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第16話 再利用でラスク






 ◆◇◆







 ランチを堪能してから帰宅し、まずは着替え。
 作業もするけど、そのまま出かけるから少しラフなワンピースとエプロン。靴だけは履き替えて作業用のにした。

「じゃ、今回は古いバタールと食パンを使うね」

 バタールは、バケットより少し短いフランスパン。だから、名前と違ってバターは使っていません。
 お洒落なパン屋さんやコーヒーショップだと、これを使ってサンドイッチにするらしいが、うちでは作ってない。
 正直、固いし食べにくいから、主食用として取り扱っている。だけどその分買う人も限られてくるから、どうしてもあまりがちだ。
 これを、今日は再利用してみます。

「エリーちゃんには、バタールを1cm幅にスライスしてもらっていい?」
「ん、わかった」

 用意した二本をスライスしてもらってる間にオーブンを低めの設定で温める。
 そして、使う材料の下準備を終えてから彼女の隣で食パンをカットしていく。

「え、スバル。そんなに細くしていいの?」
「うん。パン粉とかフレンチトースト作るわけじゃないし」

 甘いものは合ってるけど、今回は全然違います。
 耳の部分も使って、だいたいひと口サイズに切り分けていく。半斤分出来上がったら、エリーちゃんの方も終わっていた。

「これを天板に並べて、焼くと言うより乾かすんだー」
「乾かす……ってことは、日持ちしやすくなるってこと?」
「うん、ラスクってお菓子に近いパンなんだ」
「それも君の世界の知恵?」
「国は違うけどねー」

 由来はよくわかってないけど、外国のお菓子だと言うのはたしか。
 オーブンに天板達を放り込んでから、下準備した材料をエリーちゃんに見せた。

「甘いものは色々種類があるんだけど、今日は簡単にチョコをかけたのにするね。あとは、塩っぱいのだけど……レイシーさんって好き嫌いある?」
「そんなになかった方かな? 好きなのは、お酒だけど」
「さすがは、ロイズさんのお母さん?」
「けど、酒の量はロイズさん負けてるらしいよ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、お酒にもぴったりのにしよっか」

 まずは、エリーちゃんに溶かしバターを作ってもらって僕はニンニクを普通のおろし金で擦っておく。
 オーブンの方も時々様子を見て、よく乾いてコンコンと音が出たら、外に出して冷ます。

「バターには擦ったにんにくとオリーブオイル少しを混ぜて、バタール半分食パン半分くらい浸してくれる?」
「ん、わかった。これ、またオーブンに入れておく?」
「あ、そうだね。出来たらお願い。浸した面を上にしてねー」
「りょーかい」

 三ヶ月も経つと、エリーちゃんもパン作りの応用が色々出来るようになってきた。
 最終的な仕上げは、錬金師の僕がしなきゃだけど、可能な範囲はすぐに立ち回り出来るようになって嬉しい。お陰で、だいぶ作業が楽になっています。

「こっちは、湯煎しておいた二種類のチョコを塗って」

 ミルクチョコとホワイトチョコをそれぞれバターやジャムを塗るようにして、パンの片面を覆わせる。
 チョコが乾けば、これは出来上がり。


『錬金完了〜♪』




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【スバル特製ラスク】


《ミルクチョコ(バタール・食パン)》
・体内の酒精を70%まで除去してくれる優れもの!
・サクサクのパンに甘い甘ーいミルクチョコは、甘党には新食感と思われる! おやつにもおつまみにも最高!
 →牛乳と食べれば言うことなし
・乾燥させたことで、五日ほど保存可能


《ホワイトチョコ(バタール・食パン)》
・体内の酒精を65%まで除去してくれる優れもの!
・ミルクチョコとは違い、少しさっぱりとした甘さが特徴! こちらもおやつやおつまみには最適!
 →牛乳よりも、ココアがオススメ!
・保存日数は四日




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 今回は面白い補正効果が出てきた。
 エリーちゃんにも教えようと思ったら、また錬金完了の声が頭に響いてくる。



