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短編

 ぶーん。
 ぶーーーん。
 ぶーーーーーーん。

 パチン。
 僕は殺した。

 ぶーん。
 ぶーーーん。
 ぶーーーーーーん。

 ぱっちん。
 僕は殺す。
 一匹の蚊を。

「ぶーん」と無く虫だから「蚊」と書くと言った人がいた。
 嘘かホントかはわからない。
 この言葉のあとに「諸説あります」と言葉が繋がれる。
 でも、そんな豆知識は必要ない。

 ゴールデンウィークが終わろうとしている今……
 やつがやってくる。

「ねぇ……」

 彼女が目を覚ます。
 僕は無視をする。

「ねぇってば……」

 僕は寝たふりをする。

「あのね私のお腹の中に貴方の血が流れた子がいるの」

 僕は無視をする。

「聞いているの?」

 聞こえない。

「もういいよ」

 彼女が口をとがらせているのは目を閉じていてもわかる。

 僕は決行することにする。
 そう彼女を殺すんだ。
 僕の血が流れているって?
 他の男の血が、流れているんだろう?
 お前が浮気していること知っているんだ。

 だから密室のこの部屋。
 君を殺し僕も死ぬ。

 だってそうだろう?
 他の男の血が流れている子を育てるとか僕には無理。
 僕には愛せる自信がない。
 お前ですら愛していないのだから……

 僕は静かに息を整える。

「しよっか?」

 彼女がそういって僕の身体を抱きしめる。
 あといっかい。
 あといっかいだけ。
 いいよね?

 僕は彼女の口唇にキスをする。
 熱い熱いキスを……

 そして、僕は彼女を楽しんだ。

 終わったら殺そう。

 そう思った。
 そして終わる。

「さようなら」

 僕がそういうより先に彼女がいった。
 口唇がしびれる。
 手がしびれる。
 目がかすむ。

 そして、彼女の声が聞える。

「君に生命保険かけてたんだ。
 長かったなー」

「なにを言っているの……?」

「貴方はここで自殺するの」

 なにを言っているんだろう。
 そして言葉が続けられる。

「お金をいっぱいもらって、お腹の子どもと貴方の弟の子どもと3人仲良く暮らすの。
 だから、さようなら」

 僕の意識が遠くなる。

「あ……」

 僕は全て悟った。
 そうか、僕は殺されるんだ。
 そうか、僕が餌だったんだ。

「さよなら、バイバイ」

 彼女の声と共に僕は死んだ。
 服毒自殺とみなされ……
 彼女に抱きしめられながら死んだ。

 虫が一匹。
 僕の身体に止まる。

 ぶーん。
 ぶーーーん。
 ぶーーーーーーん。

 ぱっちん。
 彼女は殺した。
 一匹の蚊を……

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