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第30話 話し合い

 皆でリビングに向かっても、ユフィ君はジェフさんに抱っこをおねだりしてべったり。
 そんな珍しい光景に、ロイズさんも目を丸くしちゃいました。

「ユフィ、ジェフが気に入ったのか?」
「うん」

 即答するユフィ君は、ジェフさんの襟元をぎゅっと握る。一応軽装備でも皮の鎧をつけてるから、握れる箇所がそこしかないみたい。
 だけど、お母さんのカミールさん以外甘えたなユフィ君はたしかに見たことがなかった。
 リビングについて席に着くときも膝抱っこを希望したが、カミールさんやジュディちゃんにマナーは大切と言われたので渋々離れていく。

「悪いな、ジェフ」
「いいっすよ。子供嫌いじゃないんで」
「ほんとごめんなさいね。さあ、お昼ご飯たくさん作ったのよ。召し上がれ?」
「わぁ!」
「肉でか⁉︎」

 カミールさんが持ってきてくれたのは、大きな肉の塊とひと口サイズのジャガイモ達。
 グリルなんだろうけど、少し離れたとこまで焼いた肉のいい匂いが届く。一人じゃ大変だったのを、すぐにロイズさんが手伝ってたので僕とエリーちゃんは座って待ちます。
 今日はお客さんだからいいと言われたのもありますが。

「ジェフ君も遠慮なく食べてね?」
「あざっす!」

 切り分けられたお肉とポテト、他にも僕のとこのバタールやサラダなどが置かれたらいただくことに。
 お肉はバッファローのお肉らしいけど、柔らかくてジューシー。ソースはワインベースなのか、少し甘いけどポテトの塩味が濃いからちょうどいい。
 ジェフさんもだけど、僕も夢中になって食べていく。

「やっぱり、スバルちゃんも男の子ねぇ?」
「ジェフには負けるが、すごい食いっぷりだな?」
「う゛!」

 ついつい食べ過ぎてたのに、今になって恥ずかしくなってきた。
 だけど、誰もからかう様子はなくて、子供達は『お兄ちゃんすごい』とか褒めてくれました。
 少し大げさなくらいに飲み込んでからエリーちゃんを見れば、何故か苦笑い。

「家じゃ結構そうだしね?」
「ご、ごめん……」
「何言ってんだ。ここにいる全員が男だって知ってんだし、気が抜けたとこで何も言わねーよ」

 と言いながら、ロイズさんは大きな肉の塊をばくっとひと口。
 こう言う豪快な食べ方って逆隣のジェフさんも似てるけど、まさに『(おとこ)』って感じだ。ちょっと憧れるが、自分の好きな食べ方でいいよねっと今回は気にしないでおく。
 全員たらふく食べ終えてから、食器だけ運ぶのはお手伝いして食後の温かい紅茶をいただく。ユフィ君はジュースを飲んでからジェフさんのお膝に行きたがってたが、先にロイズさんが止めた。

「ユフィ、今日こいつらは遊びに来たわけじゃねーんだ。母さん達と一緒にいろ」
「……お仕事?」
「仕事じゃないが、大事な話だ」
「…………はーい」

 ものすごくがっかりしちゃったけど、ユフィ君は力なく頷いてからカミールさんのところに行ってしまった。
 完全に三人がいなくなってから、ロイズさんは紅茶を一気に飲んで切り出してくる。

「さて、改めて聞くが。ジェフ、お前はスバルの性別を知ってもただダチになりたいだけか?」
「そうっスよ?」

 ジェフさんも紅茶を一気飲みしてから答える。
 口調と声音から嘘ではなさそうだけど、やっぱり真意がわからない。
 彼の来歴の中にあった、『自分の力量以外で認めた相手でなければ、心を開かない』と言うのがどうしても引っかかる。

「こっちは、冒険者側のギルマスから大体の情報は聞いてる。それでも、同じ答えか?」
「疑われて当然っスけど、変わったんスよ。俺も色々」
「ほぉ?」

 カミールさんが出してくれたラスクを、お互い一つずつ口に入れてからジェフさんは語り出した。

「スバルがどこまで聞いてるか知らねーが、俺は格闘家(グラップラー)でも今の槍使い(ランサー)でも強い。ランクはともかく強かった……だから、過信もしたし唆されもした」
「そのせいで、条件のいい勧誘も蹴ってたの?」
「ああ。正直荒れてたし、クラウス達に出会うまでは言いにくいこともしてきた」

 僕が聞けば、すぐに返事をくれた。
 過去を全部ではなくても話してくれるらしい。ロイズさんやエリーちゃんも腕を組みながら黙ってしまった。

「スバルには、最初は興味本位だったさ。けど、俺の事情をロイズさん達から聞いてるのに態度変えてこなかっただろ? ありゃ嬉しかったもんさ」
「……特別なことしてるつもりないけど」
「その飾らないとこだって。なかなかないぜ?」