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【スバル特製ラスク】


《ガーリックバター(バタール・食パン)》
・腰痛(持病・突発性)を75%まで軽減させてくれる
・塩っぱいラスクの代表。バターの甘ーい匂いとニンニクの香りが食欲をそそること間違いない!
*仕上げにパセリを振ることで、補正効果が5%upするかも!
・保存日数は五日


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 なんだか、こっちも独特な結果になっていた。

「酔い覚まし、と腰痛軽減?」

 自分で補正効果の付与は選べないけれど、今回の送り先にマッチし過ぎやしないだろうか?
 エリーちゃんにも説明すると、彼女も不思議がってくれた。

「あたしは錬金師じゃないからよくわかってないけど……一度、ポーションの錬金師に相談に乗ってもらった方がいいかもね」
「この街にいる?」
「ちょっとだけ変わり者なら。ロイズさんとうちのギルマスとは古馴染みだから信用はしていいよ。それより、夕飯前になるから届けよう」
「そうだね」

 今日はエリーちゃんが作ってくれる日だし、急がなくっちゃ。
 片付けを適度に終わらせてから、二人で商業ギルドとは逆方向の住宅街へ。
 エリーちゃんが言うには、ロイズさんのご両親だから少し大きめのお家だからわかりやすいんだって。
 夕方前だからか人もまばらになってきた分歩きやすかったが、段々と大きな家の壁が見えてきて緊張してきた。

「……ここ?」
「そう。ここがレイシーさん達の家」

 さすがは商業ギルドのマスターが息子さんのお宅なのか。
 ちょっとしたお金持ちみたいに大きなお家でした。
 エリーちゃんは迷うことなく呼び鈴を鳴らして少し。
 門からは初老の優しそうなおじさんが出てきました。

「おや、エリーちゃんじゃないですか。お久しぶりですね」
「ご無沙汰しています、ヨゼフさん」

 落ち着いて対応出来てるから、この人もエリーちゃんにとっては怖くない人なんだ?
 ヨゼフっておじさんはにこにこ笑っていると、後ろにいた僕にも気づいてくれました。

「おやおや、可愛らしいお嬢さん……いや、その髪だとロイズが教えてくれた坊ちゃんですかな?」
「え?」
「こちら、ロイズさんのお父様」
「初めましてですね、スバル君」
「ははは、はじめまして!」

 驚いたけど、ロイズさんのお父さんだったら僕の事情を聞いててもおかしくない。
 先にレイシーさんが聞いてたからだけど。
 慌てて挨拶すれば、ヨゼフさんは何故か僕の頭を撫でてくれました。

「予想以上に可愛いから、よく見ないとわからなかったですよ。ささ、レイシーさんは夕飯の支度をしてますがどうぞ上がってください」
「「お邪魔します」」

 せっかくのご厚意を断るわけにもいかず、中に入ることに。
 家の作りは、日本家屋の三階建てに近い。
 ここには、レイシーさんと二人で住んでてお子さん達はロイズさん以外も独立されてるそうだ。

「レイシーさん、エリーちゃんとスバル君が来てくれましたよー」
「おや、あの二人だったのかい? ちょうど今ミートパイが焼き上がったから食べていきなよ」
「それはいいですね。食器持ってきますよ」
「え、その!」
「今日はスバルと届け物をしに来ただけなんですが、いいんですか?」
「構いやしないよ。老人二人だけより大勢がいいんだから、付き合っておくれ」

 と、言うわけでご相伴に預かることになっちゃいました。




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【ラスクの由来】


作中にもあったように、二度焼きする事で固くなったパンを食べるために工夫された説があるようです。

『二度焼いた』が語源のビスケットも同様だそうですが、ラスクの名前はスペイン語かポルトガル語が英語に移入された言葉だとか。

「ネジパン」を意味していた rosca からきているというのがその説。
(ただし、現代では、rosca は、スペイン語でもポルトガル語でも「ドーナッツ」又は「ベーグル」状のものを意味します。)

しおり