第31話 癒される時間が
◆◇◆
「……ジェフお兄ちゃん、肩車お願いっ」
「あいよ」
打ち合わせが終わってからは、ユフィ君が我慢してた分いっぱい遊んであげることに。
ユフィ君はよっぽどジェフの肩車が気に入ったみたいで、来てすぐに彼の足に抱きついた。大人しいユフィ君がご両親以外に甘えるのってそんなにないから、ロイズさんはまた目を丸くした。
「姉貴んとこのは、まだ体がでかくないしな。お前は別だが、冒険者の男には結構憧れてたせいもあるか」
「……さりげなく、僕がひょろっこいこと強調してません?」
「気にするな」
「スバルお兄ちゃんも、パパもはーやーくー」
ジュディちゃんがエリーちゃんを引っ張りながらやってきたので、僕とロイズさんも輪に加わることになった。
10歳にもなってない子供の遊びは異世界も関係なく、かくれんぼに鬼ごっことかが多い。動くのに疲れたら、カミールさんに冷たいお茶とお菓子をいただいてから折り紙。
紙自体はサファナ王国の特産だけど、折り紙の技法なんかは白鳳国みたいな和風文化の伝統みたい。
伝わってるのは、伝書蝶の魔術に役立つからだとか。
「あ゛ーっ、うまくいかね!」
「ジェフお兄ちゃんぶっきよー!」
「うっせ、ジュディ!」
意外に不器用が発覚したジェフは、何枚も折り紙をダメにしていた。隣でからかうジュディちゃんの髪をわしゃわしゃする手つきは、本気じゃないから安心して見れる。
「……スバルお兄ちゃん、器用」
「包装は毎日仕事でやってるしねー?」
デパートの人達に比べたら大したことはないが、子供の頃から折り紙にも親しんでいた。花飾りだったり鳥の形とかはお茶の子さいさい。
「うっわ、そんなぽんぽん作れねぇぞ⁉︎」
「適材適所ってやつだよ。僕、冒険者とかは無理だし」
「の割には、エリーも出来てんじゃん」
「……あたしは、スバルに習ったから」
たしかに、最初の頃は裁縫と同じくらいに包装も満足に出来なかった。
それでも、慣れるのに頑張っていけば技術は身につき、この間休日に作ったポップ用の飾りも綺麗に出来るように。
今も、僕が作ったようなアヤメやチューリップも出来ている。子供達は、まだ手が小さいから少しへしゃげてた。
「もう少ししたらお夕飯の支度しちゃうんだけど、スバルちゃん達もいかが?」
「あ、僕達明日の仕込みがあるんで」
「俺も、飯前には帰るって言っちまったんで」
と言う訳で、お片づけをしてからお開きに。
ユフィ君達はジェフとお祭りを回りたいと言ったが、ジェフ達はこの街に来るのが初めてなので、パーティー達と回りたいからって断っていた。
代わりに、機会があればまた遊んでやるからと指切りをして約束。
それから、エリーちゃんと三人で途中まで一緒に歩くことになった。
「あ、そうだ。これ、今日の売れ残りだけど」
ずっと渡すのを忘れてた紙袋をジェフに差し出す。
彼は嬉しそうに受け取ってから封を開けると、匂いに気づいたのか苦笑いした。
「シェリー喜ぶな」
「菓子パンが売れるのは、朝より午後だから無理ないんだー」
「なーる。で、エリーやけに俺から離れてね?」
「い、いいでしょ⁉︎」
やっぱり、近距離に長時間接してたら限界時間がきてたのか。
あんまりしゃべらないなぁとは思ってたのは、極力関わらないため。子供達の前で症状はさらしたくないし、ジェフにも見せたくないから。
今も、ちょっと顔は青白いけど震えてはない。
人通りの少ない道を通ってても、僕やロイズさん達以外に知られたくないもの。
「まあ、無理して付き合わせたしな?……っと? スバル、悪りぃがこれとこれ持ってろ」
「へ?」
「スバル、下がって」
ジェフがいきなり止まって僕に紙袋と槍を押し付け、エリーちゃんも急に真剣な表情になって僕の前に出た。
前は二人の背で見えないけど、何か良くないのがあったのかな?
