのテレフォンパンチのような大袈裟なモーションで、オークは棍棒を力いっぱい振り下ろす。威力は申し分ないのだろうけど、そんな大きな動作じゃよけてくれって言っているも同然だ。

 ヒラリとかわし、俺はオークの腕を狙う。さすがに小柄なゴブリンみたく一刀両断は無理なので、部位破壊を選択した。
 まずは右腕だ。

「ぐぎゃあぁあああぁああぁっ!!!」

 激痛による大絶叫が木々の葉を揺らす。弧を描いて飛んでいくオークの右腕に気を取られることなく、俺は振り向きざまに左手を切り落とす。再びオークの叫び声が響いた。そして、

「今だ! 全員で取り押さえろ!」

 恐らく、その場にいた中でもっとも位の高いと思われる初老の男性の合図で、兵たちが最後の力を振り絞って一斉に飛びかかった。先ほどとは違い、両腕を失ったオークは成す術なく攻撃を浴び続け、とうとうその巨体を地面に横たえた。

「よかった……」 

 ふぅーと大きく息を吐いて額の汗を拭う。と、


《スキル【言霊吸収】のフラグ②が解除されました》
《スキル【言霊吸収】のレベルが1上がりました》
《スキル【言霊吸収】のフラグ解放が実施されました。スキル【詠唱吸収(風)】が追加されます》


 実に4年振りのフラグ解放。
 おまけに新しいスキルを取得した。
【詠唱吸収(風)】ってあるけど……一体どんなスキルなんだ? 詳細をチェックしようとステータスを呼び出そうとしたら、

「ありがとう。君のおかげで助かったよ」

 爽やかな笑顔のイケメン少年が駆け寄ってきてお礼を言う。一点の曇りもない笑顔ってこういうのを言うんだな。

「無事で何よりです」
「君は強いんだな。王都から護衛をしてくれた兵士たちもけして弱くはないのに……あのオークが異常なんだ。赤色をしたオークなんて初めて見たよ」

 あ、やっぱ赤オークは変なんだ。

「でも、そのオークを圧倒した君は本当に凄いよ! よかったら是非名前を教えてはくれないか?」

 興奮気味の銀髪少年は俺の両手をがっしり握って放そうとしない。なんだろう……あんまり貴族っぽい感じのしない子だな。

「お、俺はフォルト・ガードナーって言います」
「フォルトか。あ、僕はレビング家のレナード・レビングだ。よろしく」
「よ、よろしく」

 レビング家だって?
 じゃあ、王都で会ったレビング伯爵のご子息?
 なら、あの馬車に乗っていた子の……

「サーシャ! おまえもこっちへ来てフォルトにお礼をしろ」

 馬車に向かってレナードが呼びかけると、静かに扉が開いて中からひとりの女の子がおずおずと顔を出す。その子は、

「あの時の……」

 レビング伯爵の馬車に乗っていた銀髪碧眼の少女だった。

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