 茶化す気のない苦笑いだった。
 僕には経験が少ないけど、この世界じゃ紛争や格差がある国に匹敵するくらい汚れた事情が多い。
 エリーちゃんが昔あったように、ジェフさんも辛い事があったんだろう。教えて欲しいとは思わないし、話してくれるまで聞かないでおく。
 まだ、この人と出会ったばかりだから。

「……僕は、僕に出来ることしかしないから。話してくれることなら聞くよ。けど、ジェフさんには無理して欲しくない」
「……あんがと」

 正直に言うと、ジェフさんはまた苦笑いしながらお礼を言ってくれた。
 だけど、すぐに少しふてくされた表情になる。

「つか、言葉遣いはともかく。なんで、呼び方だけ『さん付け』なんだよ? 言いにくくね?」
「あ、つい……」

 女の子はともかく同世代の男の子だと、慣れないうちは君呼びか名字にさん付けが多かった。
 最初に会った時は女の子としてだったから、そのまま定着しちゃってました。

「タメなら、呼び捨てでいいだろ? 俺だけなのって不公平じゃね?」
「き、気にしてないけど?」
「俺は気にする! ぐへ⁉︎」
「そこは後にしろよお前ら」

 言い合いになる直前に、ロイズさんが片手チョップをジェフさんの脳天に叩きつけた。

「今回は駄弁らせんのに呼んだんじゃない」
「……すいませんっス」
「まず、バレないとこちらは思ってたスバルの性別に、仕草だけでどうしてわかった?」
「ああ、そこっスか? 簡単っスよ、歩幅とかが女らしくなかったんで」
「「「歩幅??」」」
格闘家(グラップラー)の師匠に教わったことっスけど​──」

 ジェフさんの説明によると、歩幅と言っても、どちらかと言えば『歩法』の区別らしい。
 女性は女性、男性は男性。骨格の違いによって、歩き方が違い、癖も変装が下手な人にはわかりやすいとか。
 だけど、見分けられるのは格闘家や歩法を重要視してる職業(ジョブ)の人くらいだって。

「その修行の成果もあってか?」
「まあ、普通はバレないっスよ? 歩法についちゃ俺くらい詳しいはずの、うちの盗賊(シーフ)が気づかねぇし」

 喜んでいいかどうか、本当に複雑。
 男の人に惚れられて、いい経験なんてなかったもの。

「それならいい。が、わかっててもあんま広めないでくれ。スバルのためだ」
「あー……うちのリーダーだけには訳あって話ちまったンスよ」
「なに?」
「言いふらす気はあいつもないっス。俺が必要以上に女と駄弁る機会作らないのと、レイス……さっき言った盗賊(シーフ)が勘違いしたままスバルに惚れてるんで、敵対する誤解を解くのに」
「……リーダーとしてなら、揉め事を回避するのに動く、か」

 一瞬僕も焦った。
 でも、ちゃんと理由を話してくれたから、少しずつ理解は出来た。レイスさんのことはともかく、パーティーの信頼関係を崩しかねない事態はクラウスさんとしては避けたい。
 リーダーだから当然だ。

「……レイスには、言うの?」

 ずっと黙ってたエリーちゃんが、挨拶以外で今日初めてジェフさんに質問した。
 ロイズさんとジェフさんも少し目を丸くするが、ジェフさんは腕を組んでから首をひねり出す。

「クラウスとも話し合ったが、とりあえず傷の完治とあいつの気持ちがどのくらいかによるな?」
「最初に、クラウスが言ってた『手が早い』?」
「そう、それ。節操なしっつーか、スバルみたいなのは好みのドンピシャらしいぜ?」

 また思うけど、複雑でしょうがない!

「惚れられても、僕男なんだけど……」
「だったら、おっ前自分で言うか?」
「……レイスさん、落ち込むだけですむかなぁ」
「今回は結構乗り気だし、俺もそんな付き合い長くねぇからわかんね」
「えー……手伝ってよぉ」
「俺のこと呼び捨てにしてくれたらな?」
「……わかったよ、ジェフ(・・・)

 背に腹はかえられないから、条件を飲むしかない。
 とりあえず、ジェフへの不安とかは解決したので良かった。

「んじゃ、もう一件はジェフっつーかお前のパーティーについてだ。冒険者ギルドのマスターから、Cランクへの昇格試験内容を預かってんだ」

 ロイズさんが取り出したのは、少し分厚い封筒。
 ジェフは、少し気を引き締めて受け取った。

「シェリーのっスか?」
「お前は今Cだから知ってるだろうが、ソロとパーティー所属じゃ、昇格試験が変わってくる。普通はギルド職員が渡す事だが、ギルマスに今日の事を話したら頼むと言われてな?」
「これが『頼み事』っスか?」
「半分はな? 残りは、さっきも言ったがスバルの事だ。それについては、心配しないでよさそうだが」
「りょーかいっス」

 と言うことで、残りはレイスさんへの対策を打ち合わせるのに時間を費やしました。

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