「……ほぉ、ガキでも俺の気配に気づくとはなぁ?」
頑張って隙間から前を覗き込んだけど、黒い影しか見えない。
ここが裏路地だからってのもあるだろうが、それにしても建物の影に溶け込み過ぎだ。
「うっわ、ぼっろ! エリー知り合いか?」
「……いいや、こんな薄汚い奴は知らないね」
「ぼ、ボロい言うな⁉︎」
どうやら、二人の目にははっきり映ってるようだけど、酷い言い方だ。
僕ももう少し目を凝らして見つめたら、だんだんと二人の言ってる意味がわかってきた。
「……どちら様?」
怪我で顔が変形してるくらい酷いし、二人が言うように服もぼろぼろで破けてる箇所が多い。
浮浪者ではないみたいだけど、本当に誰かわからないくらい不審者って感じの人でした。
「ひ、ひっど⁉︎ スーちゃん、俺がわかんねぇの⁉︎」
「すみませんが、ちっとも」
「っ⁉︎」
正直に言ったら、ショックが大き過ぎてその場に倒れ込んでしまった。
「嘘だろ嘘だろ⁉︎」
「……その声、あんた先日のバカ? 衛兵にひっ捕らえられたんじゃ⁉︎」
「え⁉︎」
エリーちゃんの言うことが本当なら、なんでこんなところに⁉︎
お兄さんらしきボロボロの人は、彼女の言葉に調子が戻ったのかすぐに立ち上がった。
「あんなとこ、抜け出せねぇ俺じゃねぇよ!」
「うっわ、こいつまさか自分のカルマ増やしただけのバカ?」
「その通り。多分、冒険者資格剥奪は当然。最低サファナからは追放命令も下されるだろうが、牢番の目をかいくぐって出てきたって訳だね」
「……エリザベス、やけに詳しいじゃねぇか? パン屋の店員だけのくせして」
「お生憎様。あたしは、れっきとしたランクBの冒険者でスバルの護衛だ!」
エリーちゃんが声を上げて両手を広げれば、一瞬強い光が辺りを覆った。
その光が消えれば、彼女の両手にはそれぞれ細身ながらも切れやすそうな剣が握られていました。
「お、お前がランクB⁉︎」
「別に証明カード見せてもいいけど、めんどくさいからね。……大人しく牢に戻らなきゃ、追放以上のカルマを背負うことになるよ? 最も、スバルの前にまた来た時点でアウトだ」
後ろからしか見えないけど、剣を構えるエリーちゃんかっこいい!
冒険者モードだから、男の人がどうのこうのって感じじゃなく気を引き締めて対応している。
だけど、何故かお兄さんは少したじろいだだけで怯んではいない。
「……はなっから戻る気はねぇよ! お前ら、行け!」
「「何⁉︎」」
お兄さんが叫べば、僕の背後から黒い影が伸びてきた。
少し振り返れば、別のボロボロのお兄さん達が僕のすぐ目の前に⁉︎
ジェフの槍は預かってても、扱えるはずのないそれを抱きしめるしか出来なかった。
バチィッ!
「い゛って⁉︎」
「さ、触れねぇ!」
僕も何が起きたかわからない。
ただ、あと少しで僕の肩を掴みかけた二つの腕が、硬い壁のようなのに阻まれてしまった。
「やっぱ効いたか? 持たせて正解だったな?」
この事をわかってたのか、ジェフは安心したように口笛を吹いてた。
「……あれ、まさか『破魔の聖槍』?」
「そっ。
よくはわからないけど、チートな武器ってことは理解出来ました。
つまりは、戦闘が出来ない僕にでも持ってれば大丈夫なアイテムってことかな?
「ジェフ、終わるまで持ってればいいの?」
「おぅ、すぐ片付けっからじっとしてろよ」
「はーい」
結界みたいなのをガンガン叩かれるけど、戦う二人を思えば我慢出来なくもない。
正面の方もあのお兄さん以外に何人かいたので、エリーちゃんは他を、ジェフはいつのまにか籠手みたいな防具をはめて腕を鳴らしていた。
「
「こ、こんの、ガキが⁉︎」
お兄さんの実年齢知らないけど、ジェフや僕の年ってそんな子供じゃないんだけど?
それはいいとして、飛びかかってきたお兄さんの攻撃をジェフが軽くかわしたら、彼は片膝を蹴り上げてお兄さんのみぞおちを攻撃。
当然、お兄さんの体が飛び上がり、そこを狙ってジェフの右手がアゴにアッパーを食らわす。
実にシンプルだったけど、お兄さん相当弱いのかそれだけでノックアウトされちゃいました。
「なんだ、弱っ⁉︎ 仮にDでも弱過ぎだろ?」
地面に倒れ込んだお兄さんがピクリとも動かないので、ジェフは今度僕の周りで結界を叩き続けてる人達を倒してくれた。
最後の一人が終わる頃には、エリーちゃんの方も片付いてたみたいで、結構な人が重なった山が出来てた。
「二人とも、つっよーい!」
「まあ、生業だしなぁ? エリーもさすがだな? 峰打ちでもその人数は疲れただろ」
「ぜんっぜん。ところで、蝶使って衛兵達呼ぶ?」
「そうだなぁ、頼んでいいか?」
僕を囲んでた結界とかは、ジェフが解除の呪文を唱えたらあっさりと。
他人に預ける場合は、この方法が絶対らしい。
エリーちゃんも剣を呪文で消してから蝶のセットを取り出そうとしたが、また何かに気づいたのか出すのをやめた。
「今度は誰だ⁉︎」
ジェフも籠手を構え直したが、相手はすぐに現れない。
が、少し強い風が吹くと、彼女の前にフード付きのマントを着た二人の人影があった。
『警戒なさらずとも。我々はあなた方の味方です』
『声と姿を見せられないのは、こちらの事情だが』
思いっきり警戒対象なのに、信じろって無理がある。
魔法なのか、声は機械で作ったように変えてるし、顔もフードの影で全然見えない。
背は高いし、多分男の人達だろうけど、エリーちゃんもジェフも警戒を解かなかった。